暴力団幹部を優遇したのではないか。大学病院がそういう疑いを持たれること自体ゆゆしき事態だ。
京都府立医大付属病院が京都府警の強制捜査を受けた。指定暴力団山口組系組長の病状について虚偽の診断書類を作成し、検察に提出した疑いが持たれている。組長は恐喝事件で実刑判決が確定したが、この書類提出などによって刑務所への収容手続きが止まった。
組長は公判中の2014年、持病が悪化し、付属病院で腎移植手術を受けた。それまでは別の病院で治療を受けており、どういう経緯で付属病院が受け入れを決めたのかなど不透明な部分が多い。
その一つが、吉川敏一学長が組長と面識があったという指摘だ。捜査関係者によると、2人は京都府警OBの仲介で知り合い、会食を複数回したとされる。
学長はきのう記者会見し、組長との親密な関係を否定した。初めて会ったのは、受診のため病院に来た組長が家族と一緒に学長応接室へあいさつに来た時だという。その後、学長がよく行く飲食店で2回ほど偶然会い、体調のアドバイスをしただけだと説明した。虚偽書類作成の指示や関与も一切ないと述べた。
それでも、組長が移植手術を受ける際に大学幹部の介在があったのではないかという疑いが、今回の説明でぬぐい去れたとはいえない。
暴力団幹部と飲食店で会話することは軽率な行動と批判されてもやむを得ない。診察に来た患者が容易に学長と面会できるのかという疑問も残る。
学長は公立大学のトップであると同時に医師でもある。教育者と医師という二重の意味で高い倫理観が求められる。反社会勢力との関係を疑われる行為は慎むべきだ。
学内人事を審議する評議会は学長に対し、辞任を勧告した。学長は「不正はない」として拒否したが、勧告に至った責任を重く受け止める必要がある。
評議会は学長を選ぶ権限を持つ学内の選考会議に解任を請求する。聞き取り調査などを進めて、病院と組長との関係や事件への関与について明らかになった事実を示すべきだ。
京都府と府立医大を運営する府公立大学法人もそれぞれ調査委員会を設置した。今回の事態の重大性にかんがみれば、当然だろう。
警察の強制捜査後、病院長は「収監すれば感染症を発症する恐れがある。書類に虚偽はない」と容疑を否定した。
専門性の高い医師の診断に幅広い裁量が認められるのは理解できるが、今回の診断書の妥当性は厳しく検討されなければならない。