位置情報システムで危険にさらされる動物たち
- 2017年03月2日
動物に取り付けられた無線発信器から出る信号を使って動物に接近してくる狩猟者たちが、オオカミやサメなどの絶滅危惧種を狙っている。
非絶滅危惧種に関しても、野生動物に近づこうとする自然愛好家がこうした信号を使うため、動物の行動が歪められていると、生物学者らは指摘する。
科学者らのグループはこのほど、無線発信器が取り付けられた動物がいかに危険にさらされているかを示す証拠集めを開始した。
科学者らはまた、狩猟者が悪用しにくくなるような追跡システムに変更するよう呼びかけている。
狩猟と漁獲
カナダ、カールトン大学の生物学者スティーブン・コーク教授によると、無線発信器が「意図しない結果」を引き起こしており、この技術を使用する科学者の間で懸念が広がっているという。
「我々は研究をするために出かけて行って、そこで得られた情報を提供して、それでよしとするのだが、この過程を損ないかねない多くのことが存在する」と、コーク教授はBBCに語った。
同教授によると、衛星や無線を経由して通信する応答機を動物に取り付けることが、種の研究法としてますます一般的になりつつあり、これによりさまざまな生物の動きや生態に関する「驚くべき」洞察が得られてきた。
絶滅危惧種の少ない個体数を監視するために無線発信器が使用される場合があるほか、ずっと大規模に無線発信器が使用される場合も多いという。
たとえば、魚群や魚の動き、移動パターンを観察するために、10万尾以上の魚に無線発信器を取り付けて、北米北西部のコロンビア川流域に毎年放流している。五大湖にもまた、無線発信器を付けた魚5000尾以上が生息している、とコーク教授は加えた。
コーク教授によると、さまざまな人々が、あらゆる種類の動物の位置情報を知るために、無線発信器から発信された信号の活用に関心を持っているという。
コーク教授が定期刊行物「コンサベーション・バイオロジー」の生物学者たちと共著した論文には、無線発信器が、意図せずに密猟者や狩猟者、写真家、自然愛好家に力を貸してしまった困ったケースがいくつか詳細に述べられている。
「この問題を取り上げた論文はこれまで多くなかった」とコーク教授は言う。「インターネットやニュースサイト、従来あまり使われてこなかった情報源などを調査して、多くの事例を見つけた」
以下は、コーク教授らが収集した事例の一部だ:
・オーストラリア西部での保全活動中に無線発信器が取り付けられたサメが、無線信号を追跡して来た人たちに見つかり殺された
・インドの密猟者が、ベンガルトラの首輪から送信されたGPSデータをハッキング未遂
・商業漁業者の船が、自分たちが捕獲したい魚の近くで捕食すると知られている魚を見つけるために、無線データを使用
・「オオカミ迫害」に取り組む米国のグループが、オオカミを追跡して捕獲するために信号を解読
コーク教授によると、悪用を制限するために、ある種の無線発信器の「信号音」を傍受できる無線受信器について、禁止措置を取った国立公園もあったと言う。
論文を受けて、他の生物学者らが、動物を狙う他の方法に関する情報を共有してくれたという。
英エクセター大学の生態保全センターでセンター長を務めるブレンダン・ゴッドリー教授は、生態のせいで無線発信器データの悪用が比較的容易な動物も中にはいると話した。
サメは近くの水中にある釣り糸や餌などの擬似餌に反応する可能性が高いため、サメの大まかな位置情報が分かれば、サメ本体を見つけやすくなる。
対照的に、他の種はサメのようには反応しないため、無線発信器を取り付けられていてもかなり発見しにくい可能性があるとゴッドリー教授は説明した。
同教授はさらに、動物の生態に対する人間の理解度を深めるための無線発信器が、意図されたこと以上の影響を及ぼしていると語った。
無線発信器は保全の取り組みに直接貢献できる上に、保全の効果をずっと上げることもできるのだという。
「オサガメに無線発信器を付けて2週間もしないうちに、オサガメのために作られた海中公園が不十分だったことが分かった」とゴッドリー教授は述べた。
無線発信器から得られたデータから、オサガメが近くにいる時に漁船団が避けるべき場所が分かった。
ただしゴッドリー教授は、無線発信器が議論の種となっており、解決しなければならないのは明らかだとした。
「我々科学者は、自分たちがなぜ研究しているのかを社会に知ってもらうようもっと取り組まなければならないし、研究の成果を共有するようもっと取り組まなければならない」と話した。
(英語記事 Tagged animals at risk from hunters and nature-lovers)