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アイヌの昨日今日明日

◎渡部亮次郎の「頂門(ちょうもん)の一針」
⇒ http://archive.mag2.com/0000153821/index.html

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アイヌの昨日今日明日(上)
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           平井 修一

イザベラ・バード著「日本奥地紀行」を読んでいる。英国人旅行家で、
明治11(1878)年に西洋の女性として初めて東北・北海道を踏査した。
行程の多くは快適とは無縁のサバイバルであり、47歳とは思えぬバイタ
リティとチャレンジ精神には驚く。

脊椎の持病を抱えながら、翻訳者曰く「自己の忍耐力の限界を試そうと
いうマゾヒスティックな衝動に駆られた」かのような難行苦行の旅であ
る。

彼女はアイヌについて村に居住しながら細々と観察しており、とても興
味深い。当時のアイヌ人はどんな状況だったかを「北海道ウタリ協会」
のサイトで調べると――

明治政府は明治2年、開拓使を設置し、蝦夷地を「北海道」と改称した。
明治4年、戸籍法公布によりアイヌを平民に編入し、農具などを付与する
とともに入墨などのアイヌ伝統の習俗を禁止、日本語の習得を定め、開
拓使学校にはアイヌ子弟も入学した。

明治9年、アイヌに対する「創氏改名」を布達。翌10年にはアイヌ居住地
は官有地に組み入れられ、11年にはアイヌの呼称を「旧土人」に統一
(注:土着の人、土地の人の意)。

バード女史が訪ねたときのアイヌはおおよそ以上の状況にあるが、生活
振りは「未開人」のままだったようである。小生が全く知らなかったア
イヌの人々がそこにいる。

「どの民族よりもエスキモー人のタイプに近いのではないか。・・・そ
の大人(男性)は純粋のアイヌ人ではなかった。私はその顔型といい、
表情といい、これほど美しい顔を見たことがないと思う。

高貴で悲しげな、うっとりと夢見るような、柔和で知的な顔つきをして
いる。未開人の顔つきというよりも、むしろサー・ノエル・パトン(英
国の歴史画家)の描くキリスト像の顔に似ている。彼の態度は極めて上
品で、アイヌ語も日本語も話す」

「4人のアイヌ婦人たちは若くて綺麗であったが、裸足で、しっかりと
大股で歩いた。男たちとだいぶ笑い声を立てていたが、やがて七人全部
が人力車をひき、きゃあきゃあ笑いながら半マイルほど全速力で走った」

「アイヌ人は邪気のない民族である。進歩の天性はなく、あの多くの被
征服民族が消えて行ったと同じ運命の墓場に沈もうとしている」

「私はフォン・シーボルト氏に、これからもてなしを受けるアイヌ人に
対して親切に優しくすることがいかに大切かを伊藤に日本語で話してほ
しい、と頼んだ。伊藤はそれを聞いて、たいそう憤慨して言った。『ア
イヌ人を丁寧に扱うなんて! 彼らはただの犬です。人間ではありませ
ん』」

フォン・シーボルト氏とは、幕末期に日本に西洋医学を移植し、後に
「シーボルト事件」で追放されたフィリップ・フランツ・フォン・シー
ボルトの次男(通称:小シーボルト)。

青年期の明治2(1869)年、日本へ渡来、約30年間東京でオーストリア・
ハンガリー公使館に通訳官や外交官として勤めながら、父・大シーボル
トの未完成の日本研究大集成を完結するよう研究を重ねた。たまたまバ
ード女史と同時期に北海道に滞在していた。

伊藤というのは女史の通訳、18歳。重宝ながら抜け目なく、性格が悪い
が、西洋人に対して(表面的には)気後れするどころか日本は同等以上
だと気位が高い。その後の消息が気になる怪男児だ。

「平取(ビラトリ)はこの地方のアイヌ部落で最大のものであり、非常
に美しい場所にあって、森や山に囲まれている・・・私たちが部落の中
を通っていくと黄色い犬は吠え、女たちは恥ずかしそうに微笑した。男
たちは上品な挨拶をした・・・

彼らが言うには、(留守をしている)酋長のベンリは、私が滞在する間
は(酋長の家を)自分の家のように使ってくれと願っており、いろいろ
と生活習慣が違う点を許してもらいたい、とのことであった。(酋長の
甥の)シノンデと他の四人はかなりの日本語を話す」

「伊藤は通訳として立派に活躍してくれた・・・今では彼は、山アイヌ
人は思ったより良い人間だ、と言っている。『しかし』と彼は付け加え
て言った。『彼らの礼儀正しさも日本人から学んだものなのです!』」

「いちばん若い2人の女はとてもきれいである。私たち西洋人と同じほ
ど色が白い。彼らの美しさは、ばら色の頬をした田舎娘の美しさである。

彼女ら2人は、男たちのいるところでは言わなかったが、実は日本語が
話せる、ということが分かった。彼女らは伊藤に向かって生き生きと楽
しそうにおしゃべりをした」

若いアイヌに日本語が急速に浸透しつつあることを示している。アイヌ
にも文明開化の波が押し寄せてきたのだ。(次号完結)

