一般財団法人親学推進協会 理事長 高橋史朗からのメッセージ ― 2012-09-16
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理事長 高橋史朗からのメッセージ
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「一般財団法人親学推進協会 メールマガジン」第32号
9月10日、埼玉県議会議員5名、向山洋一代表を初めとするTOSSの先
生方とともに、静岡県の函南さくら保育園のHQ教育視察を行い、澤口俊之氏
の講演を拝聴した。参加者は100名を越えたが、21世紀の教育課題である
「脳育」の画期的なモデルを全国に広げるため、来年3月27、28日に高野
山で「HQ教育リーダー研修会」を開催し、幼小の連携、超党派の親学推進議
員連盟との連携を深めることになった。
発達障害は人間性知能(HQ)の障害群と捉える澤口俊之氏は「ほとんどの
発達障害で、ワーキングメモリを向上させると発達障害も改善します」と明言
し、「その方法に関する論文は、国際学術誌に掲載されている・・・その論文
のデータは主に函南さくら保育園で得ました」と述べている(『SAKURA.
H.Q教育メソッド』どりむ社、参照)。
ところで、5月初旬から親学批判の津波が押し寄せている。その批判の矛先
は、発達障害と親の育て方、伝統的子育てによって発達障害は予防・改善でき
るのか、の二点に集約される。親学や私の主張が誤解されたことは極めて残念
であるが、混乱を避けるため、「家庭教育支援法・条例」から発達障害問題を
除外することにした。
この問題の出発点は、私が大阪の木島幼稚園と橋波保育園の発達障害児の「
早期発見・支援・療育」の実践の成果に注目し、その成果を全国に広げたいと
発願し、『脳科学から見た日本の伝統的子育て―発達障害は予防、改善できる』
(モラロジー研究所)を出版したことにある。
同書において、育て方は発達障害の「原因」ではなく、虐待などの不適切な
養育や環境因によって生じる「二次障害」に対するケアとサポートが求められ
ている、と明記した上で、次のように提案した。
保育、教育、医療、福祉などの縦割り行政の悪弊を廃して連携を図り、子供
の発達段階や障害特性に応じたかかわり方について親を支援し、保育士などが
発達障害を早期に発見・支援する研修の充実、保護者と支援者との横の連携、
乳幼児期から就労までの縦の一貫した連携を図る人材の育成、地域支援システ
ムの構築が急務である。
埼玉県が昨年から2年連続で約2億円の予算で実行している発達支援プロジ
ェクトでは、これらの多くが実現しており、この先駆的モデルを全国に広げる
必要がある。
5月以降の不当な批判は、前述した同書の核心部分や親学の根本理論を詳述
した『親学の教科書』(PHP研究所)を批判したものは皆無で、専ら親学と
私の主張を曲解した同条例案を根拠にしており、「高橋史朗が唱える児童の発
達障害が親の愛情の注ぎ方に起因するとした親学」(ウィキペディア)という
全く根拠のないデマゴギーに立脚している。
そこで、改めて私の見解を明らかにしておきたい。まず、第一に、私は「発
達障害が親の愛情の注ぎ方に起因するとした親学」を提唱したことはないとい
うことである。
現在、全国各地で超党派の議員勉強会が開催されており、各地の異なる状況
を踏まえて、各県独自の家庭教育支援条例案が議員の私案段階で複数立案され
ており、今回マスコミが報道した条例案はその私案の一つにすぎない。
第二に、混乱を整理するために「発達障害」という用語の用い方を再検討す
る必要があると思われる。すなわち、①医学的な意味での「発達障害」(先天
的器質的な脳機能不全)と②後天的な「精神発達不全」を明確に区別する必要
がある。
発達障害者支援法が定義している「発達障害」は①の意味であり、これが「
親の愛情の注ぎ方に起因する」はずがない。医学的な意味での「発達障害」の
「人と関わらない=不関性」は主原因である認知の悪さから来る「人を感じ取
れない、関われない」状態で、「親の愛情の注ぎ方」とは関係がないことは明
白である。
②の「精神発達不全」は①と表面的な特徴は似ているが、本質的に異なるも
のであり、環境因、非常に不適切な養育や養育放棄などにより、精神発達に取
り戻せないほどの歪みや遅れが生じるものである。
愛着障害などの養育・環境要因から二次的に生じた疑似発達障害と①の発達
障害、とりわけ愛着障害と①の発達障害とを混同してはならない。5月以降の
混乱を整理するためには、この点が最も重要である。(岡田尊司『発達障害と
