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No.39432017年3月1日(水)放送
芸能人が事務所をやめるとき ~“契約解除”トラブルの背景を追う~

芸能人が事務所をやめるとき ~“契約解除”トラブルの背景を追う~

芸能人“契約解除” トラブルの背景を追う

タレントの清水富美加さん。
宗教上の理由で突如、所属事務所との契約解除を訴え、トラブルになっています。

芸能人と事務所の関係については、SMAPや、のんさんのケースなどが大きな関心を集めてきました。
もちろん個別には、事情も背景も異なりますが、今、話題となっているのが、清水富美加さんのケースです。

こちらに、清水富美加さんを巡る騒動を簡単にまとめました。
注目したのは、清水さんと事務所の間の契約です。

清水さんの代理人は、事務所との契約は、私たちが通常、会社と結ぶような雇用契約で、労働者に当たると主張しています。
これに基づけば、2月末で契約解除ができるとしています。
一方、事務所側は、両者の契約は、芸能界で一般的な専属芸術家契約であり、労働者には当たらず、契約の途中で一方的に解除できないと主張しています。
これに基づけば、契約は来年(2018年)の5月20日までは有効だということなんです。
芸能人は、業界団体が把握しているだけで、およそ3万人。
ネットアイドルなどの存在も現れ、すそ野が広がる一方です。
そうした中、芸能人と事務所の間に、何が起きているんでしょうか。

芸能人“契約解除” トラブルの背景を追う

これは、多くの芸能事務所が使っている、統一契約書と呼ばれる、ひな形です。
業界団体、音楽事業者協会が作成したものです。
統一契約書には、芸能人と事務所は、互いに対等独立の当事者という認識が記されています。

音事協によると、両者は支配・従属する雇用関係ではなく、スケジュールや著作権などを一元化して管理する事務所と、芸能人との業務提携契約であるといいます。
しかし今、業界が戸惑う事態が…。
国が、芸能人は労働者ではないという、業界の長年の認識を揺るがしかねない見解を示したのです。

これは去年(2016年)11月に、厚生労働省から音事協などの芸能団体に送られた文書です。
働き方改革を進める国。
そうした流れの中で、芸能人も労働者として扱い、雇用契約と見なすこともありえるという認識が示されています。

厚生労働省 労働基準局 志村幸久労災管理課長
「事務所の事業とか売り上げのために所属している人を指揮命令して使うのは、労働者だと認定されるケースが相当多いのではないか。
形式ではなく実態として判断していく。」

法律の専門家の間でも、芸能人を労働者と見なす動きがあります。

労働問題が専門で、芸能人と事務所との裁判を担当したこともある、菅俊治弁護士です。
菅さんは、独立した事業者どうしの契約として見るには両者の権利に偏りがあるのではないかと指摘します。

菅俊治弁護士
「たくさん書いてあるけれども、タレントが負わなければいけない義務とか、成果がマネジメント会社に基本、全部帰属するとか、マネジメント会社がタレントを抱えて、事実上かなり指揮命令をしている。
給料を払うという形で、タレントを使う関係になっている。」

芸能人の立場に立つと、特に契約を解除する際のハードルが高いと、菅さんは言います。

菅俊治弁護士
「事前に書面による承諾を得なければならないというところが、非常にきつい契約条件。
タレントがもうやめたいといってもなお、1回(契約の)更新ができる。」

統一契約書では、芸能人が契約を解除する際、事前に書面で承諾を求めることが規定されています。
また事務所には、一定期間契約を延長できる権利が認められています。
業界団体である音事協は、どう見ているのか。

契約解除の際の規定について、音事協は、映画の撮影やコンサートなどをはじめ、芸能の仕事は関係者が多数にわたり、仕事を完遂しないと迷惑がかかるため、こうした規定が設けられている、と説明しています。
芸能人を労働者と見なすような流れについては、どう捉えているのか。

これに対して、音事協が示した統一契約書のガイドです。
平成元年に契約書を全面改定した際に、この問題を議論した結果、両者の契約は、対等独立の当事者として見るのが妥当としています。
そして、芸能人が雇用契約であるかどうかは見方が分かれており、芸能界の実態が十分理解されていないのではないかと、疑問を呈しています。

芸能人“契約解除” トラブルの背景を追う

ゲスト 太田光代さん(芸能事務所社長)
ゲスト 紀藤正樹さん(弁護士)

厚労省が実態に応じて、芸能人も労働者と見なすという見解を示したが、どう考える?

