評価:★★★★ 4.0点
LA・LA・LANDのLAはハミングのラ−ラーと同時に、「LA=ロサンゼルス=ハリウッド」という意味かと思い、そう考えれば「ハリウッド讃歌」の映画かとも思います。
正直言ってこの映画は、ハリウッド・ミュージカルとしての力は弱いといわざるを得ません・・・・・・・
しかしここには、ハリウッドやジャズという、アメリカ文化を彩ってきたコンテンツに対するノスタルジーだけではなく、それらに対して新たな命を吹き込もう、新たな火を灯そうという高い志が見えます。
それゆえ、ダンスや歌に不満を持ったにしても、私はこの映画を高く評価したいと思います。
<ラ・ラ・ランドあらすじ>
アメリカ・ロサンゼルスの夏の朝。ハイウェイは渋滞でクラクションが鳴り響き、いつしか車から人が外に出て踊りだし、ハイウェーで人々の踊りが繰り広げられた。
その中に女優を目指すミア(エマ・ストーン)とジャズピアニストを目指すセバスチャン(ライアン・ゴズリング)がいた。ミアが動かないのにイラついたセバスチャンはクラクションを鳴らしながら追い越すのに対し、ミアは中指を立てて反発した。
そんなミアは、映画スタジオのカフェで働きながらオーディションを受け、落ち続けている。そんなある晩ルームメイトに誘われパーティーに出かける。
その帰路夜の街をさまよい、ピアノの音に誘われナイトクラブに入る。そこにはセバスチャンがピアノを弾いていた。クラブのオーナーのビル(J・K・シモンズ)に、店の決めた曲を弾けと要求され、一時店を離れていたが復帰した夜だった。しかし、演奏しているうちにジャズを演奏し、首を言い渡される。店を去るセバスチャンにミアは感動を伝えようとするが、黙殺される。
ロサンゼルスの春。プールを囲んだパーティーで演奏するセバスチャンとミアは再会した。クラブの夜を忘れていなかった二人はトゲトゲしかったが、ミアが嫌なパーティー客から逃れるためセバスチャンに声をかけ、共に帰る。車を探す二人は、ロサンゼルスを見渡せる丘の上に至り、二人は歌い踊り、その夜は別れる。
次の日にはセバスチャンはミアの働くコーヒー店を訪ね、仕事が終わったミアと帰りながらお互いの事を語る。自分の夢がジャズクラブを開くことだというセバスチャンにミアはジャズは嫌いだと語る。それを聞いたセバスチャンがミアをジャズクラブに誘い、ジャズの魅力を熱く語る。そのクラブでミアに、TVショーのオーディションの連絡が入る。『理由なき反抗』に関係する内容なのだが映画を見ていないというミアを、セバスチャンは数日後に映画館でデートする事を約束する。しかし、その晩はミアが現在付き合っている男性と先約があった。ミアはセバスチャンを気にしつつ彼氏と過ごしていたが、ついに中座し映画館へと走る。映画館で二人は手を握り、気持ちを確かめ合う。
映画のあとで『理由なき反抗』のロケ地である、ロサンゼルスのプラネタリウムで二人はデートをし、歌い踊りキスをした。
セバスチャンの勧めで舞台劇の脚本を書き出したミア。二人はロサンゼルスの町で日々デートを重ねミアとセバスチャンは一緒に暮らすようになる。
ミアは、セバスチャンの夢ジャズクラブの名前が、チャーリー・"バード"・パーカーに因んだ「チキン・ステーキ」という店名に反対し、「セブ(セバスチャン)の店」が良いと勧めるが、「チキン・ステーキ」にジャズの伝統を込めたセバスチャンは応じない。そんなある日、ミアが母と「彼は定職につくか」と電話しているのを聞き、セバスチャンは安定収入を得るために音楽観が違う旧友キース(ジョン・レジェンド)のツアーに参加した。
しかし、ツアーで忙しいセバスチャンとミアはすれ違うようになる。
たまの水入らずのディナーでも、二人の溝は広がってしまう。ついにセバスチャンは、自分の成功をミアが臨んでいないと言い放つ。それを聞きミアは家を出て行く。
そして、ミアの一人芝居の日が来るが、セバスチャンはその日バンドの写真撮影と重なってしまい、駆けつけたときには終演していた。ミアは謝るセバスチャンに、数人しか入らない舞台は失敗したと言う。
ミアはもう終わりだと告げ、そして彼女は実家に帰ってしまう。
果たして、二人の運命は・・・・・・・
(原題 LA LA LAND/製作国アメリカ/製作年2016/128分/監督・脚本デイミアン・チャゼル)第74回ゴールデングローブ賞<ラ・ラ・ランド受賞歴>
作品賞(ミュージカル・コメディ部門)/主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)ライアン・ゴズリング/主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)エマ・ストーン/監督賞デミアン・チャゼル/脚本賞デミアン・チャゼル/主題歌賞"City of Stars"ジャスティン・ハーウィッツ
第70回英国アカデミー賞
作品賞/監督賞デミアン・チャゼル/撮影賞ライナス・サンドグレン/作曲賞ジャスティン・ハーウィッツ/主演女優賞エマ・ストーン
