経済産業省が2月28日から庁舎内の執務室に鍵をかけた。これに対して、一部のマスコミや識者は「情報公開に逆行する」などと批判している。いまどき何を言っているのか。こんな調子だから、記者が世間からバカにされるのだ。
役所の事情に詳しくない読者に説明すると、経産省はこれまで大臣室などを除いて、各課執務室への記者の立ち入りが基本的に自由だった。そもそも記者たちは国会が発行する記者パスさえ持っていれば、庁舎にノーチェックで入れる。
一般人は庁舎の玄関で出入りをチェックされているから、これは記者の特権である。それに加えて、記者は各課への出入りも自由だったのだ。一般人が各課を訪問しようと思えば、最初の玄関で申請しなければならない。
新聞やテレビの記者には「記者クラブ」の部屋も用意されていて、経産省担当の記者たちは毎日、そこに出勤する。記者たちはクラブの隣にある会見室で日常的に開かれる記者会見に出席して記事を書いている。
記者が特定のテーマを取材しようと思えば、どうするか。まずは担当課に連絡し、課長や課長補佐に取材面談の約束をとって出向く。だが、事前のアポイントなしでいきなり出向いたとしても、相手が応じてくれさえすれば、取材が可能だった。部屋に鍵はかかっていなかったからだ。
ところが今回、執務室が施錠されてしまった。そこで記者たちは「それじゃ部屋に入れないじゃないか。取材制限だ」と騒いでいるのである。
たとえば、毎日新聞は施錠に加えて、取材対応する職員も限定するなどの新しい措置について「情報公開に逆行するとの懸念の声も出ている」と報じている(http://mainichi.jp/articles/20170226/k00/00m/020/117000c)。信濃毎日新聞も「ドアに鍵がかかると報道機関の取材が制約され、憲法が国民に保障する『知る権利』が損なわれる」(http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170301/KT170228ETI090002000.php)などと社説で批判した。
だが、冷静に考えてもらいたい。
そもそも施錠と情報公開に何の関係があるのか。公開されるべき情報は公開を求め、記者は取材を申し込めばいい。経産省は取材に応じると言っているのだから、拒否されたらそこで初めて「取材制限」と批判できる。
物理的に部屋に鍵がかけられたら、とたんに情報が出なくなるわけではない。
それなのになぜ、こんな話になるかといえば、実は記者たちが「施錠されたら入手できにくくなる情報がある」と心配しているからだ。「施錠されると入手できない情報」とは何か。ずばり、盗み見と書類をパクって得た情報である。
テレビ朝日の報道ステーションは、経産省が施錠したのは「日米首脳会談に向け、アメリカへの投資に日本の年金基金を使うという案が事前に漏れたためと指摘されている」と報じている(http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20170227-00000047-ann-bus_all、ただし経産省は否定)。
つまり、経産省は「記者が机の上の書類を盗み見したか、パクってしまったのではないか」と疑っていて「施錠しないと今後も情報が漏れかねない」と心配しているのだ。
読者は「まさか、そんなことがあるのか」と思われるかもしれない。ところが、記者が役人の机の上にある書類を盗み見したり、丸ごとパクってしまうというのは実際にある。
それは良くて偶然、悪ければ犯罪にも等しい行為だ。残念ながら、取材の現場では、そんな記者が往々にして「優秀」と誉められこそすれ「取材倫理に反する」とか、まして「犯罪だ」などと非難されることはない。