赤いベンガラの街・吹屋でノスタルジックな旅を楽しむ
山里にひっそり息づく街、岡山県吹屋(ふきや)地区。江戸時代、赤の顔料「ベンガラ」の産地として栄え、商家たちがつくった“赤い”街並みを今に残します。当時の繁栄ぶりと、時代の移ろいに思いを馳せる、ノスタルジックな時間を過ごしてきました。
岡山市の中心部から車で約2時間、山を越えてたどり着く岡山県高梁市成羽町の吹屋地区。元々銅山の開発で形成された鉱山町は、1707(宝永4)年、赤色の顔料「ベンガラ」を国内で初めて開発したとされる、由緒ある地域です。
吹屋のベンガラは、焼いても綺麗な赤色が残るクオリティの高さから、全国的に需要が拡大。江戸時代末期、ベンガラ景気に沸く吹屋地区で、ベンガラ商家が話し合い、一から街をつくりました。
ベンガラ色にこだわるため、赤銅色である「石州瓦」(島根県石見地区で作られる粘土瓦)を屋根に敷き詰め、壁には防虫・防腐効果もあるベンガラの漆喰壁を採用。実際に、島根県から瓦職人や宮大工を呼び寄せ、確かな職人の腕によって独特の赤い街並みが形成されていきました。いまで言う「都市デザイン」の走りですね。
その後、昭和初期まで銅山とベンガラで栄えていましたが、第二次世界大戦後、安価な化学工業製のベンガラが出回るようになり、1972(昭和47)年には銅山も閉山。次々にベンガラ商は廃業し、街の衰退とともに、建物も老朽化していきました。
しかしその後、街並みを保存して観光地にすることが街の再生につながると、有志が動きます。1977(昭和52)年、一帯は国の伝統的建造物群保存地区に指定され、現在も保存会が中心になって補修を重ね、当時の姿を守っています。
吹屋の街並みは立ち寄りスポットが盛りだくさん
ベンガラ商家の典型的な建物を今に残す「旧片山家住宅」
建物の配置など、中世ベンガラ商家の典型的な建造物といわれる「旧片山家住宅」。ベンガラ製造に関わる付属屋が約2,000平方メートルある敷地奥まで連なり、各部屋には贅を尽くした意匠が施されています。多くの人が建物内を出入りしていた当時のにぎわいを、遺物たちは静かに伝えてくれます。
旧片山家住宅
岡山県高梁市成羽町吹屋367
[開館時間]9:00~17:00(12月~3月は10:00~16:00)
[休館日]12月29日~31日
[入館料]大人400円、小人200円(斜め向かいの「郷土館」と共通)※ともに税込
0866-29-2111
名物田舎そばで心も胃袋もポッカポカ。藤森食堂
山菜や根菜がたっぷり入った名物「田舎そば」(税込650円)を注文しました。イリコや昆布などでとった優しい出汁に、ほんのり香るユズ。見た目の期待を大幅に上回る、感激の美味しさでした。心からの、ごちそうさま!
藤森食堂
岡山県高梁市成羽町吹屋380
[営業時間]11:00~17:00
[定休日]月曜
0866-29-2907
銅山とベンガラの関係を探りに吉岡銅山「笹畝坑道」へ
その現場を見るべく、まずは、吹屋一帯の案内をしてくれる観光ガイドさんと一緒に、吹屋中心部から車で約5分のところにある「笹畝(ささうね)坑道」へと向かいました。
江戸時代から大正時代まで鉱物を採掘していた「笹畝坑道」は、1977(昭和52)年に坑道の一部(250m)を復元し、内部を見学できるようになっています。
吹屋の主要なスポットを巡るには、名所を案内してくれる「観光ガイド」(標準所要時間は2時間、一律税込3,000円)を利用するのがオススメ。銅山や街の歴史をとっても丁寧に教えてくれるんです。希望する場合は、高梁市成羽町観光協会吹屋支部(0866-29-2222)まで事前予約が必要です。
戸田さんいわく、「銅を採掘する過程で出る、捨石だった磁流化鉄鉱石(じりゅうかてっこうせき)を軒先に置いていたら、地面が赤くなっていることをどなたかが偶然発見したと言い伝えられています。その後、外部から研究者を招き、『ローハ』(後述)由来のベンガラ顔料を生み出しました」。
笹畝坑道
岡山県高梁市成羽町中野1987
[開館時間]9:00~17:00(12月~3月は10:00~16:00)
[入館料]大人300円、小人150円※ともに税込
