マーケティング活動といえば、以前は不特定多数の消費者へ向けた広告をはじめ、営業担当者による電話や訪問、ダイレクトメール(DM)やチラシなどで商品・サービスをアピールする「アウトバウンドマーケティング」が主流でした。
しかし近年は、独自のコンテンツを作成し、興味のある消費者に自分で見つけてもらうという「インバウンドマーケティング」を活用する企業が増えています。
今回は、企業のマーケティング担当者やマーケティングに興味のある方を対象に、インバウンドマーケティングの定義やメリット、アウトバウンドマーケティングとの違いについてご紹介します。
インバウンドマーケティングは、インターネットで情報収集を行うことが多い現代にマッチした手法です。まずは、インバウンドマーケティングの定義とメリットをお伝えします。
インバウンドマーケティングはマーケティング施策の1つで、消費者自身に情報を「見つけてもらう(Get Found)」ことを目的としています。
企業がテレビや新聞に広告を打ったり営業活動をして情報を届けなくても、消費者は興味のあることなら自分から能動的に情報収集を行う時代になりました。WebサイトやSNSなどから、知りたい情報を集めることが習慣化している人もいます。
そういった消費者の心理に着目し、全く興味のない人に向けた宣伝を行うのではなく、商品やサービスに一定の関心を持っていたり、あるいは強い関心を持っている人をターゲットに定め、有益なコンテンツを提供するマーケティングがインバウンドマーケティングです。
自社商品やサービスの認知度を上げる効果があるのはもちろん、潜在顧客や見込み客を固定客化させることも可能です。
メリットは主に3つあります。
1つ目のメリットは、コストパフォーマンスの高さです。従来の広告手法では、テレビや新聞・雑誌などに広告を出稿するために、数百~数千万円もの高額な費用をメディア側に支払う必要がありました。
メディアへの露出以外にも、顧客へ送るDMやリスティング広告・バナー広告などに多くの広告宣伝費がかかっていましたが、インバウンドマーケティングは低コストで効果が期待できるため、広告宣伝費を大幅に削減できるでしょう。
2つ目のメリットは、顧客の支持を獲得しやすいことです。
特に、自宅への訪問営業やDMの送付など、消費者が求めていない情報を一方的に提供して売り込むと、「自分が望んでいない情報を押し付けられた」と思われるおそれがあります。そうなると、商品やサービスそのものに対してまで良い印象を持たれなくなってしまいます。
一方、インバウンドマーケティングの場合、そうした心配を最小限に抑えることが可能です。例えば、FacebookやTwitterなどのSNSで優れたコンテンツを提供すると、「いいね!」が押されたりシェアされることで口コミが拡散します。
拡散されたコンテンツをSNS上で見た人は、雑誌やテレビなどで不特定多数に発信されているものではなく、「知人・友人からの情報提供」という付加価値があるため、ポジティブな印象を持ちやすいといわれます。発信する情報を好意的に受け取ってもらえるのは大きなメリットといえます。
3つ目のメリットは、ターゲットの絞り込みにも有効だということです。ターゲットが検索しそうなワードを織り込んだコンテンツを作成するなど、検索エンジンからの導線を意識した施策にすることで、すでに商品やサービスに強い関心を持っている人へ向けて、質の高い情報を届けることが可能です。
その結果、実際の商品の購入という消費者のアクションへつなげやすくなります。
一般的にインバウンドマーケティングが「待ち」だとすると、アウトバウンドマーケティングは「攻め」といわれます。具体的にはどういう意味なのでしょうか。インバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングの違いを説明します。
アウトバウンドマーケティングは、企業から消費者へ向けた情報発信をすることで、消費者の認知や関心を引き出し、購入などの行動に結び付ける手法です。 主な手段としては、電話を利用したテレマーケティングや封筒・ハガキなどを用いたDM、チラシ、テレビコマーシャルや新聞・雑誌・電車・屋外看板への広告出稿などがあります。特定の見込み客ではなく、不特定多数へ向けて行われるのが特徴です
