ああ、円満退職の難しさよ−。大阪のある企業で、男性社員が「辞めたい」と切り出したことから、とんでもない騒動が勃発(ぼっぱつ)した。激怒した代表取締役が、男性による女性事務員へのセクハラ行為を俎上に載せ、「賠償は天文学的やで!」とすごんだというのだ。男性は弁護士に相談して会社を去ることができたが、女性事務員側はセクハラの慰謝料を求め、大阪地裁での法廷闘争を仕掛けてきた。一方の男性側も「事実無根だ」と敢然と反訴に打って出る。そして、裁判所が下した判断は「セクハラは会社ぐるみのでっち上げ」。その衝撃的内容とは。
訴訟の記録から、経緯をたどっていく。
今から約6年前の平成23年7月、藤田耕治さん(48)=仮名=は大阪府内のある会社に入社した。
営業担当として外回りが日課。事務所には藤田さんのほかに経理担当の女性事務員、井上洋子さん(49)=仮名=が詰めていた。
当時はもう1人従業員がいたが、24年3月ごろからは藤田さんと井上さんの2人のみに。トップの大岩源二代表取締役=同=は事務所にほとんど姿を見せず、大岩代表の妻、美子取締役=同=が週に2、3日顔を出していたという。
さて、唯一の営業マンである藤田さんの1日のスケジュールは以下のような流れになっていた。
8:30 出社
9:30〜外回り
18:30〜19:00 帰社
外回りは1日25カ所がノルマ。だが事務所に戻って残務整理をしても帰宅できるわけでなく、退社時間は井上さんに左右されていたという。
「女性一人では物騒だ。井上を一人で事務所に残さないように」
大岩代表のこんな指示により、藤田さんは井上さんより早く帰ることはできず、退社は午後9時ごろになることが多かったようだ。
出社から朝の掃除開始、外回り、退社まですべて大岩代表らへの報告が義務づけられていた。バイクでの営業は夏は暑く、冬は寒い。帰るのが午後11時になることも少なくなかった。
「休日出勤をしても代休がなく、体がつらい……」。藤田さんは入社後3年にして辞めることを決意。しかし大岩代表に退職を切り出した途端、とんでもない怒りを買うことになる。
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