鈴木
「明後日(25日)サッカーJリーグが開幕しますが、実はその中継が今シーズンから大きく変わります。
その理由は、イギリスの動画配信会社がJリーグと総額2,100億円もの契約を結んだためです。」
河野
「年換算でこれまでのおよそ7倍という破格の契約です。
日本に乗り込んできたこの『黒船』のねらいは、どこにあるのでしょうか?」
鈴木
「明後日(25日)サッカーJリーグが開幕しますが、実はその中継が今シーズンから大きく変わります。
その理由は、イギリスの動画配信会社がJリーグと総額2,100億円もの契約を結んだためです。」
河野
「年換算でこれまでのおよそ7倍という破格の契約です。
日本に乗り込んできたこの『黒船』のねらいは、どこにあるのでしょうか?」
リポート:国武希美(スポーツニュース部)
Jリーグ開幕を前に行われたプレシーズンマッチ。
この試合に配置されたカメラは9台。
昨シーズンより中継体制を厚くするため、3台追加されました。
中継を指揮するのは外国人スタッフです。
リーグ戦すべてを中継し、スマートフォンやパソコン、ネットにつなげばテレビでも見ることができます。
この中継を取り仕切るのが、ロンドン郊外に本社を置く動画配信会社「パフォームグループ」です。
多くのスポーツ中継を手がけ、アメリカの大リーグやサッカーのドイツ1部リーグなどがここから世界中に配信されています。
パフォーム社『DAZN』 ジェームズ・ラシュトンCEO
「白黒からカラーに変わったように、テレビにおける自然の進化であり革命だ。」
この会社が去年(2016年)7月、Jリーグと10年総額で2,100億円の巨額の契約を発表。
昨シーズン、推定で年間30億円だった衛星放送会社の放送権料と比べるとおよそ7倍で、日本のスポーツ界に衝撃が走りました。
彼らは独自にJリーグの試合を分析。
パスの成功率の高さや、決定機の多さなどが魅力的で、世界の主なリーグと比べても視聴者を引きつけるコンテンツだと判断したのです。
巨額の契約の一方、視聴者が払う利用料の安さも関係者には衝撃でした。
これまでの衛星放送の月額2,700円余りから、1,750円になったのです。
パフォーム社『DAZN』 ジェームズ・ラシュトンCEO
「なぜ大きな投資をしたかというと、Jリーグに潜在的な価値があると信じているからだ。」
今回の巨額契約。
Jリーグ自体にも変化をもたらすことになります。
今シーズン、J1で優勝すると、少なくとも17億円を手にします。
昨シーズンのおよそ5倍の額です。
Jリーグではすべてのクラブへの配分金も増やし、競技レベルの向上につなげたいとしています。
Jリーグ 村井満チェアマン
「世界水準の選手や指導者を獲得する資金に活用、もしくは育成環境を整えるために使う。
今回の投資を全面的に有効に利用し、Jリーグの価値を上げていきたい。」
鈴木
「ここからは、経済部の小田島記者と詳しく見ていきます。
まずは『“利用料大幅減”なぜ?』。
契約金額が7倍に増えたのに、利用料が減るというのは驚いたんですが、これはどういうからくりなんでしょうか?」
小田島拓也記者(経済部)
「一目見ただけでも、かなり破格の契約内容だということがわかると思います。
その答えはこちらです。」
小田島記者
「そもそもJリーグに対する『見方』『期待値』が、参入したイギリスのパフォーム社は全然違うんです。
こちら、Jリーグのいずれかのチームを応援している人、ファンの数なんですが、2008年は1,677万人でしたが、去年の数字は939万人とおよそ半数近くにまで落ち込んでいる状況なんです。
しかも、スタジアムに行く観戦者の平均年齢は41.1歳で、この10年で5歳以上、上昇しているんです。
こうした現象が若者のJリーグ離れとも指摘されていて、Jリーグ自体に先細り感があったと言えると思います。」
鈴木
「確かに、Jリーグが始まったころと比べると、少し元気がないかなと思うこともありますよね。」
小田島記者
