いきがいさがし

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生きがいを探して模索する40代中年男の日記

野坂昭如「エロ事師たち」~書評・崩れてしまった本棚の中から

書評

本日は書評を書いてみたいと思います。

最近のはてな村は、とにかく検索流入検索流入と検索流入の言葉を目にしない日などないくらい、みなさん検索流入に躍起になっていますが、かと言ってそれを頑なに否定ししたところで、まるで自分に検索流入がない負け惜しみで検索流入を否定してるみたいなので、ここで私も一つ検索流入とやらを意識した記事を書いてみようと思った次第です。

とはいえ私は中年のおっさんなので、今の流行りには付いていけず例えば今日などはテレビでやってるR-1グランプリの感想みたいな記事を書けば、多少の検索流入も見込めるんだろうけど、すっかり固くなってしまった頭では現在のお笑いが理解できずに、的外れな記事になってしまうのは目に見えています。

何かの記事で「検索流入に相性がいいのは書評だ」と読んだことがあるので、本なら若いころに腐るほど読んだし、崩れてしまった本棚の中には心を震わせた名作も山ほどあります。本日はそんな崩れてしまった本棚の中から取り出した名作、野坂昭如の「エロ事師」の書評を書かせて頂きます。

~「崩れてしまった本棚の中から」というタイトルは、私が敬愛するid:kido_ariさんのブログ名「今にも崩れそうな本棚の下で」を無断でオマージュしたものです。~

 

概要

お上の目をかいくぐり、世の男どもにあらゆる享楽の手管を提供する、これすなわち「エロ事師」の生業なり――享楽と猥雑の真っ只中で、したたかに棲息する主人公・スブやん。他人を勃たせるのはお手のものだが、彼を取り巻く男たちの性は、どこかいびつで滑稽で苛烈で、そして切ない……正常なる男女の美しきまぐわいやオーガズムなんぞどこ吹く風、ニッポン文学に永遠に屹立する傑作。

アマゾン商品説明より引用

舞台は昭和30年代後半の大阪。冒頭シーンは主人公のスブやん(名前の由来は酢豚が好きだから)と相棒の伴的が、ボロアパートの上階の部屋から聞こえてくる夜の営みの盗聴録音テープを鑑賞する所から始まります。

そしてそのテープは一本5千円でスブやんが買い取るのですが、今の物価に換算すると何とそれは約5万円!スマホでモザイクなしのAVがタダでいくらでも見られる時代の人間からすると、アマチュアが盗聴録音したエロテープが5万円とは驚きなのですが、当時はそれが当たり前だったのです。

この作品は主人公・エロ事師のスブやんと、その仲間たちが世の中のエロい男の願望を叶えるために奔走する姿を通して、男の哀しい性と女の逞しさを野坂昭如の独特の文体で綴る、落語のような漫談のような生身の人間たちのリアルな性の物語なのです。

 

エロ事師って何?

「男どもは~これが女やという女を求めはんのや。実際にはそんな女、この世にいてえへん。いてえへんが、いてるような錯覚を与えたるのが、わいらの義務ちゅうもんや~エロを通じて世の中のためになる~目的は男の救済にあるねん、これがエロ事師の道、エロ道とでもいうかなあ」

文庫版146ページより

 スブやんはエロ事師という職業について上記のように語ります。

いてへんがいてるように錯覚を与える、これは処女を抱きたいと願う男には処女(のフリをした女)を抱かせ、痴漢をしてみたいと願う男には満員電車で自分の尻を触らせ、あの手この手で顧客のニーズを満たすスブやんのサービス精神の現れなのです。

最初は冒頭のような盗聴テープの販売から始まり、アイコラヌード写真、ポルノ上映会などのセコイ商売から始まり、とうとう自分でポルノ映画製作を始め、名士を集め乱交パーティーを開くまでにまで事業を拡大していく、スブやんのサクセスストーリーでもあります。

スブやん一味には、ポルノ映画監督を任される機械担当の伴的、雑用係のゴキ、シナリオ担当で自分の作品でオナニーするエロ小説家カキヤ、乱交用の女調達係のポール、同じくナンパ担当のアホ男カボー。

