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【ニュースの深層】「バカ」「左翼」「スパイ」老舗出版社の従業員が浴びた罵詈雑言の数々 その衝撃的な音声データの中身は…

【ニュースの深層】「バカ」「左翼」「スパイ」老舗出版社の従業員が浴びた罵詈雑言の数々 その衝撃的な音声データの中身は…

出版社「青林堂」でパワハラを受けたと東京地裁に提訴した中村基秀さん(中)=2月13日、東京都千代田区

 パワハラで精神疾患になり働けなくなったなどとして、漫画誌「ガロ」を発行していた出版社「青林堂」(東京都渋谷区)の従業員、中村基秀さん(48)=休職中=が青林堂と社長らを相手取り、慰謝料や未払い賃金計約2000万円を求める訴えを東京地裁に起こした。中村さんは提訴時の会見で「パワハラで苦しんでいらっしゃる皆さんが助かるためのヒントになるような戦いができれば」と語った。一方の青林堂は「訴状を見ていないのでコメントできない」としたが、公式ツイッターで男性が加入した労働組合を批判。騒動は「会社」対「労組」の様相を呈している。

300時間の音声データ

 訴状や会見時の説明によると、中村さんは「ガロ」の営業部長を務めた後に退社。平成26年6月に社長の口利きで再び入社したが、労働組合に加入したことを理由に解雇。東京地裁で解雇無効となり27年10月に復職したものの、他の従業員から隔離され、社長から「お前がバカだからできない」「左翼だ」「君の名前も公安に知らせている」などの発言や不当な業務命令を受けたという。中村さんは28年2月に会社に指定されたクリニックで「鬱病」と診断され、休職している。

 提訴に当たっての会見で中村さん側が示したのが、300時間にわたるという社長や専務、他の社員との会話記録だ。音声データを書き起こしたもので、その一部を抜き出してみると…。

 〈平成27年10月29日〉

 専務「やってないじゃん。企画考えてないじゃん。自費出版」

 中村さん「考えてます」

 専務「じゃあ出してよ。自費出版の企画」

 中村さん「何もできないじゃないですか、今」

 社長「お前がバカだからできないんだよ!」

 専務「そうだよ」

 中村さん「バカだからできないんですか」

 専務「そうだよ。能力が足りないからじゃない」

 社長「みんなできることじゃないか、こんなことは」

 訴えによると、中村さんは復職後、他の社員とは別の階に隔離され、会社から与えられたパソコンも、インターネットや社内LAN、プリンターにつながっていないものだった。スマートフォンの使用も禁止され、外出や電話も許されず、事実上仕事ができない状態に置かれていたという。

仕事は「アルバイトの手伝い」

 〈28年1月19日〉

 専務「テープ起こしの続きだね。(中略)じゃあ今日終わるね」

 中村さん「ほぼ。(中略)ああ、もう全部終わってますね」

 専務「はい。で、業務の報告するときには」

 中村さん「はい」

 専務「アルバイトさんの手伝いって書いといて」

 中村さん「……」

 専務「アルバイトさんの手伝い。これ、アルバイトさんの仕事なの、起こしは。だから、アルバイトさんの仕事、テープ起こし、アルバイトさんの補助って書いといてください」

 中村さんによると、会社は勤務時間をタイムカードにつけさせていたが、そのタイムカードや勤務記録に「アルバイトの補助」と書かせたり、勝手に「スト中」と書き込んだりしたという。原告側は会社側が男性にパワハラで精神的な被害を与えたと訴え、スト扱いとして減額した賃金などの支払いを求めている。

「ユニオンは左翼の巣窟だ」

 ただ、訴状とともに裁判所に提出された会話記録を追っていくと、中村さんと会社側の対立の根底にあるのが「労働組合」であることが分かってくる。

 会話記録によると、社長らは「全ての元凶はユニオン」「労働組合といったらみんな左翼」「君たちは左翼の巣窟だと思ってる」などと、労組に対する批判をたびたび行っている。

 〈27年12月3日〉

 社長「君の名前も当然、公安には知らせてるし(略)。公安監視対象になってるよ」

 中村さん「ぼくもですか」

 社長「当たり前じゃん、そんなの。公安っていうのもいろいろ見るわけよ。で、うちも、ほら、保守だから」

 〈28年1月22日〉

 専務「中村君さ、自分は社長に好かれてると思う? 信頼されてると思う?」

 社長「自分だよ」

 専務「質問」

 中村さん「それはないんじゃないですか」

 専務「あり得ないよね。じゃ、嫌われてるよね、社長にね」

 社長「おれは嫌ってるから」

 専務「信頼されてないよね」

 中村さん「そうかもしれませんね」

 専務「そうかもしれないじゃないのよ」

 社長「そうだよ」

 専務「だって、自分が社長に信頼されるようなこと、何した?」

 社長「おれにとってプラスなこと、何した?」

 専務「何した? 売上は上がらない。会社はめちゃめちゃにする。ブラック企業だって言われる(中略)」

 社長「周囲に知らせて、うちのスパイじゃん」

 専務「スパイだよね。スパイって楽しかった?」

 原告側は、こうした発言が労組に対する根拠なき誹謗中傷で、組合の名誉を傷つけるものだと主張している。

 一方の青林堂側は提訴に際し、「訴状を受けとっておりませんので、コメントは差し控えます」としたが、ツイッターで「労組の活動によって会社や組合員以外の社員が被害を受けている」といった主旨の発言をたびたび行っている。

 舞台を「法廷」に移した両者の対立。第1回の公判期日はまだ決まっていないが、組合側は「4月ごろには始まるのではないか」と話している。

 【青林堂】 昭和37年、編集者である長井勝一氏が創業し、漫画雑誌「ガロ」を発行していた出版社。現在は、雑誌「ジャパニズム」や元女優の千葉麗子さんの「くたばれパヨク」などの出版で知られる。

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