ミュンヘン中心部の高級ホテル「バイリッシャ―・ホーフ」。ここで毎年2月に開かれる「ミュンヘン安全保障会議(MSC)」は、民間団体が主催するイベントだが、ドイツ政府の首相をはじめ、主要国の外務大臣、国防大臣らが一堂に集うユニークな催しだ。比較的狭いホテルなので、通路は立錐の余地もないほど混み合うことがある。参加者は特定の条約、協定について合意しなくてはならないという、時間的なプレッシャーにさらされていないため、比較的自由に意見を交換できる利点もある。
注目されたペンス演説
今年2月17~19日に開かれたMSCは、内外のメディアや安全保障関係者から特に大きな注目を浴びた。昨年11月にトランプ政権が誕生してから初めてのMSCであり、同政権の副大統領マイク・ペンスが参加したからである。彼が米国外で演説するのは初めてのこと。
トランプは選挙期間中に、「NATOは時代遅れだ」と言い切っていた。「トランプの大統領就任とNATOの運命/atcl/opinion/15/219486/120600023/」でお伝えしたように、この発言は、欧州に強い不安と動揺をもたらしている。欧州諸国の指導者たちは、「米国は将来も欧州の防衛に関わるのか。それとも、欧州から徐々に手を引こうとしているのか」という問題に強い関心を示している。
特にロシアが2014年にクリミアに戦闘部隊を送って強制併合、ウクライナ東部の内戦にも介入するなど、不穏な動きを強めている。ロシアと国境を接するバルト3国やポーランドでは、80年代の東西冷戦の時代に似た不安感と緊張感が高まっている。MSCで、米新政権のナンバー2が、NATOの未来についてどのような方向性を示すのかが注目されたのは、そのためだ。
「欧州諸国は約束を守れ」
ペンスが2月18日にミュンヘンで発信したメッセージは、独首相アンゲラ・メルケルら会議場を埋めた欧州諸国の政治家たちの胸に、安堵と不安が混ざった感情を生じさせたに違いない。
ペンスは、トランプのような露骨な表現を避け、「米国はNATOを力強く支援する。大西洋を挟んだ軍事同盟への関与は揺るがない」と述べた。紋切り型の表現ではあるが、少なくとも米国は、欧州との軍事同盟に関わり続けるという言質を与えた。このことは、メルケルら欧州諸国からの参加者に、一抹の安堵感を与えただろう。
だがペンスは、彼のボスからのメッセージを伝えることも忘れなかった。それは、「米国は防衛ただのりをもはや許さない」という意思表示だ。