「ところがイギリス企業は詳細な調査を行い、Jリーグに“興味あり”という人が、日本には潜在的に2,000万人いると分析したんです。」
鈴木
「『興味はあるけど、見ていない』という人たちですか?」
小田島記者
「衛星放送の契約はちょっと面倒と感じていた人もいるかもしれませんが、スマホなどで手軽に見られるようにすれば加入者は増えると、こうした見方が今回の強気とも言える契約につながっていると思います。」
鈴木
「放映権料を増やしても、それに見合う価値がJリーグにあるということなんでしょうが、それにしても7倍というのは強気ですよね。
利益は見込めるのかなと思うんですが?」
小田島記者
「それに対しては、こちら。
もう1つ大きいのが、スマートフォンの普及率です。
スマホがあれば、いつでもどこでも配信される映像を見ることができますが、潜在的なファンの中には若い世代も多くいると言われています。
20代はほとんどの人と言える92.9%、30代でも非常に高い普及率です。
こうした状況が、彼らから見ると非常に大きなチャンスだと感じたのだと思います。
月額料金を抑えることができれば、この2,000万人という潜在的なニーズを掘り起こすことができると。
『黒船』は、いわば宝の山を見つけたと言えると思います。
こうしたJリーグの放映権契約をめぐる動き、影響は携帯電話業界にも波及しているんです。」
国内最大手の通信会社、NTTドコモ。
先週、新たなサービスを打ち出しました。
「パフォーム社」が月額1,750円で行う配信を、ドコモの契約者には980円まで引き下げて提供します。
「家計的には?」
利用客
「全然ありだと思います。」
利用客
「知らなかった。
こういうのあればいい、使ってみたいと思った。」
格安スマホ事業者との競争が激化する中、顧客をつなぎ止める手段としてスポーツ中継の配信を始めました。
NTTドコモ 吉澤和弘社長
「いろいろなコンテンツあるが、ライブという意味で、スポーツは一番、客にとって(価値を)実感しやすい。」
スポーツ中継配信の動きは、すでにライバルのソフトバンクも。
去年3月、バスケットボールのBリーグなどの配信を独自にスタートしましたが、こちらも、自社の利用者には料金を割り引いてサービスを提供しています。
スポーツ中継を軸に顧客囲い込みに動く大手通信会社。
Jリーグ開幕を前に、その競争はさらに激しさを増しています。
鈴木
「『“携帯電話会社”のねらいとは?』。
つまり、うちと契約すれば動画配信の利用料をさらに下げますよ、ということですよね。
なぜここまでするんですか?
小田島記者
「携帯電話会社は、かなり多額の資金を投じて設備投資をして、しっかりとした通信回線を整備しています。
この通信回線、データを通す『土管』とも呼ばれているのですが、これをうまく活用して収益を上げているのが、実はアップルやアマゾンなどの大手IT企業なんです。
さらに、割安な料金でサービスを提供する格安スマホもシェアを伸ばしていて、大手携帯電話会社としては、このままでは顧客が流出してしまうと危機感があったと言えます。
こうした中でスポーツ中継は、顧客を囲い込むだけでなく、スマホでの視聴によって通信料も稼げますので、土管から抜け出すための戦略とも言えるんです。」
鈴木
「土管の外側を作るだけではなく、そこを通す中身にもしっかり関わっていこうということなんですね。
実際に思惑通りいきそうですか?」
小田島記者
「今は若者を中心に、映画やドラマをスマホで視聴する生活スタイルが当たり前になってるので、スポーツ中継も一定のニーズは見込めると思います。
ただ当然、課題もあります。
こうした映像配信はインターネット回線を利用していますので、通信環境によって映像の画質が大きく変わります。
どこまで視聴者が満足できる画質を担保できるかというのが1つ。
さらに、今では無料の動画配信サービスも広く普及していますので、こうしたサービスを上回るような価値が提供できるかというのが今後の鍵となると思います。」