時代の正体〈447〉「私の施設で彼が働いていたら、事件は起きなかったか」 ある施設長の告白

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/02/25 11:42 更新:2017/02/25 12:09
 【時代の正体取材班=成田 洋樹】「障害者を排除するという被告の極端な考え方は、施設で働いたからこそエスカレートしたのではないか」。相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた元職員による大量殺傷事件について、そう問題提起する施設長が川崎市にいる。排除や虐待につながる差別感情の芽はどの施設にも潜在しているのではないかと考えるからだ。「私が勤める施設で彼が働いていたら、事件は起きなかっただろうか」。自身への重い問い掛けと向き合い続けている。

「障害者を排除するという極端な考え方は、施設のありようがエスカレートさせたのでないか」と話す中山施設長(左)と佐野副施設長

「障害者を排除するという極端な考え方は、施設のありようがエスカレートさせたのでないか」と話す中山施設長(左)と佐野副施設長


潜在


 障害者施設「桜の風」(同市中原区)の中山満施設長(66)は、高齢の元アルバイト職員の言葉にがくぜんとした。

 「気持ちは分かるけど、殺しちゃいけないよね」

 昨年7月26日の事件の数日後、たまたま街中で出くわし、交わした会話。話の流れから「気持ち」が指しているのは、逮捕直後、警察の調べに供述した「障害者なんていなくなればいい」だと受け取った。仕事熱心で優しい人柄だった元アルバイト職員の思わぬ共感に、身近に潜む問題の根を突き付けられる思いだった。

 障害者に接し、十分理解があると思われる人ですらとらわれてしまう差別感情の芽は、どのようにして生まれるのか。施設のありようと無関係とは言い切れない、と中山施設長は言う。

 「施設では職員と障害者の間で主従関係が生じやすい。(行動を改めない入所者に)何度も言っただろうと、私だって言いたくなってしまうときがある。少しでも油断すると、上から目線になる恐れがある」

 入所者の呼称一つとっても注意は必要だと指摘する。親しみを込めて「ちゃん」付けや、あだ名で呼ぶことが主従関係に陥りかねないとして、桜の風では「さん」で呼ぶことを励行している。

 「大人の入所者に対して、子どもに接するような言い方をすれば、相手も『従』の役割を果たそうとしてしまうことがある。やがて職員の顔色をうかがったり、こびを売ったりするような入所者も出てくる」

 内心は違っても従わざるを得ないという、すでにしてゆがんだ関係。職員の心理はどうなるのか。「自分の言うことを何でも聞くので気持ちよくなる。支配下に置いているような感覚になる。周りの職員からも『言うことを聞かせられる、支援が上手な人』と評価する雰囲気が漂うようになる」

 エスカレートすれば、命令口調になり、尊大な態度を取るようになる。「手間の掛かる人たちの面倒を見てやっている自分は偉い」「自分が生殺与奪の権限を持っている」。第三者の目が入りにくい閉鎖的な施設には、思い違いが生じる危うさが常に存在している。中山施設長は「だから職員は高い倫理観を持ち、『落とし穴』を自覚しなければならない」と警鐘を鳴らす。

COMMENTS

facebook コメントの表示/非表示

PR