Bio hazard 5
ブラインドの隙間から差し込むひかりが、一日の始まりを告げていた。
きみがいなくなったって、こうして朝が訪れる。何事も無かったように日々は過ぎて行く。
室内に籠ったアルコール臭が吐き気を誘った。重い頭を揺らして漸く起き上がるーー目眩を堪えて、立つ。傍らの鏡には、草臥れた男の貌が映っていた。ふらつく脚に毒づきながらバスルームへ向かう。転がる空き瓶に躓いて、派手な音を立てた。
空虚なこの部屋は、今の俺そのものだ。
柔らかなひかりが好きだと言ってたフロアランプはとうに点かなくなって、蜘蛛の巣の残骸がこびりついてる。きみが寝そべって本を読んでたカウチにはベタついた染みが広がっていて、端の革が少しめくれていた。そこかしこに残っていた筈のきみの気配が消えてからどのくらい経ったろう?幻を抱いて、もがいている俺。幸せな日々の残滓をかき集めてただ、生きている、俺。
ーーカルロス・オリヴィエラ。おまえはどうして、今も生き存えてるんだ?彼女はもういないのに。どうして、俺はーー…。
目頭を、押さえた。
シャワーでは無く、カランの栓を捻った。安アパートの水が湯に変わるには、時間がかかる。身体を沈められるほどに溜めようと思えば尚の事。それでもバスタブに浸かって染み付いた臭いを落としてしまいたかった。
「ーー…っ」
髭を当たろうと手を伸ばした剃刀が指先を滑った。勢い良く注がれる湯に紅の色が混じる。小さな花の様なそれは一瞬鮮やかに煌めいて消えた。唐突に思い出す。激しい水音に混じってきみが囁いているーー生きて、と。
ああそうだ、きみが生きろと言ったんだった。決して諦めるな、と。それは遠い昔に消えた都市でもそうだったし、きみが消える前夜でもそうだった。必ず生き延びろと。どんなカタチであれ、生きていて欲しいとーー俺のもとへ還って来る、その日まで。
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