数ある省庁の中で、経済産業省は民間企業とも幅広く付き合い、情報交換を重ねることを強みとしてきた。そんな組織の特徴は、もはや過去のものになったのだろうか。

 今週初めから、経産省が各部署の執務室の扉に原則としてカギをかけ、開閉のたびに職員がカードなどで解除する運用を始めた。訪問者とは面談専用のスペースで応接する。「情報管理の必要性が高まる中、行政の信頼性を確保するため」という。

 取材するメディア関係者にも同様の措置をとり、「メモ取り担当の職員が同席」「広報室への報告を徹底」などの対応マニュアルも配られた。実際に、メモ取り担当の職員が雑談中さえ同席する事例が出ている。

 民間企業でも情報管理の徹底や広報対応の一元化が進んでいる。だが、行政機関と民間企業には大きな違いがある。企業が自らの利益を増やそうとするのに対し、行政はあくまで国民生活に資すべき存在だ。

 情報公開法はその第1条で「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進」をうたっている。国民に開かれ、「知る権利」に応えることが原則だ。それこそが、行政への信頼性につながる。

 官庁に集まる膨大な情報の中に秘密保持を要するものはあるだろう。だが、部屋にカギをかけ、部外者を入れないという「密室化」が不可欠とは思えない。警察庁や国税庁でも施錠は一部の部屋にとどまる。

 経産省の今回の対策のきっかけは、日米経済協力の検討案が報じられたことだとの見方もある。世耕経産相は「個別案件とはまったく関係ない」「取材を規制するようなことは考えていない」と説明する。ならばなぜ今、対策が必要なのか、疑問は増すばかりだ。

 政策立案の面から見ても、外部と壁をつくり、接点が減ってしまっては、むしろマイナスだろう。省外の知見や批判を積極的に取り込んでこそ、政策は洗練され、納得度も増すはずだ。

 他省庁と比べて自由な気風で知られた経産省が、今回のように突出した対策をとれば、同様の動きが広がりかねない。折しも、南スーダンへの自衛隊の派遣や、国有地払い下げをめぐって、官庁の記録の短期間での「廃棄」が問題になっている。「知らしむべからず」の傾向が助長されてはならない。

 経産省には施錠の再検討を求める。取材対応マニュアルについては、記者会の抗議を受けて「改善」するとの姿勢を示しているが、明確な撤回が必要だ。