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アイヌの昨日今日明日(下)
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            平井 修一

イザベラ・バード著「日本奥地紀行」から。

「彼らは日本政府に対して奇妙な恐怖――私にはばかばかしい恐怖と思
われるのだが――を抱いている。役人たちが彼らを脅迫し酷い目にあわ
せているからだ、とシーボルト氏は考えている。それはありうることで
あろう。

しかし、開拓使庁が彼らに好意を持っており、アイヌ人を(幕藩体制の)
被征服民族としての圧迫的な束縛から解放し、さらに彼らを人道的に正
当に取り扱っていることは、例えばアメリカ政府が北米インディアンを
取扱っているよりもはるかにまさる、と私は心から思っている」

バード女史は訪日前にアメリカ・カナダを踏査しているから、北米イン
ディアンの悲惨さを見聞していただろう。

彼らの多くは荒野の居留地に追いやられ、今ではアルコール漬けにされ
て消滅されつつあるように小生には思えるが、バード女史も酒を「アイ
ヌ民族の大害」と言う。アイヌも昔から酒は飲んでいただろうが、和人
との交易で容易に酒が入手できるために飲酒量が急増したようだ。

アイヌにとって飲酒が「神事」であることもそれに拍車をかけている。

「『神のために酒を飲むこと』が主要な『崇拝』行為である。かくして
酩酊と宗教は不可分のものであり、アイヌ人が酒を飲めば飲むほど、神
に対して信心が篤いことになり、神はそれだけ喜ぶことになる。酒以外
はなにも神を喜ばせる価値がないように見える」

小生のような飲兵衛には極楽的世界だ。

「彼らはある木の根から、また彼らの作った黍や日本産の米から、ある
種の酒を醸造する。しかし日本の酒が彼らの唯一の好物である。彼らは
儲けを全部はたいて日本酒を買い、それをものすごく多量に飲む。

泥酔こそは、これら哀れなる未開人の望む最高の幸福であり、『神々の
ために飲む』と信じ込んでいるために、泥酔状態は彼らにとって神聖な
ものとなる。男も女も同じようのこの悪徳にひたっている」

現在、アイヌ=アル中という話は聞かないから、教育などを通じて同化
していく中でこの悪習はなくなっていったのだろう。当時でもすでに酒
を飲まないアイヌもいた。

「(酋長の養子のピピチャリは)全くの禁酒家で、紋別でちょうど今漁
業に従事している多くのアイヌ人の中で、彼のほかに4人しか禁酒家は
いないという」

「ピピチャリに、なぜ酒を飲まないのか、と尋ねた。すると彼は真実に
満ちた簡潔な言葉で答えた。『酒は人間を犬のようにするから』」

「なんという奇妙な生活であろう! 何事も知らず、何事も望まず、わ
ずかに恐れるだけである。着ることと食べることの必要が生活の原動力
となる唯一の原理であり、酒が豊富にあることが唯一の善である!」

ところで話は一気に「今日のアイヌ」に飛ぶが、「アイヌ民族を先住民
族と認定するよう政府に求める初の国会決議が6日の衆参両院本会議で、
全会一致で採択された」(6月6日、毎日新聞)。

<これを受け町村信孝官房長官は両院本会議で、政府として初めてアイ
ヌを「先住民族」と認識することを表明し、正式な認定に前向きな姿勢
を示した。

政府は今後、「アイヌ有識者会議」(仮称)を設置し、先住民族と認め
た場合の先住権の内容などを検討する方針。アイヌの先住権を認めず北
海道開発を優先してきた明治以来のアイヌ政策の転換につながる可能性
が出てきた。

決議は昨年9月に国連で「先住民族の権利宣言」が採択されたことにより、
具体的な行動が求められていると指摘。

「我が国が近代化する過程において多数のアイヌの人々が差別され、貧
窮を余儀なくされたという歴史的事実を厳粛に受け止めなければならな
い」とし、先住民族としての認定と総合的な施策の確立を政府に求めた
>という。

「先住性」を基に独自の文化や生活の保護・再生を進める総合的な施策
の拡充を求めていた北海道ウタリ協会の加藤忠理事長は参院本会議を傍
聴後、「本当に感動した。これまでのアイヌ民族に対する不正義に終止
符を打ち、新たな視点でお互いを尊重する社会づくりの一歩にしてほし
い」と語った、という。

「アイヌの明日」はどうなるのか。北海道庁が06年に行った調査では、
道内にアイヌは2万3782人が居住している。我々は先住民族だ、広大な居
留地をよこせ、生活保護を手厚くしろ、事業資金を優先的に融資しろ、
市役所の仕事を斡旋しろ、などと要求するのだろうか。そうなればイン
ディアンの悲劇が日本でも起きる。

過日立ち読みした雑誌「フラッシュ」(講談社)で野中広務氏は同和行
政についてこう語っていた。
「差別利権は新たな差別を生む」

誠に至言、正論である。

ところで小生は縄文人か弥生人の末裔だが、アイヌは小生より「先住民
族」なのか? 科学的根拠を示して欲しいものである。(おわり)

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