安価な商品の売り込みのほうが得意
ソフトバンクとは設立以来の付き合いだというヤマダ電機では、メーカー商品のアピールに用いている。理美容商品は店員が積極的に応対しない「非接客商品」に分類されているが、それをPepperが接客して売ったところ、売り上げがなんと3倍になったという。
では炊飯器のような接客商品ではどうだったかというと、効果はあったがそれほどではなく、高額商品はやはり人間だが、手頃な家電小物や日用品においてはロボットが良い効果をもたらし、人が足らない部分を補ってくれることがわかったとのことだった。
今後は会員カードのビッグデータと連動するOne toOne マーケティングツールとしてロボットをどう使っていくかを考えていくとのことだった。
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非接客商品の販促にPepperを適用
人相手と機械相手で人間の構えが変わるのは常識
いずれも実際のビジネスでの活用例であり、それなりに興味深い。試行錯誤を繰り返しながら、特に本当に売り上げが増えたりしている点は注目に値する。
もっともPepperを導入する上でもコストがかかっているわけで、トータルで見た場合の費用対効果までは講演で触れられなかった点は残念だ。ロボットを入れるための見えない人件費も少なくないだろう。
また、基調講演で強調されていた「ロボットと人間とではコミュニケーションのハードルやレンジが異なる」、「適切な役割分担が必要」といった話は、必ずしも新しくはない。
動き回るロボットに限らず、人間と機械の距離感やインターフェースに関しては多くの研究事例がある。人相手と機械相手で人間の構えが変わるのは、どちらかというと常識に属する。
だがそれでも、なぜかロボットに過剰な期待、過剰な擬人化をしてしまう人が使う側にも多いというのが現実だ、といったところが、現状の理解としては適切なのかもしれない。
基調講演の中では、まず導入してしまうことが重要なんだといった話もあった。だが、いやいや少しは考えたほうがいいんじゃないかなと個人的には思った。確かに、やってみないと実感できない話も多い。しかし、やる前から明らかにわかっていることもある。ロボットは新しいツールではあるが、既にそれなりの歴史があり、先行者もいる。
頭一つ抜け出し始めたPepper
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足回りの弱いPepperを工場内で活用するためAGVに載せるという活用法も。グローバルワイズ社による
ただ、Pepperは現状では明らかに先行している。他社もコミュニケーションロボットをいろいろ出しているが、Pepperはハードウェアもソフトウェアもだいぶ安定してきているようだ。
音声認識の性能などは相変わらずまだまだのようだが、少なくとも再起動を何度も繰り返すようなことは減っているようだ。ビジネスのネットワークも広がりつつある。
現状のPepperがやっていることの多くはタブレットやスマートフォンでも代用できるのではないかと感じる一方で、Pepperを使えば済むロボットアプリケーションを、わざわざPepper以外のロボットでやろうとする理由がなくなりつつある。ロボットを使ったアプリケーションでもっとも重要な点は、何よりも安定して動くロボットなのだ。
似たようなコンセプトの、タブレット付き台車ロボットのような類のコミュニケーションロボットはこれからも出てくる気配があるが、コスト面も含めて、いまさら先行者を追いかけるのは大変かもしれない。
子供たちの記憶に残るロボットになる可能性も
筆者が個人的に今後のソフトバンクの取り組みの中でもっとも面白いと思っているのは、小中学校でのプログラミング教育のためにPepperを無償で貸し出すという話だ。
全国の公立小中学校282校が対象で、2,000台のPepperが貸し出されることになるという。これは、すごい。他社には真似したくでもできないだろう。
Pepperは、先ごろ発表された動きやセリフを組み合わせる「Pepper Maker」によって簡単な動作プログラミングであれば、非常に簡単になっている。
プログラミング教育にロボット教材を使うことは増えているが、教材として等身大のロボットを使うのは子供たちにとってインパクトが強い。おそらくずっと彼らの記憶の中に残るだろう。現場的には無償というのも大きい。ただし期間が3年間というのが、少し気になる点ではある。
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小中学校でのプログラミング教育にPepperを無償貸し出し
デザインは最重要機能の一つ
2月半ばにはもう一つ、なんとも微妙な気分になるロボットが発表された。講談社のパートワーク「週刊 鉄腕アトムを作ろう!」である。富士ソフトやVAIOなど5社連合でパートワーク70号を展開する。4月4日創刊で、全70巻を予定している。
「アトム」というコンテンツを使いながら洗練されたとは言い難いデザインには「やっちゃったな」という感想のほうが先に立ってしまう。会見ではさまざまな機能がアピールされていた。だが作り手たちは、キャラクターものの場合、「見た目」が何よりも大事な機能なのだ、という肝心なことを忘れてしまっていたのではなかろうか。
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講談社から創刊される「週刊 鉄腕アトムを作ろう!」
極端な話、キャラクターものの場合は十分に魅力的な造形さえ実現できていれば動かなくても別にいいのだ。高価なフィギュアや人形の市場が存在していることを見れば、それはもう明らかだ。
そもそも家庭用のロボットであっても、実際のところは電源オフで飾っておく時間のほうが圧倒的に長い。まず電源オフにした状態でも鑑賞に耐えるできになっていなければ、キャラものは成立しない。つまり、キャラものの場合、外観デザインは、まず第一に目指すべき機能だ。
ロボットを今日の技術で実現しようとした場合、何かと制限がある。パートワーク市場で展開する場合はコストの問題も大きかったろうし、素人が組み立てられるかたちに分割していかなければならないという問題もある。
色々と難しい課題があったことは理解する。しかし、既に大成功している先輩のコンテンツも存在するわけで、いくらなんでもあの形やスタイルはないだろうと思わざるをえない。アトムがあんな膝曲げでしゃがんでいる姿は見たことがない。ああいう姿をオッケーとしてしまう作り手の姿勢が残念だ。
他にも言いたいことがいっぱい出てきてしまうが、まだ始まる前の商品なので、このあたりにしておく。頑張ってもらいたいという気持ちはある。今後、少しでも成功に近づけるのであれば、アトムに魅力を感じる高齢者向けのコンテンツ展開にフォーカスするしかないと思う。関係者の方はせめてそこは理解して、今後の事業を展開してほしい。