呼ばないで』幻冬舎新書、参照)
②の疑似発達障害(自閉的)の「不関性」は親からの虐待の結果、愛情固有
の形成が悪い状態であり、そのような状況が改善されれば、症状は軽減できる。
図解してみよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
発達障害(1)→脳機能不全(2)→表出能力不全(3)
認知不全(4)→感情把握不全(5)
言語理解不全(5)
状況理解不全(5)
(3)(4)(5)→対人意思・感情・疎通性が十分でない状態(6)→関係障害
(7)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
5月初旬に大阪維新の会宛に提出された日本自閉症協会や日本発達障害ネッ
トワーク等の要望書が予防できないと指摘しているのは、(1)→(2)の段
階であり、この段階での予防はありえない。症状を軽減し改善できるのは(5)
以降の段階であり、それ故に、「発達障害」という用語の用い方を再検討しな
い限り、混乱は収拾できないと思われる。
第三に、「伝統的子育て」について、「実体不明で根拠のない」「空想上の
勝手なイメージ」「子供虐待を生み出しやすい」などという誤った先入観、偏
見があるが、山住正巳他編注『子育ての書1~3』(平凡社)に、近世以前の
文献から掘り起こして体系化された「伝統的子育て」論が詳述されており、一
般庶民の親から子へ受け継がれてきた温和な育児法は虐待とは正反対のもので
ある。
詳細については、「伝統的子育て」のモデルを江戸期に求めた「親子で学ぶ
人間の基本」(DVD全12巻、日本家庭教育協会・田口佳史理事長)、拙著
『家庭教育の再生』(明成社)を参照されたい。
「しっかり抱いて 下に降ろして 歩かせる」と発達段階に応じたかかわり
方についての知恵を伝えてきたわが国の「伝統的子育て」は、愛着から他律、
他律から自律、自律から自立へと導くことが、子供の発達の保証につながるこ
とを示唆しており、前述した②の(6)→(7)の段階において、症状の軽減、
改善に役立つ。
授乳によって母親の脳内にストレスを緩和するオキシトシンの分泌が促進さ
れ、①さわる(スキンシップ)、②見つめる(アイコンタクト)③ほほえむ(
笑い、あやし)、④話しかける、⑥ほめる(「可愛くば二つ叱って三つほめ
五つ教えて良き人にせよ」)などの「伝統的子育て」によって、自閉症やうつ
病、不登校(慢性疲労症候群)などが深く関係していると指摘されているセロ
トニンが分泌する。
前述した五つを平山諭氏は「セロトニン・ファイブ」と命名しており、玉川
大学脳科学研究所の子守唄が母子の脳に与える影響についての研究や、大阪大
学の玉井克人教授の「スキンシップ遺伝子」が先天性表皮水疱症の子供に与え
る影響についての研究などに注目する必要があろう。
さらに、言葉(漢字の素読や俳句、和歌、お経など)、音楽(和太鼓、和声
笛、リトミックなど)、体操(体育ローテーション)のリズムを体験する活動
によってセロトニンが分泌することが有田秀穂氏によって検証(平成19年度
文部科学省教育改革推進モデル事業)されており、和太鼓や茶道などが前頭前
野を活性化し、発達障害児に与える影響についても森昭雄氏によって検証(日
本財団の助成研究)されている。
このような脳科学を活用した先駆的な教育実践は、埼玉の白鳥幼稚園、大阪
の木島幼稚園、橋波保育園(科研費で研究中)などでも行われている。これら
の実践を正当に評価し、脳科学研究によって実証された成果を全国に広げる必
要がある。
(親学推進協会理事長 高橋史朗)
理事長 高橋史朗からのメッセージ
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「一般財団法人親学推進協会 メールマガジン」第32号
9月10日、埼玉県議会議員5名、向山洋一代表を初めとするTOSSの先
生方とともに、静岡県の函南さくら保育園のHQ教育視察を行い、澤口俊之氏
の講演を拝聴した。参加者は100名を越えたが、21世紀の教育課題である
「脳育」の画期的なモデルを全国に広げるため、来年3月27、28日に高野
山で「HQ教育リーダー研修会」を開催し、幼小の連携、超党派の親学推進議
員連盟との連携を深めることになった。
発達障害は人間性知能(HQ)の障害群と捉える澤口俊之氏は「ほとんどの
発達障害で、ワーキングメモリを向上させると発達障害も改善します」と明言
し、「その方法に関する論文は、国際学術誌に掲載されている・・・その論文
のデータは主に函南さくら保育園で得ました」と述べている(『SAKURA.
