(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年2月28日付)
インド南部ハイデラバードにあるヒンズー教の寺院で祈りをささげる女性(2016年8月12日撮影)。(c)AFP/NOAH SEELAM〔AFPBB News〕
インドはドナルド・トランプ氏の米大統領選出に平静に反応した。選挙結果に驚きはしたものの、ニューデリーのエスタブリッシュメント(支配階級)は、共和党政権、民主党政権双方を通し、過去20年間にわたり米国とインドの関係が――数回の中断を除くと――着実に改善してきたことに慰められた。
また大統領候補として、トランプ氏はインド系米国人有権者に言い寄っていた。特に記憶に残るのがボリウッド映画をテーマとした政治集会での呼びかけで、トランプ氏は「私はヒンドゥーを愛している」と宣言し、自分のリーダーシップの下で米国とインドは「一番の親友」になると約束した。
だが、米カンザス州のバーで51歳の退役海軍兵によって2人のインド人コンピューターエンジニアが銃撃された先週の事件以来、インドの落ち着きは恐怖に変わった。報道によると、銃撃犯は2人に向かって「俺の国から出ていけ」と言った後に発砲。撃たれた1人、スリニバス・クチボトラさん(32)は死亡した。
ホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官は、エンジニアの襲撃――2人ともカンザスに拠点を置くGPS(全地球測位システム)メーカー、ガーミンの従業員だった――と、トランプ氏の悪意に満ちた反移民レトリックとの関係を一切否定し、そのような見方は「馬鹿げている」と述べた。
だが、毎年、100万人の観光客に加え、数十万人の市民を留学や仕事のために米国に送り込んでいるインドでは、2つの出来事の関係性は馬鹿げているようには見えない。
ガーミン本社で行われた感情的な記者会見で、犠牲者の未亡人、スナヤナ・ドゥマラさんが「政府からの答えを求めます。ここにいるすべての人たちのために、答えが必要です。このヘイトクライム(憎悪犯罪)を止めるために彼らがやろうとしていることは、一体何なのですか」と言ったとき、その言葉は苦悩に満ちた国民の思いを代弁していた。
インドメディアは彼女の呼びかけを繰り返した。「選挙運動を通して白人ナショナリストの傾向という真っ赤な石炭をあおり立てたドナルド・トランプ大統領と政治的な盟友たちは、この殺人事件が呼び起こした疑問に答えなければならない」。インディアン・エクスプレス紙は社説でこう書いた。