太田さん:労働者は労働者なんでしょうけれども、ただ、やっぱりタレントとか、芸能人という役割の仕事の内容を考えると、一般的な型にはめることは、なかなか難しいというのが現実だと思うんですよね。
それと、彼らは能力があって入ってくる業界ですから、その能力に対して、すごく伸ばすために、もちろん先ほどもおっしゃってたように、レッスンをしたりとか、あとは、たくさんのお金をかけるというと言い方が変なんですが、売れる前に、いろんな努力を事務所側はするわけです。
それまでは、5万円というところがすごく独り歩きしているとは思うんですが、やはりそのぐらいでいて、そのうちに、だんだん売れてきて、もちろん金額がどんどん上がっていくというシステムは、どこの事務所でもそうですから、そこはちょっと当てはまらないとていうか、当てはめてもらっても困ってしまう部分もあるし、私の周りは少なくとも、皆さん、きちんとやられていますから、そこに何かトラブルがというようなことは、そんなに起きてない。

芸能人の契約解除を巡っては、裁判になっているケースも少なくありません。
例えば、タレントのセイン・カミュさんのケースなんですが、事務所に契約解除を申し出たところ、事務所から損害賠償を求められました。
でも判決では、両者の関係は雇用契約だとして、契約の解除が認められました。
こうした流れを、紀藤さんはどう見る?

紀藤さん:結局、対等独立な関係というのは、どう見るかなんですね。
契約書には、理想を掲げる形で対等独立な関係ということで、芸能人を自営業者のように捉えているんですけれども、多くの芸能契約の中には、労働者制がある芸能人もいらっしゃるんです。
セイン・カミュさんの事案の場合は、年俸制なんですよ。
それから過去には、固定給のケースに関して、雇用契約と認めたケースがありまして、だけど、芸能契約って、中には歩合制もあるんです。
割合で定めている時に、労働契約かどうかということに関しては、まだ判例も出ていませんし、芸能契約そのものが、そもそも一律的に雇用契約になるわけではなく、雇用契約に全くならないわけでもなく、判例上、分かれているのが今の現実です。

独立対等な当事者について、日本の芸能界の、ここが問題かもしれないというのは、ある?

紀藤さん:例えば、固定給を定めるとか、あとは寮ですね。
全寮制にして、いわば、そもそも芸能人を完全に管理してしまうと。
そういうことになれば、そこには独立対等な関係ではなくて、いわば支配従属、使用従属の関係が見て取れますから、過去の判例でも、いわゆる独立性が希薄であれば、つまり給料が固定給である、それから専従契約になっている、それから、いろんな仕事についての選択権が全くないというようなことであれば、雇用契約性が出てくる可能性はあると思います。

一方で、今回のケースについて、事務所側に理解を示す声も上がっているんです。
坂上忍さんは、「お世話になった事務所に対する配慮が足りない」。
ヒロミさんは、「もっとうまい辞め方があったのでは」と発言しています。
事務所の立場から見て、この辞め方というのも、何かある?

