ずっと不思議だった。
マーラーはなぜオペラを書かなかったのか?

あれだけ歌曲を残し、交響曲も独唱や合唱だらけ。
本人ももちろんオペラの指揮をたくさんしている。

絶対書こうと思えば書けたはずだ。

それに関して、バーンスタインがこういう仮説を立てている。
全部「二面性」だというのだ。


彼の音楽は喜怒哀楽が激しい。
楽しい時は無邪気で天真爛漫、暗い時はこの世の終わりのようだ。
それがめまぐるしく入れ替わる。その二面性。

楽壇を先導するとしての大人の成熟と、その中身の、童謡っぽい曲まで書いてしまう子供のような無垢さ。

大指揮者であり大作曲家であるという「二つの顔」。

西洋音楽の伝統を受け継ぎながら、東洋のメロディをしれっと入れてしまう不思議さ。

ロマン派と現代音楽のちょうど端境にいた作風の歴史性。


つまりありとあらゆる面で「分裂」しているのだ。


バーンスタインはこうも言っている。
彼は室内楽的な編成も得意だった。
しかし、四重奏曲もヴァイオリン・ソナタも書いていない。

室内楽が得意なのに、室内楽を書かなかった。
だから歌が得意なのに、歌劇を書かなかった。


確かに「分裂」こそがマーラーの音楽の醍醐味だ。
諧謔的でもあり、精神症的ですらある。


あるいは、オペラは彼にとって「総合」芸術すぎて、「分裂」するには向かなかったのかもね。
舞台も演出もいるしね。

まぁ、相当のひねくれ者だったんでしょうな。



(追記:ピアノ四重奏曲は発見されて?いるらしい。まぁでも学生の頃のだから、習作でしょうな)