米国の精神はよみがえり、偉大な米国の新たな章が始まっている--。トランプ米大統領は連邦議会での施政方針演説で力説した。
1月20日の就任時に比べれば明るくソフトな演説だった。だが、さかんに拍手を送る共和党議員に対し野党民主党の議員は硬い表情が目立ち、国内の分断を印象付けた。
大統領は説いた。「ささいな争い」は過去のものとして「夢を共有する勇気」を持とうと。だが、米国の伝統的な価値観や「エスタブリッシュメント(既成の権威)」を嘲笑してきたのは当のトランプ氏だ。
一部メディアを「フェイク(偽)ニュース」「人々の敵だ」と攻撃したのもトランプ大統領だ。民主党はおいそれと超党派の協力はできまいし、演説を境にメディアとトランプ政権の融和が進むとも思えない。
共和党内にも不満はくすぶる。民主党の女性議員らは大統領選でのトランプ氏の女性蔑視発言に抗議して白いジャケット姿で出席した。議会にもさまざまな亀裂が走っている。
最も注目されたのは「米国史上最大級」の軍事費増額だった。今年10月からの会計年度で、約1割増となる540億ドル(約6兆円)の増額を図る。その財源として省庁の非国防費を大幅に減額するというのだ。
その根底には、強大な軍事力によって他国の挑発や攻撃をけん制するとともに戦争になれば確実に勝つという、冷戦時からの思想がある。トランプ政権が手本とするのは、「強い米国」を掲げた1980年代のレーガン政権(共和党)だろう。
トランプ大統領は北朝鮮や中国の不穏な動きに対抗するにも軍拡が必要だと思っているようだが、軍事偏重の危うさもある。約120人の退役将軍らが「危機の多くは軍事的手段だけでは解決できない」とする書簡を議会に送ったのはもっともだ。
国際社会の危機に対して米国は動いてくれるのか、という不安もあろう。米国の軍事力は従来、世界の「公共財」とみられていた。だが、トランプ大統領はオバマ政権同様、「米国は世界の警察官ではない」との姿勢を取り、同盟国には防衛費の負担増を求めてきた。
この日の演説では、自分は米国の代表であり世界の代表ではないと言明した。一連の発言は「米国ばかり頼らず、米国も同盟国も軍事費を増やそう」と言っているようにも聞こえる。そんな姿勢がロシアや中国の軍拡を呼ぶことも想像に難くない。
折から国連安保理ではシリア制裁決議案に中露が拒否権を使い、トランプ国連外交は早くもつまずいた。冷戦中と違って多様な勢力がせめぎあう今日、世界を説得して動かせる信用と外交力こそ大事ではないか。