週刊現代 アメリカ 北朝鮮
アメリカが進める金正恩政権「転覆計画」の全貌
正男暗殺の引き金はこれだった
近藤 大介 プロフィール

ポスト金正恩の名前

これに対して、金正恩政権も対抗心を露にしている。安倍首相とトランプ大統領がフロリダの大統領の別荘でディナーを共にしていた日本時間2月12日朝、中距離弾道ミサイル北極星2型を発射した。

「金正恩委員長は、今年の国民向け新年の辞で、『ICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験の最終準備に入った』と述べたが、あの言葉は事実だ。

本当にアメリカ大陸に落としたら戦争になるので、アメリカ大陸とハワイとの間の太平洋上に落下させるつもりでいる。発射時期は、3月の米韓合同軍事演習の終了後が有力だ」(北朝鮮の事情通)

今後、米朝の神経戦が本格化すると思われるが、中国はどう考えているのか。中国の外交関係者が語る。

「習近平主席が望んでいるのは、地域の安定であって金正恩政権の安定ではない。金正恩政権の安定を望むなら、この4年間で一度くらい金正恩委員長と首脳会談を行っているはずだからだ。

今後、北朝鮮有事が起こって金正恩一家が中国に亡命を求めてきても、『黄長方式』で対処することに決めている。すなわち、'97年に黄長・朝鮮労働党書記が北京の韓国領事館に亡命を求めた際、2ヵ月ほどの滞在しか認めなかったように、金正恩一家にも、すぐに第三国へ移ってもらうということだ」

それでは今後、北朝鮮有事になった場合、アメリカは誰を「ポスト金正恩」に据えるのか。

 

長男の金正男が消されたいま、平壌在住の次男・金正哲(34歳)の名前が真っ先に思い浮かぶが、その選択肢はないだろう。

私は以前、中国で金正哲に、10時間にわたって話を聞いたことがある。だが、彼がまったく政治に関わる意思がないことは明白だった。

金正恩が父・金正日の「強さ」と「非情さ」を継いだとすれば、金正哲は母・高容姫の「女々しさ」と「優しさ」を継いだ。およそ政治家向きのタイプではないのだ。

代わって「本命」になりそうなのは、金平日・駐チェコ大使(62歳)である。

金平日は、建国の父・金日成主席と、後妻の金聖愛との間に、朝鮮戦争休戦直後の1954年に生まれた。金日成総合大学を優秀な成績で卒業し、朝鮮人民軍の護衛司令部や総参謀部の要職を歴任した。

だが'74年に、金日成主席の後継者が異母兄の金正日に決まったことで、'79年にユーゴスラビアの北朝鮮大使館に転出。'88年以降、駐ハンガリー大使、駐ブルガリア大使、駐フィンランド大使、駐ポーランド大使などを歴任し、'15年から駐チェコ大使を務めている。

その間、'94年に北朝鮮核危機が起こった時、金日成主席は金正日を一時、軟禁し、金平日を平壌に呼び戻した。そして、訪朝したカーター元米大統領との会談に同席させ、「金平日後継」を印象づけたのだった。

だが、この米朝会談の翌月に金日成主席が「怪死」し、金正日が復活。金平日は再び国外に放逐された。

その意味で、金正恩政権の転覆を画策するトランプ政権の新たな「意中の人」が、金平日駐チェコ大使と言えるだろう。換言すれば、最も命が危険な人物ということだ。
いずれにしても、今後トランプ政権は、金正恩暗殺もオプションに入れてくるだろう。

北朝鮮有事は、すでに始まっている。

近藤大介(こんどう・だいすけ)
本誌特別編集委員。著書に『習近平は必ず金正恩を殺す』『金正恩の正体』他多数。最新刊は『活中論

「週刊現代」2017年3月4日号より