世界最安をうたい文句に、インドの無名の起業家モヒット・ゴエル氏が売り出したスマートフォン(スマホ)は、たった251ルピー(約420円)という空前の安さだった。
ゴエル氏の会社リンギング・ベルズのウェブサイトには昨年、そのスマホ「フリーダム251」への注文が殺到し、インドの巨大なスマホ市場の価格感度を浮き彫りにした。
だが、話がうますぎると思う人々もいた。注文の大部分が放置された末にゴエル氏が詐欺の疑いで身柄を拘束されるに至り、その見方はさらに強まっている。
ゴエル氏の逮捕は、ニューデリー近郊のガジアバードにある流通業者アヤム・エンタープライゼスの告発が発端となった。同社は、300万ルピー相当の注文をしたのに140万ルピー分の品物しか受け取っていないと申し立てている。
ウッタルプラデシュ州の警察とゴエル氏の広報担当者は、同氏が詐欺の容疑で身柄を拘束されたことを認めた。広報担当者は、ゴエル氏は問題の代金を返金すると付け加えた。同担当者の話では、ゴエル氏はフリーダム251の成功を目指す努力を続ける考えで、昨年7~12月の間に7万台を顧客に送り届けたという。
リンギング・ベルズの攻撃的な価格設定は、インドのスマホメーカーの安値競争を反映している。スマホメーカーは、世界銀行の統計で2015年の1人当たり所得が1600ドルという購買力の低い市場で戦いを繰り広げているが、需要は巨大だ。
■米中に匹敵するスマホ市場
インドでは昨年、スマホの販売台数が1億900万台に達し、台数ベースで中国、米国とともに世界三大スマホ市場の一つとなった。
時価総額でインド2位の上場企業であるリライアンス・インダストリーズは、第4世代(4G)スマホを6カ月間の無料データ通信サービス付きで2999ルピーという安さで売り出し、テレコム(電気通信)市場に本格参入した。
米アップルもインドを極めて重要な成長源として位置づけている。需要の大部分が旧型のiPhoneに集中していることから、アップルは低価格メーカーの間でシェアを広げるべく中古スマホの輸入許可を申請した。
だが、このような状況の中でもリンギング・ベルズの攻撃的なビジネスモデルは、電気通信業界のアナリストらを戸惑わせ、臆測の的となっていた。アナリストらは、最も安いスマホの部品代でもフリーダム251の価格を大幅に上回ると指摘している。同機種は台湾製の部品を使い、インドで組み立てられた。
By Simon Mundy
(2017年2月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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