「ムーンライト」がオスカーの夜に輝いた理由とは
- 2017年02月28日
リゾ・ムジンバ・エンターテインメント担当記者
最優秀作品賞がたとえスームズに予定通り発表されていたとしても、「ムーンライト」の受賞は近年のアカデミー賞で、最大級の話題であり番狂わせだと受け止められていただろう。
授賞式に先立ち有力視されていた「ラ・ラ・ランド」を抑えて、「ムーンライト」が作品賞を受賞したのはなぜだったのだろうか? そこには――あくまでも可能性だが――さまざまな要素が作用した可能性がある。
まず、当然ながら「ムーンライト」は、映画製作面で並外れて優れた作品だ。そしてもしかしたら単に、大人になるというテーマと、贅沢な撮影技術、そして絶妙な演技が、最優秀作品賞にノミネートされていた他のライバル作品よりずっと強く、賞に投票する人たちの琴線に触れたということかもしれない。
ハッシュタグ「#OscarsSoWhite(アカデミー賞はあまりに白い)」が使われるようになってから2年たった2016年、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは、多くの人種的少数派の人たちを、会員になって投票に参加するよう招待していた。以前よりは若干変化したものの、アカデミーは今も、圧倒的に白人男性が占めている。
受賞レースが接戦だった場合、幾分多様性を増した会員構成が勝因だった可能性はある。
アカデミー賞では、選好投票を採用している。つまり、一つの作品が、会員の一番のお気に入り映画として最多票を集める可能性がある。この場合、英国映画テレビ芸術アカデミー(BAFTA)など他で採用されているような比較多数得票制なら受賞作品に決定するところだが、アカデミー賞の場合、全体のうち相当な割合で2番目に気に入った映画として得票している別の映画に負ける可能性がある。
「ラ・ラ・ランド」は昨年8月、ベネチア映画祭で上演され絶賛されて以来、アカデミー賞の最有力候補となっていた。授賞式までにはほとんどのオスカー投票者が作品を見ており、絶賛に次ぐ絶賛が数カ月間続いたために、誇大に宣伝され過ぎだと感じた人もいたのかもしれない。
米国の現在の政治情勢のなかで、オスカー投票者の多くが、今こそ、特に重要な作品だと感じる映画を高く評価すべき時だと感じたのかもしれない。「ラ・ラ・ランド」は素晴らしい作品ではあるが、「ロサンゼルスへの歌って踊るラブレター」と評される作品を勝たせるには、あまりにも浅薄で自己満足的過ぎると感じたのかもしれない。
受容と苦悩を描いた映画「ムーンライト」は間違いなく、単なるエンターテインメント作品以上の映画に思える。
アカデミーには約6500人の会員がおり、会員が今回のように投票する理由は、それぞれの投票者で大きく異なる可能性があるし、今回も恐らくそうだっただろう。
アカデミーは投票の内訳を公表しないため、「ムーンライト」の勝利がどの程度の差だったのかは知る由もない。1票差だったのかもしれないし、圧勝だったのかもしれない。
しかし、楽勝で受賞すると目されていた映画に「ムーンライト」が勝ったことは、大きな偉業と言える。そして、子供から大人へと成長する主人公を追うバリー・ジェンキンス監督の物語には、映画界最高の賞を受賞する以上の価値があるのは間違いない。