米国が世界にどう関わり、いかに国際秩序の安定をめざすのか。今回も、その構想が明確に語られることはなかった。

 トランプ米大統領が初めて連邦議会で演説をした。就任後40日間の「実績」を強調しつつ、1兆ドルのインフラ投資や大型減税などの方針をしめした。

 補佐官の辞任や自身の過激発言で政権の混乱が目立つなか、雇用創出や景気浮揚の取りくみを力説することで国民の支持を得る狙いがあったのだろう。

 だが、巨額投資と減税をどう両立させるのか、医療保険制度や社会保障をどうするかなど、具体的な施策は依然見えない。

 国内の経済と治安改善を強調する一方、多国間の自由貿易枠組みに背を向け、同盟国に負担増を求める姿勢は一貫した。

 初の施政方針演説が、そうした「米国第一主義」のアピールに終わったのは残念だった。

 国際社会にとって今回とりわけ理解に苦しむのは、トランプ氏が国防費を歴史に残る規模で増額すると言明したことだ。

 前日には、前年より約1割増やす、と発言した。オバマ前政権の国際協調路線を改め、1980年代のレーガン政権を彷彿(ほうふつ)とさせる「力による平和」へ転換することを鮮明にした。

 米国防費は今も、世界の軍事予算の3分の1以上を占める。その超大国が今なぜ軍拡に走るのか。「米国は世界の警察官ではない」とし、同盟国に「公平な負担」を求める姿勢と、どう整合するのか判然としない。

 大国がにらみ合った冷戦は過ぎ、テロなど脅威の実相は変容した。国境を越えた脅威への対応には、軍事力の前に、国際的な協調が肝要であることをトランプ氏は学ぶ必要がある。

 防衛産業にてこ入れして雇用を増やす思惑も透ける。だが、中国やロシア、中東諸国を巻き込んだ軍拡競争を加速しかねない。国内だけに目を向けた「米国第一主義」は慎むべきだ。

 同時に懸念されるのは、外交や途上国援助の予算を減らして国防費の増額分を捻出する検討が報じられていることだ。

 途上国援助が格差や腐敗など紛争の根を絶つために果たしてきた意義は大きい。米国が仲介役を果たせなかったシリア内戦で浮き彫りになったのは、米国に不足しているのは軍事力ではなく、ぎりぎりまで交渉を尽くす外交力だという現実だ。

 米国では、議会が予算づくりや立法の権限を握る。短絡的な「力による平和」ではなく、米国と世界の安定と繁栄に真に必要な政策は何かを、議会は冷静に議論してもらいたい。