[休館日]12月29日~31日
0866-29-2222(成羽町観光協会吹屋支部)
手間ひまかかる吹屋のベンガラづくりを勉強「ベンガラ館」
吹屋のベンガラは、まず磁流化鉄鉱石を焼成、煮沸するなどして主原料になる黄緑色をしたローハを生産。このローハをもとにベンガラを製造します。
ベンガラの製造過程は以下の通り。
1.ローハを天日で乾燥させる
2.熱でローハを無水状態にする
3.水を加えてよく練り一晩置く
4.土窯で焼く
5.槌(つち)で砕く
6.素焼きの土器の焙烙(ほうろく)に朴葉(ほうば)を敷いてローハを盛り大きな土窯に積み上げて本焼成
7.赤く変色したものを石臼でひく
8.攪拌(かくはん)
9.再び石臼で挽く
10.酸を抜く…(まだまだ続く)
途方もない工程を経て、赤いベンガラがつくられるのですね。
窯の上には大きな換気口が。「本焼成する際、大量の亜硫酸ガスが出ていたため一帯の山がはげていたんです。ベンガラでこの街は繁栄しましたが、一方で、環境汚染があったこともきちんと伝えたい」と戸田さん。
そもそも、なぜ吹屋のベンガラは重宝されたのか。その答えは、ベンガラに含まれる酸を抜く手間にあり!
どんな技があるのかと思いきや、とっても単純。水でかき混ぜてベンガラを沈殿させ、酸が溶けた上澄みの水を捨てる。この作業を50~60回ぐらい繰り返すのだそう。約2m四方の水槽の水を50、60回も交換!?しかもすべてひとの手で!?想像するだけで、めまいがする…。
手間をかけて酸を徹底的に抜くため、焼いても鮮やかな赤に発色する良質なベンガラができたわけです。
山深く、物成りの乏しい地で、地域資源で独自の製法を編み出した吹屋のベンガラ。生きるための、先人の知恵と情熱を感じました。
ベンガラ館
岡山県高梁市成羽町吹屋86
[開館時間]9:00~17:00(12月~3月は10:00~16:00)
[入館料]大人200円、小人100円※ともに税込
[休館日]12月29日~31日
0866-29-2136
歴史的文化遺産の「西江邸」でベンガラ染め体験
自らベンガラの生産もしていた西江家。そのベンガラは、「本山紅柄(もとやまべんがら)」のブランド名を持ち、「赤の中の赤」と評されました。その繁栄ぶりが色濃く残る「西江邸」は、代々西江家が受け継ぎ、現在も居住。建物は国の登録有形文化財に指定されています。
じつは現在、吹屋一帯で販売しているベンガラは化学工業製。でも西江邸には唯一、江戸期につくられた天然のローハが残っているんです。
18代当主の西江晃治さんが、そのローハを使い、環境に優しい次世代の製法を開発。2008年に、より粒子の細かい天然ベンガラを再興しました。その貴重な“蔵出しローハベンガラ”を使ってできる、ベンガラ染体験にトライしました!
肌触りがなめらかでフワフワな絹100%のシフォンを染めます。「ベンガラ染体験(ストール・大)」と西江邸見学を合わせて所要時間は2時間ほど(税込3,000円)。
まずは、ボウルにベンガラ顔料を入れて呉汁で溶いて染色液を作ります。呉汁は、水に浸して柔らかくした大豆をすり潰したもの。手に優しい材料で安心ですね。
染色液に、蛇腹に折りたたんだストールを入れて染色液を揉み込みます。
その後、水洗いして自然乾燥。この作業を3回繰り返します。
風合いの柔らかい春色ストールが完成しました。貴重なベンガラを使って自分の手で丁寧に仕上げたストールは、とっておきの一枚になること間違いナシ!
ベンガラ愛が尽きない西江ご夫妻とのおしゃべりも、学びがたくさんでした!
国登録有形文化財 西江邸
岡山県高梁市成羽町坂本1604
[開館時間]9:00~17:00(16:30までに入館)
[休館日]月曜(祝日の場合は開館、翌日休み)、年末年始、臨時休業あり
[入館料]大人500円、小人250円※ともに税込
※ベンガラ染体験の詳細はホームページをご確認ください
0866-29-2805
歴史をじっくり学びながら吹屋ノスタルジーを満喫してくださいね。
撮影:松本紀子
ココホレジャパン
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