昨日、ドナルド・トランプ大統領が両院合同会議で演説しました。

アメリカ文化に詳しい視聴者なら、スピーチが始まる前、大統領が会場に姿を見せた時点で(今回はちょっと違うぞ!)ということに気がついたと思います。

その理由は、トランプ大統領がパワー・タイではなく、紺地に白のストライプ・タイをつけていたからです。

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ちなみにパワー・タイとは、上の写真でトランプの後ろに写っている2人が付けている鮮やかな青のタイ、ないしは真紅のタイを指します。

パワー・タイは(俺様はパワフルなんだぜ!)ということを世間に対して誇示するときにつけるものです。だから大統領選挙の討論会などの場ではパワー・タイは必須です。

しかし今回のトランプ大統領のファッションは「実業家風」でした。

これは暗にトランプが(これから腕まくりして難作業に取り組みます)という決意をシグナルしているのであって、それは謙虚で、へりくだった姿勢と言い直すことも出来ます。

事実、昨日のトランプのスピーチからは、普段の傲慢さが消え、ソフトで、耳触りの良い言葉が聞かれました。

ところで細かい点になりますが、昨日のトランプのタイは、本人から見て、ストライプが左から右下へと流れる柄でした。これはイギリス風のパターンであり、アメリカン・スタイルはその逆です。

つまりトランプは、わざと「間違った」タイを締めたということです。(アメリカのお店で、ストライプが左から右下へ流れるタイを探すのは、とても困難です)

紳士服の本場のイギリスでは、ストライプのタイは自分の所属する私立学校や社交クラブ、軍隊の連隊(=その場合はレジメンタル・タイと言われます)など、自分の帰属先をシグナルする重要な意味合いが含まれている場合が多いです。

アメリカは、おもにイギリスのストライプ・タイのファッションに魅せられて、それを模倣しました。

しかしアメリカは階級社会ではないので、イギリスのストライプ・タイの持つ秘められた意味は、大方失われたと言って良いと思います。

さらにイギリスの軍隊や学校は、アメリカ人が英国のスタイルを模倣したのが気に入らず、アメリカのアパレル・メーカーに対して苦情を申し立てました。

そこでアメリカの企業は、ストライプの方向をイギリスとは逆にすることで「パクリだ!」という批判から逃れようとしたのです。

このようにストライプ・タイにはいろいろなルールがあり、それを知らない人が着こなすのはとても難しいです。

僕は昔、会社の先輩からそういうことを指摘されて以来、ストライプ・タイを買うことは、面倒臭くなって一切、止めてしまいました。

ドナルド・トランプくらいのビジネスマンになると、ここに書いたような深淵な意味は当然わきまえているし、昨日彼が締めた紺地に白のヨーロピアン・スタイルのタイにも、何か僕には想像もつかないメッセージが込められているものと推察します。

その細かいニュアンスはともかく、それがパワー・タイではなかったということ……それが最も重要だったのではないでしょうか?