太田さん:当然、辞める、辞めないとか、お休みするもそうなんですけど、代わりが利かない仕事なので、何かがあってボイコットをされてしまったら、もうそれは、それで、もうアウトなんですよね。
だから、そうしないために、きちんとお互いが話し合って。
例えば、体が悪くてとか、精神がという時に無理やりということは、命より大切なものはないので、そこはきちんと話し合うとか。
うちの事務所は、顧問弁護士でもあるんですけど、タレント活動をしていただいている方が橋下徹さんなので、彼が一時、出馬をしましたけど、その時も、本人がどういうふうな対処のしかたをするかということと、どういった誠意の表し方をするかということで、当然、その時に顧問弁護士も続けていただきましたし、あとは、今、引退されて、また改めてお仕事もうちでやっていただいていますし、つまりは、きちんとした辞め方というか、休み方とか、辞め方というのができれば。
(信頼関係ということ?)
そうですね。
先ほどのお2人も、そうやって自分で事務所をお持ちになっている、お2人ですよね。

契約解除を巡るトラブルの背景には、契約の文言だけではない、さまざまな事情があることも分かってきたんです。

芸能人“契約解除” トラブルの背景を追う

およそ20年間、芸能人のマネジメントに携わってきた芸能事務所関係者です。
匿名を条件にインタビューに応じました。
事務所側が契約解除を簡単に認められない事情の1つに、芸能人への、ばく大な投資があるといいます。

芸能事務所関係者
「新人を売り出す費用が、1億とか2億とか。
歌手ならボイストレーニング、ダンスを習わせる。
住むところ、マネージャー、その人件費。
それプラス宣伝広告費。
投資として養成費。
これは確実な投資ですよね。」

芸能人に突然辞められると、こうした投資がむだになり、場合によっては経営にダメージを受けることもあるといいます。

芸能事務所関係者
「デビュー、ここで初めて回収していくスタート地点。
回収し終えた後は利益ですよね。
この途中とかで独立。
正直言うとふざけるなですよね。」

契約解除の背景には、仕事の内容や条件を巡る芸能人と事務所とのギャップもあります。

かつて所属していた事務所を辞めた経験を持つ、宍戸留美さんです。
16歳の時、オーディションを勝ち抜き、デビューした宍戸さん。
アイドル歌手として活動し、2年間で7枚のシングルCDを出しました。
当時、事務所からの報酬は月に7万円ほど。
交通費や取材を受ける時の衣装代は、自分で支払っていたといいます。

歌手・声優 宍戸留美さん
「当時は派手な服とか本当に高くて、お金を払いながらアイドルをしていた。」

写真集の撮影で、突然ヌードになることを迫られたこともあるといいます。
次第に、希望する仕事ができないという不満を募らせていきました。

歌手・声優 宍戸留美さん
「誰を信じて良いかわからない。
ちょっとずれが生じてきたかなって。」

宍戸さんの言い分に対し、所属していた事務所の受け止めは異なるものでした。

取材に対し、「当初、月7万円の報酬だったのは事実だが、寮は無料で提供し、マネージャーが一緒の時は食事代も出していた。雑誌の撮影も、現場で本人とスタッフが話し合い、内容も合意したものだった」と話しています。
こうした、すれ違いが積み重なった末、宍戸さんはデビューから2年後、事務所を辞めました。
マネジメントや売り込みも、すべて自力でやることになった宍戸さん。
しかし、その後の数年間ほとんど仕事はありませんでした。

歌手・声優 宍戸留美さん
「法律的に大丈夫だったら(事務所を辞めても)大丈夫じゃないかなって思ってたら、いま思えば干されていたなっていう、出られなくなってるから。」

芸能人“契約解除” トラブルどう防ぐ

芸能人と事務所。
円満に契約解除に至る方法はないのか。

業界団体に所属していない芸能人3人を抱える、この芸能事務所では、ある試みを行っています。
契約書の中で、事務所を移籍する場合のルールを明文化しました。
すでに決まっている仕事はやり遂げること、契約終了後6か月間は他社で仕事を再開しないことなどを条件に、仮に契約期間が残っていたとしても移籍を認める内容です。

芸能事務所 藤井和博社長
「変な風に伝わったり、マスコミにばれて、マイナスのイメージになるよりは、事務所もアーティストも、双方そういうことじゃない形で、話し合いの上で円満退社だよってしてあげた方が良い。
この契約書にのっとった話し合い、進行の仕方で、トラブルにならないようにしようというのが、たどりついた答え。」

芸能人が事務所をやめるとき…

契約を解除する際のルールを明文化するという取り組みが紹介されました。
トラブルを回避するためには、何が必要?

