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 中国の国防費が初めて1兆元(16兆5千億円)を超える。

 昨年からの伸びは7%程度になるという。近年まで続いた10%以上の伸びに比べれば若干減速したとはいえ、日本の防衛費の3倍を超える予算規模だ。

 なぜそんな拡張の必要があるのか。内訳がわからず、意図も明らかではない。この不透明さ自体が脅威であり、地域の安定に責任をもつ大国の姿からは、ほど遠い。

 全国人民代表大会の報道官は、対国内総生産(GDP)比で1・3%程度であるとしたうえ、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国は対GDP比2%への増強の目標を掲げていることを引き合いに出した。

 中国だけが批判されるのは不当だというのだろう。だが、これは単純に対GDP比で論じて済む話ではない。東アジアにおいて中国軍の大きさが突出し、バランスを失しているからこそ問題なのだ。

 しかも公表された数字には軍関連の研究開発や輸入が含まれず、実際はもっと多いとの見方で西側専門家は一致している。

 近年の中国軍は陸軍よりも海・空軍に重点を置く。「地域の安全を守るため」だというが、東南アジア各国の軍拡という反作用を引き起こしている。

 中国初の空母「遼寧」は外洋に出るようになり、さらに新空母を建造中と伝えられる。潜水艦を含め海軍力は飛躍的に向上した。軍用機が宮古島沖を通過して西太平洋に出ることも増えた。ミサイルは短距離から長距離まで幅広く配備し、核弾頭を着実に増やしている。

 当面の焦点は南シナ海である。昨年の常設仲裁裁判所の判決で、スプラトリー(南沙)諸島と周辺海域での中国の権利主張は否定された。しかし中国は岩礁の埋め立てと拠点づくりをやめていない。米研究機関によれば、ミサイル格納庫と疑われる建物が完成したという。

 折しもトランプ米大統領が軍増強の方針を示している。太平洋を挟んだ大国同士が露骨な力の対抗に陥ることは避けねばならない。中国は、岩礁を拠点化するような緊張を高める行動をやめるべきだ。

 海運に依存する経済大国の中国のみならず、周辺各国にとって南シナ海は死活的に重要な航路だ。中国は各国と協調して、海域の平和のために建設的な役割を果たさねばならない。

 日本を含む関係各国は、その方向へ中国を導く努力がいっそう求められている。軍拡の連鎖は、どの国民の利益にもならないことを改めて確認したい。

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