「鴻海がシャープを傘下に入れたのはまだ許容できる。しかし、東芝は全く別モノだ。鴻海は主要工場が中国本土にあり、仮に高度な技術の結晶であるフラッシュメモリーが中国で生産されるようなことになれば、その技術は直ちに中国に盗まれる。そんなことは断じて認められない。体を張って阻止する」と言ったのである。
同幹部は続けて次のように語った。
「半導体の安定供給を必要とするIT大手の、例えばアップルに売ったほうがまだマシだ。中国ではなく米国だ」――。
半導体メーカー同業他社から出資を仰ぐことや同業他社への売却はそう簡単ではない。となると、米アップルへの売却は、意表を突く選択肢だが、意外とリアリティがあるかもしれない。
東芝はかつて三菱重工、日立製作所と並んで原子炉メーカーの「御三家」と言われた。そして、パナソニック、日立、三菱電機、ソニー、NECなどと競い合う日本を代表する電気機器メーカーでもあった。
では、なぜかくも無残なことになったのか。
2000年代後半の同社経営トップであった西田厚聡社長(後に会長)と佐々木則夫原子力事業本部長(同社長)がWH買収を決断したのだが、その経営判断の誤りに尽きる。一言でいえば、「ババ」を掴まされたのだ。
危機的状況にあった会社を省みることなく、一人は「財界総理」の経団連会長に執着し、もう一人が政府の産業競争力会議メンバー入りに狂奔していたのだ。
先の経済産業省幹部は「西田さんは日立の川村(隆元会長)さんとは天と地ほど異なりますね。この経営者としての違いが、今日の日立と東芝の差を生んだと言っていいでしょう」と、当夜の話を締め括った。