第89回アカデミー賞
監督賞デミアン・チャゼル/主演女優賞エマ・ストーン/撮影賞ライナス・サンドグレン/作曲賞ジャスティン・ハーウィッツ/歌曲賞"City of Stars"
第73回ヴェネツィア国際映画祭・女優賞エマ・ストーン
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ラ・ラ・ランド解説
ハリウッド・ミュージカルの歴史
========================================================この映画に言及する前に、まずはハリウッド・ミュージカルの歴史をご紹介させていただこうと思います。
1930年代〜1940年代は「ハリウッド黄金期」と呼ばれ、この時期に大掛かりなミュージカル映画が作られ、ジーン・ケリーやフレッド・アステアとジンジャ・ロジャースのコンビなどミュージカルスターがキラ星のように輝いていたのです。
当ブログ関連レビュー:
『雨に唄えば』
ハリウッドミュージカルの最高峰映画と
ハリウッドミュージカルのご紹介
更に言えば、ハリウッドミュージカルの持つ豪華な夢の世界とは、民俗学で言うところの「ハレ=祭礼」であり、それは戦後の混乱し飢えていた世界の「日常=ケ」が苦しければ苦しいほど、現実逃避としての力を発揮し得たと思うのです・・・・・・・・・・
正直言えば『サウンド・オブ・ミュージック』、『メリー・ポピンズ』『マイ・フェア・レディ』などは、ハリウッド・ミュージカルとは呼びがたい気がします。
最後のハリウッド・ミュージカルは、『ウエスト・サイド物語』(1961年)だといえるかもしれませんが、これもどちらかといえばブロードウェイの舞台色の味わいが勝った作品だと感じます。
いずれにしても、ハリウッド映画のミュージカルは、1960年代以降にオマージュのように黄金期ミュージカルにチャレンジした作品は在りましたが、むしろ「オペラ座の怪人」などのように舞台ミュージカルの映画版が主流になります。
そんな舞台を映画に置き換えた作品に関しては、いかんせん映画的でない分、ハリウッドミュージカルとは別物・別ジャンルと言わざるを得ません。
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ラ・ラ・ランド解説
『ラ・ラ・ランド』監督デイミアン・チャゼル
========================================================1960年代には、ハリウッド・ミュージカルの伝統が途絶えた事はすでに申し上げましたが、この映画を撮った監督デイミアン・チャゼルは1985年生まれです。
つまりハリウッド・ミュージカルが作られなくなって、30年以上も経って生まれてきたのです。
それが意味するのは、彼は生れ落ちてから後に勉強し知識を蓄えていったということになります。
それは、作品中で主要なテーマとなっている「ジャズ」に関しても同じ事です。個人的にはジャズは「帝王マイルス・デービス」が世を去った1991年以後、停滞したジャンルと言わざるを得ません。
つまりチャゼル監督が5〜6歳の頃には、すでに衰退が始まったわけです。
しかし、前作『セッション』で、ジャズに新たな命を吹き込もうと挑戦したこの監督は、今作では『ハリウッド・ミュージカル』復活させようと挑戦したと思えるのです。
当ブログ関連レビュー:
『セッション』
ジャズを巡る厳しい師弟対決
ジャズの復権を目指したデイミアン・チャゼル監督作品
そしてまた、このタイミングとは、ミュージカルを実際に作ってきたスタッフがいなくなり、その観客も高齢になってきているがゆえに、ある種の自由を持ちえたのではないでしょうか。
更に言えば、ジャズにしてもハリウッドミュージカルにしても、最も輝き日々新しいものが生まれていた黄金期の雰囲気をリアルタイムで感じていれば、決して挑戦できなかったように思えてなりません。
なぜなら、一番活力があり生きている時のそのジャンルの力を知っていれば、自分の作った作品の力が無いことを認めざる得なくなると思うのです。
しかし、30年も経てばそんな比較も出来なくなるという点でも、良いタイミングと言えるのではないでしょうか。
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ラ・ラ・ランド解説・感想
========================================================ハッキリ言えば、この『ラ・ラ・ランド』はかつてのハリウッド黄金期のミュージカルとは別物です。
このミュージカルは「現実的なドラマ」と「ハリウッド・ミュージカル」の混合物だと言えますし、歌とダンスのために映画の全てが奉仕してない点で、黄金期作品と違う様式で出来ていると言うべきです。