H.Q教育メソッド』どりむ社、参照)。
ところで、5月初旬から親学批判の津波が押し寄せている。その批判の矛先
は、発達障害と親の育て方、伝統的子育てによって発達障害は予防・改善でき
るのか、の二点に集約される。親学や私の主張が誤解されたことは極めて残念
であるが、混乱を避けるため、「家庭教育支援法・条例」から発達障害問題を
除外することにした。
この問題の出発点は、私が大阪の木島幼稚園と橋波保育園の発達障害児の「
早期発見・支援・療育」の実践の成果に注目し、その成果を全国に広げたいと
発願し、『脳科学から見た日本の伝統的子育て―発達障害は予防、改善できる』
(モラロジー研究所)を出版したことにある。
同書において、育て方は発達障害の「原因」ではなく、虐待などの不適切な
養育や環境因によって生じる「二次障害」に対するケアとサポートが求められ
ている、と明記した上で、次のように提案した。
保育、教育、医療、福祉などの縦割り行政の悪弊を廃して連携を図り、子供
の発達段階や障害特性に応じたかかわり方について親を支援し、保育士などが
発達障害を早期に発見・支援する研修の充実、保護者と支援者との横の連携、
乳幼児期から就労までの縦の一貫した連携を図る人材の育成、地域支援システ
ムの構築が急務である。
埼玉県が昨年から2年連続で約2億円の予算で実行している発達支援プロジ
ェクトでは、これらの多くが実現しており、この先駆的モデルを全国に広げる
必要がある。
5月以降の不当な批判は、前述した同書の核心部分や親学の根本理論を詳述
した『親学の教科書』(PHP研究所)を批判したものは皆無で、専ら親学と
私の主張を曲解した同条例案を根拠にしており、「高橋史朗が唱える児童の発
達障害が親の愛情の注ぎ方に起因するとした親学」(ウィキペディア)という
全く根拠のないデマゴギーに立脚している。
そこで、改めて私の見解を明らかにしておきたい。まず、第一に、私は「発
達障害が親の愛情の注ぎ方に起因するとした親学」を提唱したことはないとい
うことである。
現在、全国各地で超党派の議員勉強会が開催されており、各地の異なる状況
を踏まえて、各県独自の家庭教育支援条例案が議員の私案段階で複数立案され
ており、今回マスコミが報道した条例案はその私案の一つにすぎない。
第二に、混乱を整理するために「発達障害」という用語の用い方を再検討す
る必要があると思われる。すなわち、①医学的な意味での「発達障害」(先天
的器質的な脳機能不全)と②後天的な「精神発達不全」を明確に区別する必要
がある。
発達障害者支援法が定義している「発達障害」は①の意味であり、これが「
親の愛情の注ぎ方に起因する」はずがない。医学的な意味での「発達障害」の
「人と関わらない=不関性」は主原因である認知の悪さから来る「人を感じ取
れない、関われない」状態で、「親の愛情の注ぎ方」とは関係がないことは明
白である。
②の「精神発達不全」は①と表面的な特徴は似ているが、本質的に異なるも
のであり、環境因、非常に不適切な養育や養育放棄などにより、精神発達に取
り戻せないほどの歪みや遅れが生じるものである。
愛着障害などの養育・環境要因から二次的に生じた疑似発達障害と①の発達
障害、とりわけ愛着障害と①の発達障害とを混同してはならない。5月以降の
混乱を整理するためには、この点が最も重要である。(岡田尊司『発達障害と
呼ばないで』幻冬舎新書、参照)
②の疑似発達障害(自閉的)の「不関性」は親からの虐待の結果、愛情固有
の形成が悪い状態であり、そのような状況が改善されれば、症状は軽減できる。
図解してみよう。