紀藤さん:やっぱり芸能事務所も、芸能人本人も、それからクライアントという、芸能事務所に所属して、例えばCMとかテレビとかに出るわけですけど、それがクライアントですよね、それからテレビ業界もそうなんですけれども、全体の中で、芸能人が事務所を独立する際のルール作りをきちっとしないと、結局、独立が騒動になってしまうんです。
ですから、そのルールをどう決めるかというところが、まさに契約なんですけれども、事業者団体の方で契約をきっちり作れないということであれば、それは、この業界を監督しているのは、経済産業省でしょうから、本来であれば経済産業省が、自立的な契約書の、例えば標準契約みたいなものを提示するということも1つの考え方だろうと思います。
(今の時点では、ルールはあいまいであると?)
ルールが非常にあいまいで、理想どおりになっていないというところが、業界の中の問題点で残っているということです。

爆笑問題さんも、実際に一度、事務所を辞めた経緯があるが?

太田さん:以前、若い時ですけど、事務所を辞めて。
でも、これは、彼らは急に出てきて、一押しになって、事務所も力を入れてという時に、好きな仕事がやりたいと。
みんなで、わっと大人が寄ってきて、腫れ物に触るように扱っていると、だんだん自分が勘違いしていく。
自分の能力でこうなっていると、まだ新人なのに。
そこで勝手に辞めてしまうということが起きて、自分たちでやった方が好きなことができるという発想ですね。
でも、それはやはり、たくさん仕事が決まっているのを捨ててというか、捨てるというか、それをほっぽらかして辞めていったわけですから、非常に、事務所には大変なご迷惑もおかけしましたし、その後の処理も大変だったはずなんです。
だから結局、散らかしちゃって辞めるというのは、これは、どんな仕事もそうだと思うんですけど、後に残ったイメージがあまりよろしくないですし、エンターテインメントの仕事であるのに。
今日(1日)、たまたまタイムリーに堀北真希さんが、とても美しい引退のされ方、きちんと順序立てて、時間をかけて話し合って、お辞めになった。
とても爽やかな感じがしたんですけど、やはり、やり方によって、全くイメージが違うでしょうし、ファンの方に与える印象もまた違うでしょうから、そこに問題があるかなと思うんですよね。

視聴者の方より:「過去に事務所を辞めようとして、テレビから姿を消した人がいる」。

元民放プロデューサーの影山貴彦さんは、芸能人と事務所のトラブルについて、メディアの姿勢も問われると指摘しています。
「テレビ局はブッキングなどで、芸能事務所との関係に気を遣う面もある。ただ制作主体はテレビ局であり、ときには、きぜんとした判断をする必要がある」とおっしゃっていました。

紀藤さん:結局、事務所の辞め方が、問題のある辞め方をしているとなると、テレビ業界も使いにくいわけですよ。
だって、同じように辞められたら、結局、投資したものとか、番組で作ろうとしているものが無理になりますよね。
だから結局、やめ方を、いわばウィン・ウィンの関係で辞めれるようなルール作りみたいなものが極めて土台で必要で、ルールを作っても突然、辞める人は当然出てくるわけです。
やっぱりルールを作って、それをある程度、一般に告知していかないと、芸能人、特に辞める人は若い人が多いですから、若い人に教育というのはものすごい重要だと思います。

この働き方について、どう思う?

紀藤さん:私は、芸能事務所だけではなくて、芸能業界全体、だから、この問題に関わるテレビ界も含めて、芸能業界全体が辞めることがあるということを近代化すべきだと思います。

太田さん:タレントを預かる立場としては、やはり、もう少しコミュニケーションを取っていって、お互い意思の疎通をきちんと図れるようにしていったら、いいかなと思っています。

信頼関係も大事ですし、そして、近代化もルール作りも、これから大事になってくるということですね。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

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