例えばかつてのミュージカルのように、足元まで全身をさらして、ノーカットで踊り続ける華麗な技はどこにもありません。むしろどうやって足元を隠すかに気を配ってるとしか思えません。
実際、この映画の構図やカット割りは、踊りと歌を真正面から映すと言う、ミュージカルの伝統から逸脱しています。
しかし、それでもこの映画を私は愛します。
それはこの映画が語るのが、過去のハリウッド・ミュージカルを復活させようというノスタルジックな夢ではなく、ハリウッド・ミュージカルの栄光をレスペクトしつつも、この映画から新たなハリウッド・ミュージカルの第一歩を始めるという宣言だと感じたからです。
それは、セバスチャンのジャズ・クラブの店名チャーリー・"バード"・パーカーに因んだ「チキン・ステーキ」としたいと言うのに、ミアが反対し「セブ(セバスチャン)の店」が良いと勧めるシーンに明らかです。
つまり過去に捕らわれるセバスチャンに対し、ミアは今受け入れられる形にすべきだと主張するのです。
また、ラストでセバスチャンとミアとの別の人生、ノスタルジックな美しい人生が描かれます。
しかしこの映画は、そのノスタルジーに逃げる事をせず、現実を生きるのです・・・・・・・・・
つまり、この映画はミュージカルにしてもジャズにしても、かつての栄光を懐かしむノスタルジーに生きても、消えていくしかないと語っているのだと思えます。
それゆえ、今日この日の現実の中で、もう1度、最初から作り上げていき、このジャンルのポテンシャルをかつての黄金期にまで高めるのだという、監督デイミアン・チャゼルの高い志を表現した映画だと信じます。
ハリウッド・ミュージカルの華ジンジャーとフレッド
それゆえ、ミュージカルとして不満があるにしても、私はこの映画を愛し続けますし、監督デイミアン・チャゼルを尊敬し、今後の作品を追いかけ続けるでしょう・・・・・・・
主題曲:シティー・オブ・スター
これもノスタルジックないい曲だと思いました・・・・・・・
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以降
「ラ・ラ・ランド」ネタバレ
とを含みますので、ご注意下さい。========================================================
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ミアが去ったセバスチャンの部屋に映画関係者からミア宛に電話が入った。
舞台を見て、彼女に興味を持ったのでぜひオーディションに来て欲しいというものだった。
セバスチャンはミアの実家を訪ね、彼女をLAに呼び戻し、オーディションに連れて行く
オーディションシーンで"The Fools Who Dream"が歌われる、感動的なシーン。
【歌詞さび部分】
Here’s to the ones who dream(夢追い人に乾杯)
Foolish as they may seem(彼等を愚かと感じたとしても)
Here’s to the hearts that ache(心痛める者に乾杯)
Here’s to the mess we make(右往左往する私達に乾杯)
オーデションが終わり、セバスチャンはミアに言う。
もし役を掴んだならば、たとえ二人が離れ離れになっても、全てを犠牲にしても夢にかけるべきだと。
そして、ミアは言います「私はいつでもあなたを愛している」と・・・・・・
セバスチャンも応えて「僕もいつだって君をあいしているよ」と返します。
========================================================「ラ・ラ・ランド」ラストシーン
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そして5年後、ミアは大女優になり夫と子供を持ち幸福な生活を送っていた。
そんなある晩、夫と町に出かけハイ・ウェイの渋滞にはまり、町に降りて一軒の店に入った。
その店には"Seb's"(セブの店)と看板が掛かかり、店主セバスチャンが登場しミアに気づいた。
セバスチャンはピアノの前に座り、思い出の曲"シティー・オブ・スター"を弾く。
その脳裏に、もう一つの有り得べき、セバスチャンとミアの物語が駆け巡った。
現実に戻ったセバスチャンは、立ち去るミアを見つめ、微笑む。
ミアも微笑を返し、店を後にした。
このラストは、二度と戻らない「美しき過去=ノスタルジー」を取り返そうとするものではなく、辛くとも新たな命を自らの夢に吹き込もうとする覚悟が描かれたと思えてなりません。
それはミュージカルやジャズに新たな活力を与えようとする、この映画の試みを象徴するラストだと信じます・・・・
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ありがとうございます(^^)見ちゃいましたm(__)mエマ・ストーン良かったです。監督賞と女優賞は取りましたね。作品賞は前代未聞の事態に(T_T)