利子や配当といったもうけより、さまざまな社会の課題解決に役立ったという満足感を重視したい――。利殖と寄付の中間と言えばよいだろうか、社会的投資と呼ばれる資金提供への関心が高まっている。

 そうしたお金を行政に呼び込む試みが、新年度から一部の自治体で始まりそうだ。財政難を補いつつ、とかく「成果の検証がなおざりで、使い切って終わり」と批判される予算の見直しにもつなげるのが狙いだ。

 神戸市は新年度予算案に、糖尿病性腎症の重症化予防事業を盛り込んだ。

 症状が悪化して人工透析に頼ることになれば、患者の負担は大きく、医療費も膨らむ。ベンチャー企業に委託して食事療法などを指導してもらうのが主な内容だが、企業はまず、民間の資金で事業を行う。指導が終わると市は一定額を支払い、成果に応じて上乗せする。

 成果を測る指標として、生活習慣の改善につながった人数を決めておく。人工透析を防げた人数も加味して評価する。

 事業の検討を支援した日本財団によると、そんな仕組みだ。

 成果が乏しければ上乗せ額は限られ、最終的に資金の提供者が負担をかぶる恐れがある。まずは大手銀行がベンチャーにお金を出すことを検討中という。

 東京都八王子市が新年度に計画する大腸がんの検診促進事業も、基本的な枠組みは同じだ。

 この手法が軌道に乗れば、自治体は予算を抑えながら成果をあげられる。何より、あらかじめ成果目標を立てて事業を行い、達成度をチェックするという、民間では当たり前の進め方に取り組む意義は大きい。資金を出す大手銀行には、民間事業者の育成につなげる狙いもあるようだ。

 とはいえ、行政と委託先、資金の出し手の三者が納得できなければ長続きしない。メリットとリスクをどう分担し、そのために成果目標や報酬の支払い方をどう工夫するか。知恵を出し合いながら検証してほしい。

 こうした取り組みは英国で始まったとされ、十数カ国で60件ほど実例があるという。ネットを通じて資金を集める「クラウドファンディング」で被災地を支援している国内の民間ファンドも、社会的投資を普及させるきっかけになりうると見ているようだ。広く個人投資家のお金が集まる状況を目指したい。

 社会的投資を引きつけようと行政が予算を改革し、それがさらに社会的投資を促す。官と民が協力して、そんな循環を作っていってほしい。