「ペロ・・・これは同種の味!!」
つる植物は接触化学識別(味覚)を使って同種を避けている
◆つる植物の巻きひげが、動物では味覚と定義される「接触したものを化学的に識別する能力」を持ち、同種の葉への巻き付きを忌避していることを発見しました。また、その識別に関与する物質を特定しました。
◆巻きひげの素早い巻き付き運動はダーウィンの時代から研究されていますが、巻きひげが接触した物体を化学的に識別し、巻きつく相手を選ぶ能力があることは全く知られていませんでした。
◆今後、つる植物の味覚を詳細に解明することで、つる植物の巻き付きを制御できるようになる可能性があります。
【図1】研究成果の概要(拡大画像↗)
東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構の深野祐也助教は、ブドウ科つる植物であるヤブガラシの巻きひげが、接触によって同種の葉を識別し、巻きつきを忌避する能力を持っていることを発見しました。また、その識別に関与する物質は、ヤブガラシの葉中に高濃度に含まれるシュウ酸化合物であることを特定しました(図1)。
巻きひげの素早い運動はダーウィンの時代から世界中で研究されてきましたが、巻きひげが接触した物体を化学的に識別し、巻きつき相手を選択できるということは、今回初めて明らかにされた現象です。つる植物は、自らだけでは成長することができず、安定した物体に巻き付いて垂直方向に登っていく必要があります。高い密度で繁茂することの多いヤブガラシにとって、同種を適切に避ける能力は、他種の植物など安定な物体に巻きつく上で必須な能力だと考えられます。巻きひげをもつ植物は、果樹や野菜、緑のカーテンとしての観賞植物、そして電線にからみつく雑草などとして、私たちの生活に密接に関連しているにもかかわらず、このような単純かつ基本的な現象が、これまで見逃されてきたことは驚きとも言えます。今後、つる植物が持つ化学識別の一般性やそのメカニズムが解明されることで、つる植物の巻きつきを制御できる可能性があります。
【図2】接触した植物のシュウ酸濃度と、その植物に対するヤブガラシの巻きつき(拡大画像↗)
巻きひげは、ウリ科・ブドウ科・マメ科などのつる植物で独立に進化した、他の植物や樹木など安定した物体に巻き付くための独特な器官です。巻きひげは、接触刺激に対して素早く反応するため、植物における運動や接触応答のモデルとして、ダーウィンの時代から長い間研究されてきました。しかしながら、巻きひげが、化学認識を使って巻き付く相手を選択している可能性はこれまで検証されていませんでした。本研究では、ブドウ科のつる植物ヤブガラシの巻きひげを対象に、巻きひげにおける化学識別能力とその識別物質を検証しました。
巻き付き実験によって、ヤブガラシは同種の葉と他種の葉を識別し、同種の葉に対する巻き付きを強く忌避することが分かりました。さらに、同種と他種の葉を同時に接触した時には、正確に同種の葉を避け他種の葉を選択できること、また他種の葉に巻き付いている途中で同種の葉に接触した時には、巻き戻る能力を持っていることもわかりました。つる植物は、自らだけでは上に成長することができず、安定した物体に巻き付いて登っていく必要があります。高い密度で繁茂することの多いヤブガラシにとって、同種を適切に避ける能力は、他種の植物など安定な物体に巻きつく上で必須な能力だと考えられます。それゆえ、同種かどうか葉を識別し、強く避けるという性質が進化したのだろうと考えられます。
発表者の深野助教は、ヤブガラシの巻きひげが具体的にどの物質を識別して同種の葉を忌避しているか実験を行う中で、偶然にも、ヤブガラシの巻きひげはカタバミの葉に巻き付かないことを発見しました。カタバミはシュウ酸を多く含む植物として知られており、また、ヤブガラシもその葉中に多量のシュウ酸化合物を含むことが知られています。この共通点は、ヤブガラシの巻きひげが識別・忌避している物質は、シュウ酸化合物である可能性を示唆しています。
そこで、ホウレンソウやギシギシなど、シュウ酸を多く含むことが知られている植物を含むさまざまな種類の植物への巻き付きを調べるとともに、その葉に含まれるシュウ酸の量を定量化しました。その結果、それぞれの種の葉への巻きつきと、それらの葉に含まれるシュウ酸量には負の相関があることが判明し、ヤブガラシはシュウ酸の多い植物には巻きつきにくく、シュウ酸の少ない植物には巻きつきやすいことを解明しました(図2)。
また、シュウ酸化合物そのものが、巻きつきを忌避させるのかどうかを確認するために、シュウ酸化合物をプラスチックの棒にコーディングし、その棒に対するヤブガラシの巻きつきを調べました。すると、ヤブガラシはシュウ酸化合物をコーティングした棒には、他の試薬をコーティングした場合よりも巻き付かず、これは、ヤブガラシの巻きひげには、シュウ酸化合物を識別する何らかのメカニズムがあり、それによって同種の葉への巻きつきを忌避できていることを示唆しています。シュウ酸化合物は非揮発性の物質であるため、ヤブガラシの巻きひげは、接触による化学認識、すなわち動物における「味覚」と似たような識別機構を持っていることを意味しています。つまり、つる植物の巻きひげは、物体に素早く巻き付くための器官であると同時に、同種の葉という巻き付き相手として不適当な物体を避けるための化学センサーの役割も果たしていることを示しています。
【社会的意義/将来の展望】
今後、巻きひげにおける接触化学識別の普遍性やそのメカニズム、そして識別している物質を網羅的に解明することで、つる植物の巻きつきや生長の方向を自由自在に制御できるようになると期待されます。また、同種を避けるという性質は、つる植物の空間構造や生物間相互作用に影響を与える可能性があります。今回発見されたつる植物の同種を避ける性質が、野外の植物群落においてどのような生態学的な意味を持つかも調べる必要があると考えています。
本研究は、積水化学自然に学ぶものづくり研究助成プログラムの助成を受けて行われました。