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発達障害(1)→脳機能不全(2)→表出能力不全(3)
認知不全(4)→感情把握不全(5)
言語理解不全(5)
状況理解不全(5)
(3)(4)(5)→対人意思・感情・疎通性が十分でない状態(6)→関係障害
(7)
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5月初旬に大阪維新の会宛に提出された日本自閉症協会や日本発達障害ネッ
トワーク等の要望書が予防できないと指摘しているのは、(1)→(2)の段
階であり、この段階での予防はありえない。症状を軽減し改善できるのは(5)
以降の段階であり、それ故に、「発達障害」という用語の用い方を再検討しな
い限り、混乱は収拾できないと思われる。
第三に、「伝統的子育て」について、「実体不明で根拠のない」「空想上の
勝手なイメージ」「子供虐待を生み出しやすい」などという誤った先入観、偏
見があるが、山住正巳他編注『子育ての書1~3』(平凡社)に、近世以前の
文献から掘り起こして体系化された「伝統的子育て」論が詳述されており、一
般庶民の親から子へ受け継がれてきた温和な育児法は虐待とは正反対のもので
ある。
詳細については、「伝統的子育て」のモデルを江戸期に求めた「親子で学ぶ
人間の基本」(DVD全12巻、日本家庭教育協会・田口佳史理事長)、拙著
『家庭教育の再生』(明成社)を参照されたい。
「しっかり抱いて 下に降ろして 歩かせる」と発達段階に応じたかかわり
方についての知恵を伝えてきたわが国の「伝統的子育て」は、愛着から他律、
他律から自律、自律から自立へと導くことが、子供の発達の保証につながるこ
とを示唆しており、前述した②の(6)→(7)の段階において、症状の軽減、
改善に役立つ。
授乳によって母親の脳内にストレスを緩和するオキシトシンの分泌が促進さ
れ、①さわる(スキンシップ)、②見つめる(アイコンタクト)③ほほえむ(
笑い、あやし)、④話しかける、⑥ほめる(「可愛くば二つ叱って三つほめ
五つ教えて良き人にせよ」)などの「伝統的子育て」によって、自閉症やうつ
病、不登校(慢性疲労症候群)などが深く関係していると指摘されているセロ
トニンが分泌する。
前述した五つを平山諭氏は「セロトニン・ファイブ」と命名しており、玉川
大学脳科学研究所の子守唄が母子の脳に与える影響についての研究や、大阪大
学の玉井克人教授の「スキンシップ遺伝子」が先天性表皮水疱症の子供に与え
る影響についての研究などに注目する必要があろう。
さらに、言葉(漢字の素読や俳句、和歌、お経など)、音楽(和太鼓、和声
笛、リトミックなど)、体操(体育ローテーション)のリズムを体験する活動
によってセロトニンが分泌することが有田秀穂氏によって検証(平成19年度
文部科学省教育改革推進モデル事業)されており、和太鼓や茶道などが前頭前
野を活性化し、発達障害児に与える影響についても森昭雄氏によって検証(日
本財団の助成研究)されている。
このような脳科学を活用した先駆的な教育実践は、埼玉の白鳥幼稚園、大阪
の木島幼稚園、橋波保育園(科研費で研究中)などでも行われている。これら
の実践を正当に評価し、脳科学研究によって実証された成果を全国に広げる必
要がある。
(親学推進協会理事長 高橋史朗)
コメント
_ 塚田直樹 ― 2012/09/16 07:11
_ 管理者 ― 2012/09/16 08:48
ご指摘ありがとうございます。
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