小説仕立ての図書館学 捜査協力要請、差別本…さまざまな場面を想定し 元太宰府市民図書館長坂井さんが出版 [福岡県]
県立図書館司書や太宰府市民図書館館長を務めた坂井暉(あきら)さん(81)=春日市=の著書「図書館つれづれ草」(樹村房)が、図書館関係者らの間で「面白い」と評判になっている。副題は「ライブラリアンシップを考える現場ストーリー集」。さまざまな問題に直面する図書館人のあるべき姿を小説仕立てで描いた。
14編の物語で構成。その1は「チーフ、警察の方が見えています」で始まる。県立図書館に来たのは県警捜査1課長。殺人事件に使われた凶器が電話帳の複写物で包まれており、それを複写した人物の名を記した「複写願い」を見せてくれと要請に来たのだ。
「重要な証拠品になるかもしれない」と言う1課長に、チーフ司書の中原は「本人のプライバシーに当たり、お見せできません」と断る。「館内を捜索しますよ」とすごむ相手に、中原は「令状はあります?」と応じ、1課長は引き下がる。
話はそこで終わらない。中原は自省する。「閲覧拒否は社会正義と言えるか。請求は公共の福祉に当てはまるものではなかったか?」。そして、戦時中の思想統制を教訓にした1954年の「図書館の自由に関する宣言」から、拒否は当然。ただ、裁判所が令状発付を認めれば受け入れざるを得ないとの結論に達する。
このほか、委託司書導入や「ピノキオの冒険」を障害者差別本とする抗議への対応などなど。坂井さんの分身の「中原」が、図書館の現場で起きる諸問題に対応していく。県立図書館在職中に慶応大法学部などを通信教育で卒業し、九州大大学院法学研究科で学んだ蓄積も生かされている。
出版は近畿大通信教育部の非常勤講師として司書課程を教えた際、体験談を柔らかタッチでまとめた資料が、図書館関連の本を手掛ける樹村房の社長の目に留まったのがきっかけ。「『今までにないスタイル。ぜひ出版しましょう』と声をかけられた」。出版前の昨年4月から春日市の高齢者施設で暮らす坂井さんはそう振り返る。
慶応大で坂井さんを指導した高山正也元国立公文書館長(東京)は本を一読し「図書館学の本の多くは硬く教科書的だが、この本は読みやすく、本質を突いている」と絶賛している。
=2017/03/01付 西日本新聞朝刊=
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