商売仲間にはニセ処女あっせん業のおばはんと処女役で娘の安子、白痴の娘を食わせるために娘相手に白黒ショーを行うおっさん、売春婦に仕立て上げられた生活苦の宗教家松江など、個性の濃い脇役が揃っております。

 

エロ事師たちで描かれる生と性

エロ事師たちというタイトルなので当然エロシーンが多く描かれているのですが、その独特の文体のせいか不思議と劣情を刺激される事はありません。文体以外にもあまりにもあっさりと、特別な事でも何でもない当たり前の行為として性行為が描かれているという理由もあります。

また作中では何人か人が亡くなるのですが、それもあっさりと描かれ、スブやんの妻が死産した時にはノリの空き缶に入れて川に流したり、仲間のカキヤがオナニー中に死んだ時には、カキヤが生前好きだったからと言う理由で棺桶を雀卓にして麻雀を行うなど、性も死も別段盛り上がるシーンとして取り上げる事もありません。

これは著者の野坂昭如本人が神戸の空襲で、おびただしい数の人が焼死する光景を目の当たりにした影響だと言われていて、それは代表作「火垂るの墓」にも同じことが言え、野坂昭如の生死観が強く表れていると言えるでしょう。

 

下らんビジネス書よりもためになるエロ事師たち

色んな枝葉の部分はありますが、基本的な筋としてはスブやんのエロ事師としての仕事ぶりと顧客とのやりとりで話は進んでいきます。著者野坂昭如は顧客の事を以下のように評します。

顧客は貪欲な生徒であり、スブやんは教師だった。そしてこの生徒きわめて上達が早く、古ぼけた公行の写真眺め随喜の涙をながした男が、たちまちすれてカラーのブルーフィルムをあくびまじりに批評しはじめるまで一年とはかからぬ

文庫本156ページより

これに付いては私も身に覚えがあって、昔はエロ本を拾って熱く震えられていたのが、今ではモザイクなしのAVを見ても「駄作やな」と一笑に付したりする事もあって、自分の事を言われてるようで恥ずかしくなります。

ですがそんな貪欲な顧客に対してもスブやんは以下のように、常に前向きに顧客のニーズを満たすように奮闘努力を怠らないのです。

いっぱつバチーンと、これがエロやいうごっついのんを餓鬼にぶつけたりたいねん

文庫本156ページより

あまり書くとネタバレが過ぎるので止めておきますが、スブやんの営業マンとしての技量はけっしてエロ事師でなく、他の物品を扱っていても成功していただろうと想像される程の物なのです。

スブやんはその商売柄、いつ警察に捕まってもおかしくない身分です(実際作中では2度逮捕されています)しかし何があっても顧客に捜査の手が伸びないような方策と、そんな怪しい商売をしながらも絶大な信用を得る心配りは、一流の営業マンとして間違いなく通用するでしょう。

先に顧客から信用を得てそれが商売に繋がると言うスブやんの手腕は、成績が伸びずに悩んでいる営業マンや、思ったようにアフィリエイトの成果が出ないとお悩みのブロガーのみなさんにも、その辺のしょうもないノウハウ本よりも大いに参考になる部分があると私は自信を持ってお勧めいたします。

男の愚かさと女の逞しさの狭間を、時には真正面から受け止め、時にはヒラリと身をかわし強かに泳ぎ回るスブやんの処世術に酔いしれ虜になった頃に、ずっけこてしまうような衝撃のラストを迎えるのですが、それはどうかみなさまの目でお確かめ下さい。

 

まとめ

とても長くなりましたが、この程度ではこの作品の魅力をお伝えしきれないのが口惜しいです。また書評を書くのがこれほどまでに難しいとは想像してなくて、気軽に手を出して、今とても後悔しています。書評を書いておられるブロガーさんの凄さが改めて解りました。

でも昔読んだ本をもう一度読み返すいい機会になったし、書評は書けば書くほど上手くなると聞くので、たまには月に一回くらいはまた書評も書いていきたいなと思っております。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。

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