【解説】セッションズ米司法長官は続投できるのか
- 2017年03月3日
アンソニー・ザーチャー北米担当記者
ドナルド・トランプ米大統領が28日夜に初めて行った議会演説は、広く好感され、良い空気を生み出した。その好感の時代は、しばらく続いた。えーと、23時間もの間。しかしその後は元通りで、ロシアとトランプ陣営の関係がニュース記事の見出しを飾っている。
現時点で確実に判明していることが、いくつかある。
ジェフ・セッションズ米司法長官は上院議員だった昨年、トランプ氏の大統領選を積極的に支援し助言していた。そしてその渦中で、ロシアのセルゲイ・キスリャク駐米大使と2度にわたって会談していた。
トランプ政権の司法長官、つまり米政府の法執行責任者として指名されたセッションズ氏は、上院承認のための公聴会ならびに文書で、2016年大統領選をめぐりロシア政府関係者と接触したことがあるか尋ねられた。
「私はあの大統領選で1度か2度、(トランプ氏の)代理と呼ばれたことは何度かあったが、ロシア人たちと連絡は取っていない」 。セッションズ氏は承認公聴会でこう述べた。
セッションズ氏はここへきて、トランプ大統領の選挙活動に関する司法省の一切の捜査から身を引いて関与しないことにすると発表した。
こうした事実関係の裏には、大量の疑問があり、答えはやや不確かだ。数多の疑問の中でも特に重要なものをいくつか挙げた。
セルゲイ・キスリャク――なぜこの名前に聞き覚えがあるのか
2008年にロシアの駐米大使となったキスリャク氏は今年初めにも、数々のニュース記事の見出しを飾った。その時も、トランプ氏の重要側近のひとりと接触していたことが話題になっていた。この時の当事者は、国家安全保障問題担当の大統領補佐官に指名されたマイケル・フリン退役将軍で、フリン氏は大統領選後にロシア政府関係者と接触していたとして、連邦捜査局の捜査を受けていた。
フリン氏は確かにキスリャク大使と12月末に会談したと認めた。しかしロシア政府による米大統領選介入を理由にオバマ政権が実施した対ロ制裁の解除について、話し合ったわけではないと否定していた。
後に米政府の複数の情報機関は、フリン氏の発言は事実と異なると指摘。大統領は後に、フリン氏に辞任を求めた。
上院議員が外国の大使と話をするのは異例だろうか
セッションズ氏とキスリャク大使の接触について尋ねられた司法省報道官は、米紙ワシントン・ポストに対して、セッションズ上院議員は上院軍事委員会の幹部として外国の大使と「25回以上、会話している」と答えた。これを受けて同紙は、同委員会の他の委員26人に確認。そのうち20人は、ロシア大使とは会話していないと答えた。
クレア・マキャスキル上院議員(民主党)は、「軍事委員会の委員を10年務めてきたが」とツイート。「ロシア大使から電話がかかってきたことも、会ったこともない。一度もない。外国の大使が電話をかけるのは、外交委員会の委員だ」。
しかし、マキャスキル議員のツイートを点検すると、2013年と2015年に、ロシア大使と会ったとツイートしているのが分かる。これについて同議員は、軍事委員会の委員として会ったわけでもなく、一対一の会談ではなかったと説明している。
下院情報委員会の委員長だったマイク・ロジャース元下院議員(共和党)は、上院情報委員会の委員が外国大使と会うのは「通常のこと」だと述べた。ジョー・マンチン上院議員(民主党)も同じ意見だ。
2日朝にCNNに出演したマンチン議員は、「自分の立場上、ほかの上院議員たちと一緒に、まとまって、ロシア大使と会ったことはある」と発言。「自分の正式な職務の一環としてで、なんでもないことだ。それが僕の仕事だ」と議員は述べた。
大使と会うのが通常のことなら、なぜ話題を避けるのか
ならば、これが肝心の質問だ。連邦議会の民主党も、トランプ氏の対抗勢力も、こぞってこの点に集中しているように見える。
「もし何も問題がないなら、なぜすべてを明かして、真実をありのまま話さないのか」
民主党のチャック・シューマー上院院内総務は2日の記者会見で、このように問いただした。
ワシントン・ポスト紙の記事が出てからというもの、セッションズ長官や複数の代理人は、矢継ぎ早に反論を重ねている。ついうっかり忘れていたという説明から、重要だと思わなかった、関連するとは思わなかったなどに至るまで。
