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18世紀のハングル文献 解題 |
≪隣語大方≫[인어대방] 刊年未詳
≪隣語大方≫は18世紀から19世紀にかけて使用された日本語/朝鮮語学習用の教科書である.≪隣語大方≫は司訳院で朝鮮人のための日本語学習用教材として出版された以外にも,日本で日本人のための朝鮮語
学習用教材として作られたものが江戸時代(1603-1867)後期に存在している.
浜田敦(1970)は≪隣語大方≫の原型は日本で成立し,それが朝鮮に伝わったと見ている.
原刊本は不伝.著者は不明.雨森芳洲が作ったという説もあるが原刊本はおそらく対馬島の通詞が編纂したものと推定される(安田章1980:339).
≪隣語大方≫(朝鮮刊本)<奎 1622>
編者未詳,刊年未詳
10巻 5冊,木版本,,縦33.3cm×横20.9cm
四周雙邊,有界,7行 21字
半葉匡郭:縦23.1cm×横15.7cm
版心:上白魚尾
序文, 跋文, 刊記はない. 編者と刊年は未詳だが,この本が倭学堂上訳官崔麒齡によって1790年(正祖14年)に開板されたという事実を≪承政院日記≫の正祖14年庚戌七月十九日丁酉條の記述から知ることができる.≪隣語大方≫に關する≪承政院日記≫の記事は以下の通り.
李祖承以司譯院提調意啓曰 四学譯官 各有方書肄習行話 而其中蒙倭兩學 書籍未備 學習猶難 識者憂嘆 厥惟久矣 年前倭學堂上譯官崔麒齡 購納隣語大方五冊 宲爲學語者之指南 故卽令麒齡 辦備財力 開板成書 今已訖工 漢学前啣金亨宇 亦以私財 釐正捷解蒙語 蒙語老乞大 蒙語類解等諸書 而俱是旁照蒙文鑑元本 [矢見]正訛謬 獲成全書 亦已補刊訖役矣 上項兩学試冊 纔已頒布本院定其課限 用於試取 而崔麟齡金亨宇等 捐財效勞之誠 殊甚可尙 溯考謄錄 以刊冊之勞 得蒙加資之典者 亦多其例 而事係恩賞重典 自下不敢擅便 何以爲之敢禀
その他に≪隣語大方≫の諸本には以下のものがある.≪隣語大方≫の諸本,そしてその成立過程ついては福島邦道(1969),浜田敦(1970),安田章(1980),정승혜(1994),申忠均(2000)等を
参照.
≪隣語大方≫[永平寺本] 金澤博士旧蔵 曹洞宗大本山永平寺現 蔵本
10巻5冊,木板本, 1790年,第9巻․第10巻の1冊がない零本.
≪隣語大方≫[苗代川本] 京都大学文学部言語学研究室 蔵本
4巻2冊,筆写本,1859年書写.
新村出が鹿児島県日置郡苗代川で購入.
≪講話隣語大方拔書≫という筆写本1冊が存在する ≪講話隣語大方拔書≫は≪隣語大方≫から110項目を拔萃し作ったもの.同じ形式の≪隣語大方≫と異なる人が書写したものと考えられる(安田章 1980:324).
≪隣語≫[東京大本] 東京大学文学部 言語学研究室 蔵本
1冊,筆写本,1873年前後書写(中島注:書写者:小倉進平).
≪隣語大方≫[明治刊本]
9巻3冊,印刷本,1882年,外務省蔵版.
≪隣語大方≫[筑波大本] 筑波大学付属図書館所蔵本
(?巻?冊) 筆写本,1751年書写(書写者:金夢霖).
漢文序文あり.仔細は福島邦道(1969a:51)参照.
≪?≫ [アストン本] ロシア東方学研究所所 蔵本
?巻2冊,筆写本
1841年書写.岸田文隆(1998:2)によれば,第4冊終丁に“天保十二年辛丑年知好(花押)/二月廿一日/浦P岩次カ”とある.(天保十二年=1841年)
≪Manual of Korean≫という本に収録されている.これは4冊からなるが,第1・2冊には≪交隣須知≫が,第3・4冊には≪隣語大方≫が收錄されている.詳細は岸田文隆(1998:1-7)参照.
≪?≫[国会図書館本] 日本国立国会図書館所蔵本
?巻?冊,筆写本,1897年書写.
≪?≫[浜田本] ?所蔵
9巻3冊,筆写本,江戸末期,第3冊は 不伝.
諸本中,永平寺本は朝鮮刊本と同じ板本と考えられる.安田章(1980:334)は永平寺本,苗代川本,明治刊本が同一の原本から出たものと見ている.東京大本≪隣語≫はハングルのみがあらわれるが,その内容は永平寺本,苗代川本,明治刊本とは完全に異なるものである可能性が高い(安田章1980:335). 浜田本の巻序が筑波大本の巻序と一致することから,浜田本は筑波大本と近い関係にあると考えられる.筑波大本と浜田本は一致する部分も多いが,異なる部分も当然ある.本文の異同は 写本間でも一致しないものが相当に多い.浜田本と写本間の異同については福島邦道(1969b)参照.諸本間で巻次の比較をしたものとしては福島邦道(1969b),安田章(1980),岸田文隆](1998),申忠均(2000)等がある.
原刊本の刊年について安田章(1980:339)は雨森芳洲の歿(1755年)後のことと見ているが,筑波大本の序文の記述から少なくとも1751年以前に原刊本≪隣語大方≫が存在していたことは間違いない.
本文は日本語原文を草書体で書いた後,その諺解文が載るという形式と取っているが,諺解文は全て漢字を混用している.漢字には漢字音表記はない.
【影 印】
朝鮮刊本:太学社(1986年)
永平寺本:京都大学文学部国語国文学研究室編(1963年)
:京都大学文学部国語国文学研究室編(1967年)
筑波大本:京都大学文学部国語学国文学研究室編(1969年)
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[最終更新日時:2011/09/18 21:32:40]