愛知<岡崎ノーベル酔談 大隅研のこころ>(6) 若者へ
大隅良典・東京工業大栄誉教授(72)は昨年のノーベル医学生理学賞の受賞後、1億円の賞金を使った奨学金基金の創設など、若き研究者の育成に尽力する考えを示してきた。次代を担う若者たちへ。大隅さんからの伝言とは…。 <本紙編集局長・臼田信行> 経済的理由で、研究者の道をあきらめる学生もいるんですか。 <大阪大特別教授・吉森保> 困窮していなくても、アカデミックな世界に残るのは不安定で、冒険したくなくて「就職します」っていう子が多い。阪大でも、優秀な子ほど就職しちゃうんです。 <大隅> 研究者は、そういう意味でヤクザな世界なんです。三十歳ぐらいになって助教になっても、安定するわけじゃない。ポストを探して、全国を渡り歩かないといけない。 私の時代は、みんな貧しかったから、ある意味で、すべての人が、研究者になるチャンスがあった。地域コミュニティーが、「この子は優秀だから、大学に行かせてあげよう」と支えていた。今みたいに早いうちから受験競争が始まって、貧乏な家の子は科学者になれないような、社会が固定化していくことには危機感がある。 <臼田> その若者のために、先生は基金をつくられた。 <大隅> はい。私はゼロから出発できるっていう世界が若者にあってほしいと思う。(エリートではない)違う血が入ってきてくれたら、大学も変わるかもしれないと思ったので。一億円なんて一人二百五十万円で四十人ですよ。たいしたことないんですけど、私の想像以上に、賛同してくれる方がいる。今の社会に対するメッセージ性があって、二千万円、何年も出しますっていう人もいて、すごいですよ。 <臼田> 皆さんのころと比べて、最近の若者をどう思いますか。 <大隅> 今の教授たちの悩みは、ボスが与えてくれたテーマをこなすだけの人が増えているということなんです。私たちの世代は「ボスなんて超えるもの」というのが当たり前だった。どんな偉い先生でも、超えていかなかったら次の世代の研究を背負っていけないという自負を、私たちの世代は持っていた。それが、徐々になくなっていった気がする。 <吉森> そうですね。今の子たちは「教授なんて、大したことない」って思えない。最初は気のせいかなって思ってたんだけど…。ここ五、六年のことですかね。 <大隅> いや、もっと古いね。それが深刻な問題。 <基礎生物学研究所(基生研、岡崎市)助教・鎌田芳彰> 今の社会にすごく感じるのは、パラダイム(時代を規定する考え)の中にいることを求められるということ。外側にいるとたたかれるから、外にいる資質を持っている人でも無理に中に入ろうとする。 <吉森> 若者はそれで萎縮している。 <大隅> 若者がね、若者らしくない。サイエンスはね、停滞すればするほど、権威になるんですよ。偉い先生がいて、すごいヒエラルキーがある研究領域は、停滞する領域なんです。今の権威を否定する−。若者はそんな存在であってほしい。 (発言者名は敬称略) =終わり <大隅良典記念基金> 優秀で、経済的支援が必要な東京工業大の学生に、奨学金を支給する。大隅さんがノーベル賞の賞金とほぼ同額の1億円を拠出し、他からの寄付も募っている。現在、学生への奨学金は日本学生支援機構の貸与型が中心。卒業後に返済に苦しむケースも多く、国は2017年度予算案に返還不要の給付型奨学金の新設を盛り込んでいる。 PR情報
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