「ロシア政府の関係者や仲介者と、トランプ氏の大統領選について会談したことはない」 。セッションズ氏は2日午後の記者会見でこう話した。
民主党は、この言い分をまったく受け入れていない。
民主党のイライジャ・カミングス下院議員はこう指摘する。「セッションズ議員が宣誓下で『ロシアとやりとりしていない』と証言した時、この発言は明らかに事実と異なっていた。しかし議員はこの発言を何週間も放置していた」、「さらに大統領が全国民を前に、自分の大統領選の顧問の誰かがロシア側と話していたなど、自分は承知していないと主張するのを目にしながら、(セッションズ氏は)自分の発言をそのままにしていた」。
フリン前補佐官の辞任騒ぎの間、トランプ氏はロシアを含め外国首脳と連絡を取り合うことは容認されるどころか、推奨されることだと、フリン氏を擁護した。その方針が通用しなくなったのは、フリン氏が事実を報道陣や国民に隠していただけでなく、政権そのものにも隠していたという明確な証拠が露呈したからだった。
セッションズ氏はその後、確かに大使と2度にわたり会談したし、承認公聴会で触れるべきだったが、公聴会で聞かれたのはロシア当局者との継続的な接触についてだったと述べている。
司法長官のこの説明については、単に言い繕っているだけだと批判する声も多い。
フリン氏の時と同様に、ロシアとの接触そのものよりも、それをまず隠したことの方が、今では大きな問題になっている。
今は誰がこの問題を捜査しているのか
2016年大統領選にロシア政府が介入した可能性について、連邦捜査局(FBI)を含め複数の米情報機関が捜査を継続している。トランプ陣営関係者とロシア当局との関係も、捜査対象に含まれる。
たとえば1月末には、キスリャク大使との接触についてFBIがフリン氏を事情聴取している。
捜査に加えて、上下両院の情報委員会がすでに調査を決定しているが、具体的な動きはまだ見せていない。両院の情報委員会はそれぞれ、ロシア政府とのやりとりについてフリン氏をはじめトランプ陣営関係者を証人喚問する可能性がある。
民主党の中には、通常業務を抱える通常の委員会による調査ではなく、この問題に専念する特別委員会の設立を呼び掛ける声もあるが、今のところはあまり支持を集めていない。
上院のシューマー院内総務をはじめ複数の民主党議員は、クリントン政権でのケネス・スター独立検察官のように、捜査を主導する独立検察官の任命を要求している。独立検察官による捜査は、ホワイトハウスの制御を受けにくく、捜査範囲が大きく拡大することもあるため、ホワイトハウスにとっては懸念材料となり得る。
たとえばスター検察官による捜査は、そもそもはクリントン大統領の知事時代の不動産取引をめぐる捜査から始まったが、最終的には、ホワイトハウスのインターンとの性的関係について嘘をついた大統領に対する弾劾勧告につながった。
セッションズ長官は続行できるのか
FBIのロシア関連捜査から司法長官として身を引くよう、両党から要求が相次いだ。その要請は次第にすさまじく熱を帯び、セッションズ氏はついに折れた。しかし司法長官はその上で、捜査不干渉を決めたのは司法省のキャリア官僚たちと協議した結果であり、自分がトランプ陣営に関与していたからで、ここへきてロシアとの接触について事実が明らかになったことは決断とは無関係だと強調した。
一方の民主党は、捜査不干渉だけでは満足せず、今ではセッションズ氏の長官辞任そのものを要求している。
イベット・クラーク下院議員は、「ジェフ・セッションズはともかくも、米国民の信頼を得ていない」、「もう辞任すべきだ」とツイートした。
セッションズ氏は大統領ときわめて親しい関係にあるため、辞任の可能性は少ないように思える。とは言うものの、フリン氏も同じだったが、それでも結局は退場を余儀なくされた。
今の事態について特に共和党は、同じようなパターンが繰り返されていることを何より気にするべきだ。ロシア政府との接触について、大統領の側近たちは同じようなごまかしと説明回避を重ねている。
このような事態が度重なるごとに、疑問や捜査は増え、一体ほかに何があるのかという憶測も増えていく。