トランプ米大統領は本来、米国のエリート層に対する反乱を率いているはずだった。実際には、エリートの楽しみのための宴会を用意している。
トランプ氏のホワイトハウスは全面的な規制緩和と減税、次世代の防衛契約を策定中だ。唯一の問題は、どんなスピードで実行するかにある。
対照的に、中間層のためのトランプ氏の経済プランは、そもそも乏しかった内容がすでに後退している。大型インフラ法案が成立する見込みは、急激に薄れている。マーケティングの世界では、これを「ベイト・アンド・スイッチ(おとり商法)」と呼ぶ。トランプ氏の経済政策の効果は、同氏の大統領選出馬のきっかけをつくったさまざまな条件をさらに深刻にすることだ。
最大の勝者は、ウォール街と化石燃料エネルギー産業、そして防衛産業から生まれる。トランプ氏に最も大きな影響を与えるバノン首席戦略官・上級顧問は先週、規制消滅を「行政国家の解体」として描写した。新たな規制が1つ設けられるごとに、既存の規制が2つ廃止されるという。今週、その第1弾が実施される見込みで、二酸化炭素(CO2)排出に上限を設けるオバマ前大統領の「クリーンパワー計画」と、クリーンな水に関する別の計画を取り消す大統領令が発令される。
トランプ氏が大統領に選出されて以来、この対策への期待がエネルギー株ブームをあおるのに一役買ってきた。ダウ工業株平均はトランプ氏の就任から最初の1カ月で、フランクリン・ルーズベルト以降どの大統領よりも大きく上昇した。
■お祭り騒ぎ、まだ見込める
金融株も大統領選以来、市場全体を上回って推移している。米リーマン・ブラザーズの破綻後にドッド・フランク法(米金融規制改革法)に盛り込まれた保護措置は、その大半とはいわないまでも、多くがトランプ氏の視野に入っている。保護措置には、銀行が他人のお金で投機するのを制限する「ボルカー・ルール」や、場合によっては、消費者――トランプ氏が「忘れられた米国人」と呼んだ人々――を無謀な売り込みから守るための対策が含まれる。トランプ氏は今月、そうした規則がウォール街の友人たちが融資するのを妨げてきたと語っている。
ほかのところでは、解禁期に入ってもう久しい。バノン氏のいう「解体」はすでに、米連邦政府の活動分野の大半に及んでいる。先週は、刑務所を運営する民間企業の株価が急騰した。連邦法に基づく収監の外部委託に終止符を打ったオバマ氏の規則を、米司法省が廃止したのだ。こうした企業の株価はすでに跳ね上がっていた。その前にトランプ政権が不法移民を釈放せずに、連邦収容センターに拘束すると発表していた。
同様に、米連邦通信委員会(FCC)の新委員長は、消費者を差別から守るために導入された「ネット中立性」規則の主要部分を廃止した。FCCは、ケーブルボックス市場を競争に開放する計画も破棄した。営利の高等教育セクターや防衛産業株、公営住宅の建設会社でも、同じようなお祭り騒ぎを見込んでおいたほうがいい。