母ちゃんです。
母ちゃんには常日頃から、迷惑をかけ続けら
れとる友達がおる。
母ちゃんの数多い友達の中でも、その人ほど
ダメな人は、そうそうおらんと思っている。
母ちゃんもこの人には、幾度となく頭を抱え
てきた。
そんなん言わんでも、考えたら分かるやろと
思うことも、全く分からん。
考えようともせん。
考えたところで分からん。
何かある度、重い荷物をしょいこまされるの
で、一緒におるのはストレス以外の何物でも
ない。
その人は、常に人の上に立ちたいという願望
を持っている。
人よりも自分のほうがすごいと言われたい、
自分のほうが素晴らしいと思われたい、
などというおかしな欲求を持っている。
実際は、何かあればすぐオロオロし、まわり
の人には受け入れられず、いつも人を悪く言
い、自分はいいものに仕立てあげてしまう。
先の見通しなど一切立てられず、考えはいつ
も足りず、世間知らずで、失言といえばこの
人やというほど、人をあっという間に引かせ
てしまう。
誉められれば、疑うことも知らず利用され、
すぐに図に乗っては油断し、目的を見失う。
自分が認められることは大好きなので、いつ
もしゃしゃり出ては失敗をし、そのくせ被害
者面も得意なので、そこの場におる人は皆が
悪者にさせられる。
だから、人が離れていく。
そりゃそうや。どうしようもない。
例えば、母ちゃんの通っているお店で店員さ
んが母ちゃんを誉めてくれとったらしい。
そうするとその人は、それが面白くなく、
「そうですね…。でも厳しい人ですよ…。」
などと、自分は被害者面をして、母ちゃんを
悪者にしてくるなんてのは、日常茶飯事や。
厳しいどころか、事あるごとに何かやらかし
てきては、何度も許している。
甘やかしとるぐらいや。
そんなんやから、他の人には全く相手にされ
ず、この人のストレスは、日々母ちゃんが、
一人で請け負っている。
それでも憎めやんのは、それを正直に言って
しまうところやろう。
どうしようもないとは思いながらも、正直に
言ってしまうウッカリさに、仕方なく許して
いる。
正確には、正直に言ってくるわけではなく、
おかしな事をいい始めるので、母ちゃんには
すぐにバレてしまう。
「あのさ、母ちゃんはな、あんたが他の人に
褒められたら嬉しいけどな。
何でいつも、自分がいい思いをしたいと思う
んか、よう分からん。
母ちゃんには、全く分からん。
それにな、そんなこと言ったら逆に嫌な人間
やと思われるで。
人に素晴らしいと思われる人はな、人が褒め
られとるのを、同じように褒められる人なん
やで。
人の素晴らしいを、認められる人なんやで。
そんなんは、友達とは言わん。
みっともない。」
この時は、羨ましかったんやと言っていた。
泣きながら謝ってきた。
母ちゃんのプライバシーを他人にベラベラし
ゃべってしまった時には、そんなことをして
しまい申し訳ないと謝るわけじゃなく、自分
がしてしまったことが怖くなり、そのストレ
スに耐えられず、それによってこんなに胃腸
が不調になって怖いなどと、謝ってきた。
自分を、この辛さから助けてという趣旨で、
どうやら謝っとるつもりの電話がくる。
笑ってしまうのは、母ちゃんを失うのが怖い
と言う。
そんなんしたら、失うやろ。
意味が分からん。
この時はまあ、そんなに苦しんどるのはかわ
いそうやなと、怒る気持ちより何よりそっち
が気になった。
でも言わなあかんことは言っとく。
「まあ、やってしまったことは、今さら何と
もならんし、しょうがないわ。
でもそれは、されたら嫌やわ。
あとな、この電話はごめんの電話やろ?
そしたら、自己弁護はしたらあかん。
謝るっていうのは、自分のしたことを心から
悪かったって謝ることやでな。
あんたは、母ちゃんの気持ちや立場を考えず
申し訳ないことをしたということじゃなく、
自分の今の苦しみを、早く取りたくて電話か
けてきとるでな。
それは、ごめんとは言わんで。
ほんで今からちょっと行かなあかんとこある
けど、15分ぐらいしたらかけ直すから。
その間一人でおるのは、不安で怖いかもしれ
へんけど、怒ってへんから気にせんでええ。
母ちゃんがかけ直すまでは、テレビ見たりと
かして何も考えやんとおったらええでな。
ごめんやけど、ちょっと待っとってな。」
15分後かけ直すと、母ちゃんの優しさがしみ
たと、泣いていた。
そしてこの事は、忘れっぽい彼女には珍し
く、今になってもなお、時々話題にしては、
思い出し泣きをしている。
そんなことしとる暇あったら、ちゃんと大事
にしてくれと、母ちゃんは日々思っている。
その人が、役員という大役をしていた時に
は、分かりやすく勘違いし、自分はえらいも
のやとふんぞり返っていた。
口調もきつく、偉っそうになり、目も当てら
れぬほどの状態になった。
自分が全てを動かしているような口ぶりで、
誰かを怒らせてしまったり、誰かに足元すく
われやんだらええけどなと、母ちゃんを心配
させ続けた。
案の定、心配は的中した。
自分の打ったメールやら言動やらが、誰かの
怒りを買い、他の人にまで触れ回られて、い
つものオロオロの姿に戻り、母ちゃんにすが
ることになる。
「アホちゃう?勘違いしとるであかんのや。
そのいい触れ回っとる人はどうやら面倒な人やから、そこは自業自得と思って諦めるしかないな。
でもあと会議があるのは数えるほどしかないやろ?
そしたらそんなもんは、一生で考えたら微々たる時間やから、耐えられるで大丈夫やわ。
しかし、どうしようもないな。」
その人との出会いは、他の人らとおる中で、
例によってアホなこと言ったせいで、皆から
浮いてしもて、バッシングを受けとる時やっ
た。
通りがかった母ちゃんが、しょうがないなと
助けたのが始まりや。
こんな迷惑な人でも、その人にしかないええ
とこもある。
まず、お笑い番組を観とると、笑い袋かとい
うほど笑い転げる。
その笑い声があまりに楽しそうで、こっちも
つられて笑ってしまう。
隠し事が出来やんらしく、しゃしゃっとる時
には、しゃしゃった顔を、緊張しとる時に
は、緊張しとる顔を、何かを企んどる時に
は、企んだ顔を、分かりやすくしてくるので
笑ってしまう。
きっと裏表が使いこなせやんのやろう。
だからこそ、信頼できる。
普段の何気ない風景やくだらん物にも、
いちいち笑っている。暇そうや。
その人は、よく笑う。
正確には、母ちゃんの前では、よく笑う。
自分のええとこはどこやと聞いてきたので、
この話をすると、
「え~。もっとかっこいいのがええわ。」
と言っていた。
自覚するとこから始めなあかん。
迷惑でストレスで、どうしようもなくて、
いつも頭抱えては、何で分からんのやと、
イライラする。
母ちゃんは、友達らと過ごす時間も好きやけ
ど、それと同じくらい一人でおる時間や、
一人で生きていくのが好きやのに、しつこく
まとわりついては、母ちゃんの人生の邪魔を
する。
迷惑やと言っても、好きやと言ってくる。
きっと人様に迷惑をかけるに決まっとる。
どうせ、そうや。
母ちゃんは、いつも迷惑しとる。
仕方ないので、見とかなあかん。
嫌やけど。
絶対、邪魔やけど。