キングメーカーに躍り出た麻生太郎
総選挙を前に強まる「民自公大連立」の流れ。その中心に元首相がいる。
「橋下―安倍」密談の真相
野田がもっとも警戒するのは、維新の会と自民党の一部が連携する動きをみせていることだ。
橋下―渡辺会談の直前、8月15日には、朝日新聞が橋下による安倍晋三元首相への合流打診を報じたが、両者の接近は、実は2月26日まで遡る。
この日、安倍は大阪市で開かれた日本教育再生機構主催の教育シンポジウムに招かれていた。同機構の理事長で安倍内閣の有力ブレーンだった八木秀次がシンポジウム後の夜、安倍と維新の会幹事長の松井一郎大阪府知事をつなぎ、橋下との会談へ布石が打たれた。
3月12日夜、安倍は翌日に予定する学生のシンポジウム「Japan Youth Summit」で講演するため大阪市のリーガロイヤルホテル大阪に投宿していた。
午後9時すぎ、7階にある掘り炬燵式の特別和室に通された安倍の前に座っていたのは、橋下徹その人だった。橋下は人目を避けるように、ホテル裏口からエレベーターに乗り込み、安倍を待っていた。仲居の出入りを最小限にするため、用意された和食弁当を前に、ビールで杯を交わした後、橋下が切り出した。
「安倍内閣で成立させた新教育基本法を実現するために、私は大阪で教育改革に取り組んでいます。安倍先生とは政策が一致している。一緒にやっていきたいと考えています」
新教育基本法は「我が国と郷土を愛する」と明記するなど保守色が色濃い。安倍は橋下の言葉に頷きながら「一緒にやれるところは協力したい。目指す政策をどう実現するかとの観点から考えていきたい」と連携に前向きな考えを伝えた。
2日前に発表したばかりの維新の会の政策「船中八策」のたたき台をテーブルに置き、個別に政策論を交わして、○△と記号を付けていくと、大半の政策で方向性の一致を確認した。「安倍さんが首相になってくれれば、全面的に協力できる」と橋下が言うと、陪席した維新の会幹事長の松井が口を挟んだ。
「安倍総理、橋下総務大臣でもよろしいんじゃないですか。総務大臣ならば大阪市長との兼任も可能になる……」
この言葉に橋下も黙って頷いた。
さすがに、安倍サイドで同席した参議院自民党幹事長代行の衛藤晟一が「総理大臣までやった安倍さんが自民党から出て行くのは不可能だ。9月の党総裁選の結果を見てから判断してはどうか」と遮り、合流話は一時棚上げとなった。
だが、この会談の意味は重い。
安倍は首相退陣を余儀なくされた07年秋の雪辱を果たそうとポスト谷垣を射程に入れる。党内や世論では「自民党転落の引き金となった」と批判の声が強いが、党内外の保守層にはなお待望論が根強い。9月の総裁選でポスト谷垣の座を射止めれば、次期衆院選後に、大阪維新の会と連立を組む芽が膨らむ。
仮に総裁選で敗れても、一定の得票があれば、党内で影響力を行使して維新の会との連携カードを生かせる。さらに橋下と安倍の会談において、もっとも熱を帯び、両者の見解が一致したのは、集団的自衛権や憲法9条に関する議論だった。橋下との連携の先に、安倍は秘かに「憲法改正」を思い描く。