【動画】閉じた踏切を渡るゾウ、驚きの行動を解説

インドの保護区で、ゾウが列車にひかれる事故が起きている

2017.03.02
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【動画】踏切を突っ切るゾウ。(解説は英語です)

 インドのチャプラマリ野生生物保護区にすむ若いゾウが、踏切の遮断機をそっと押し上げ、その下に体を滑り込ませる。線路を渡ったゾウは、今度は反対側の遮断機を用心深く踏み越える。

「このゾウは、以前にも同じ行動をとったことがあるように見えます」。調査保護団体「エレファントボイス」の共同創設者で、ゾウの行動に詳しいジョイス・プール氏はそう語る。

 ゾウは昔から賢い動物として知られている――長期記憶をもち、道具を使い、複雑な社会集団をつくる。さらに最近では、ゾウは問題解決能力に優れていることもわかってきた。しかしその器用さがあだとなって、トラブルに巻き込まれることもある。(参考記事:「鼻を使って知能検査に挑むゾウ」

 2011年の研究によると、ゾウも人間と同じように、創造性豊かな「ひらめきの瞬間」を経験することがあるという。この研究では、米国の首都ワシントンDCの国立動物園にいるアジアゾウ3頭を対象に、届かない位置にある食べ物を取るために彼らが道具を使うかどうかを実験した。(参考記事:「人のように話すゾウ、鼻を使って発音」

 最初はゾウに棒を与えたが、これはうまくいかなかった。ゾウは鼻で何かをつかんでいるとき、臭いを嗅ぐ能力を失ってしまうからだ。次に、踏み台として使える物体をゾウに与えてみた。

 カンドゥラという名の7歳のゾウが、これを見事使いこなしてみせた。果物がたくさんぶらさがった笹の枝に鼻が届かないとわかると、カンドゥラは箱を笹の下まで転がしてきてその上に脚を乗せ、高いところまで鼻が届くようにしたのだ。研究者らが箱を片づけてしまうと、カンドゥラは代わりに別の物を持ってきて踏み台とした。(参考記事:「アジアゾウ、道具の使い方をひらめく」

【動画】踏み台を使うゾウ(解説は英語です)。

 線路を渡ったゾウと同じ種類のアジアゾウは今、絶滅の危機に瀕しており、現在、インドでの生息数は2万〜2万5000頭まで減少している。生息地である森やサバンナが急速に縮小するなか、アジアゾウは食べ物を求めて人間と接触することが増えている。その結果、ゾウにとっても人間にとっても悲惨な事故が起こることも少なくない。(参考記事:「大集合!インドのカラフルなゾウたち」

 アフリカやアジアでは、動物が畑の作物を荒らさないよう、電流が流れる柵が広範囲にわたって設置されている。しかし、これでもゾウの侵入を防げないことがある。昨年10月には、ごみ捨て場の周りに設置された柵に、一時的に電流が流れていないことに気づいたインドゾウが柵を壊して侵入し、ごみをあさるという事例があった。(参考記事:「ゾウと人の付き合い100年の変遷、写真16点」

「ゾウは極めて知能が高く、人間が作った柵を壊すこともできますが、こうした能力にはいい面もあれば悪い面もあります」と、世界自然保護基金(WWF)のアジアゾウの専門家、ニランガ・ジャヤシンゲ氏は言う。ジャヤシンゲ氏は、インドをはじめとする各国で、早期警告システムの実現を目指している。保護活動家が「ゾウに一歩先んじた」対策を施すことで、ゾウや人間がけがをする前に危険な状況を回避しようというのだ。(参考記事:「【動画】水場にひっくり返ったゾウを救出」

 ゾウの問題解決能力は、国立公園内を列車が走っているインドにおいては、特に危険な状況を生み出す可能性が高い。保護活動家は鉄道当局に対し、ゾウの生息地付近では列車のスピードを落とすように申し入れたが、これは実現しなかった。2013年には、同じ保護区のゾウの群れが線路を横断中に列車にひかれ、少なくとも7頭が命を落とした。群れの残りの40頭余りは、列車が通り過ぎた後で現場に戻り、死んだ仲間のそばに立ち尽くしていた――ゾウがこうして死者を悼むことは、以前から知られている。(参考記事:「【動画】ゾウが池に落ちた仲間を励ます」

「彼らは臨機応変に対応できる能力をもっており、問題を解決することもできますが、なぜ列車にひかれてしまうのか不思議です」とプール氏は言う。「なぜ不思議かといえば、ゾウは何キロも向こうから列車がやってくる音を聞き、それを体で感じ取っているはずだからです――列車が猛スピードで近づいてくるときに、ゾウがなぜ線路の上にいることが多いのか、その理由はまったくわかりません」(参考記事:「【動画】くしゃみをする子ゾウがかわいい」

文=Nina Strochlic/訳=北村京子

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