昨日道を歩いていたら何やら茶色い物体が落ちていた。
何だろう、と思って思わず足を止めてみたんだけど、なんか人の髪の毛らしいんだよね。気持ち悪い気がするのは僕だけだろうか。
普通の道に落ちている
そう、本当に普通の道端に落ちていたんだ。しかも髪の毛の切れ端がだよ。たぶん女の人の髪の毛だと思う。束になって長めで茶色だったからね。
いや。
こういう時こそ固定観念は良くないね。もしかすると男の人の髪の毛かもしれない。茶色のロン毛の髪の毛の男の人も中にはいるからね。そう高見沢さんだよ。THE ALFEEの。そうだとしたら僕はなんて惜しいことをしたんだろう。
取っておけばプレミアもんだよ。一生大切にするだろうね。だって高見沢さんの髪の毛を拾ったんだから。びっくりだよ。どうすればいいんだろう。まずは周りをきょろきょろ見るよね。
だって誰かかっさらう人がいるかもしれない。みんな高見沢さんの髪の毛を狙っているんだ。だから僕がこの髪の毛を拾った時点で周りのみんなは敵なんだ。絶対に負けられない戦いが始まる。僕は家に帰るまで高見沢さんの髪の毛を誰にも取られないでいれるだろうか。
全く惜しいことをしてしまった。今から戻っても多分その髪の毛はもうないだろう。違う人が拾ったはずだ。そういえば僕が髪の毛をスルーした後に、確かお婆さんが僕の後ろを歩いていたんだよね。
ということはあの髪の毛はお婆さんの手に渡ったんだろう。
きっと今頃感動して心臓がバクバクしているに違いない。コンサートに行きたくても行けなかったあのころ。親にALFEEのライブに行くなら仕事しろ、と怒鳴られたあのころ。そして80にもなってたまたま歩いていたら高見沢さんの髪の毛を拾ってしまった。
きっと遺言書とともに大切にしまうだろうね。そして自分の命が尽きるときにそれを親族に見てもらうんだろう。親族は驚くよ。だって遺言書に高見沢さんの髪の毛が挟まってるんだから。
その瞬間、相続の話は吹っ飛ぶ。相続なんていらない。誰がこの髪の毛をもらうんだ、っていう大げんかの始まりさ。結局お婆さんの一番の相続は高見沢さんの髪の毛だったんだ。
あのお婆さんはきっとそんなことを想像しながら今頃、遺言書にそっと髪の毛を挟んでいるに違いない。そして明日も何事もなかったかのように同じ道を歩くんだ。坂崎幸之助さんの髪の毛を探して。
僕はそんなおばあさんに言いたい。
おばあさん!
それ・・・
僕も欲しい! と。