アウトバウンドマーケティングがうまくいくと、成果を短期間で見込むことが可能です。予算の規模に応じて効果を予測しやすいため、期間を定めて成果を計測し、売り上げを上げたい場合に、有効な手法であるといえます。 その半面、広告の出稿期間にしか成果を見込みにくいというデメリットもあります。
一方、インバウンドマーケティングの場合はコストパフォーマンスが良いため、低予算でも実施することが可能です。 高品質のコンテンツを作成すれば、その後も資産として継続的に活用することができ、自社サービスやブランドのロイヤリティ向上にもつなげることができます。つまり、低コストで長期的な成果を見込むことができるというわけです。 また、コンテンツに興味を持った人とのコミュニケーションの場にもなるので、新たなファンを獲得するためのツールとしても活用できます。 その半面、消費者が自分の意思で調べるという能動的な行動が必要になるため、短期間での成果が出にくいというデメリットがあります。
インバウンドマーケティングに向いている企業の特徴は、顧客の購入頻度が多くなく、購入を検討してから実際に購入するまでの期間が長い商品やサービスを扱っていることです。
近年では、商品やサービスの購入前に、消費者がインターネットなどで情報収集を行い、比較・検討してから購入するケースが増えています。そのため、メルマガや動画、ニュースリリース、オウンドメディア、SNSなどを活用した訴求が行いやすくなっています。 また、他社にはないオリジナルの商材やサービスを取り扱っている企業も、差別化したコンテンツを作成しやすく、インバウンドマーケティングに向いているといえるでしょう。
しかし、ただコンテンツを作って発信するだけでは、見込み客の獲得にはつながりません。次に、インバウンドマーケティングを成功させるコツについて説明します。
「ペルソナ」を事前に細かく設定することで、作成するコンテンツがターゲットへの訴求力を増し、成果を上げやすくなります。 ペルソナの設定には、自社商品やサービスを利用する理想の顧客像を徹底的に分析した上で、詳細まで具体的に決めることが重要です。 例えば、30代の女性をターゲットにした商品の場合、「会社員の30代女性」という漠然としたものではなく、「広告会社の営業部に所属する33歳の女性」などと設定し、住んでいる場所や年収、家族構成、恋人や結婚・子どもの有無、休日の過ごし方や興味・関心事といった細かい要素を分析した上で設定しましょう。
潜在層のユーザーに対し、いきなり商品やサービスの紹介をしても、購入に結び付く可能性は低いでしょう。段階によって求める情報は異なるため、単に企業が発信したい情報を提供しただけでは、ユーザーには響きません。インバウンドマーケティングは、ユーザーの段階に合った情報を提供することが大切なのです。 段階別にどんな情報を伝えるべきかを次に説明します。
商品やサービスなどの存在を知らない認知段階では、まず潜在層のユーザーが日常生活で抱える課題や興味・関心に沿った情報を提供することが効果的です。このとき、潜在層にはまだ「商品が欲しい」「サービスを利用したい」というニーズが発生していないため、前提として「見つけてもらう」ことに重点を置きます。
例えば、ファッション通販サイトの場合、ファッションのコーディネート方法や今年のトレンドアイテム、人気芸能人の着こなしに関する情報など、サイトを利用しそうなユーザーが普段から関心を持っている話題を提供することで、アプローチが可能になります。
次は、すでにユーザーのニーズが顕在化し、「課題を解決したい」と考えている調査段階です。ユーザー自らが積極的な情報収集を行っているため、情報収集の過程で疑問に思っていそうなことや知りたい情報などを想定し、答えにつながるアンサー度の高いコンテンツを作成し、解決策を提供します。 ファッション通販サイトであれば、店頭での買い物と比較しての通販サイトを利用するメリットや活用方法などのコンテンツを提供すると良いでしょう。
購入に最も近い段階です。ユーザーはほぼ購入を決めており、ほかの競合サービスや商品と比較・検討を行っている段階です。ここでは、商品やサービスを利用した「お客様の声」や、BtoBの場合なら「導入事例インタビュー」など、商品・サービスのメリットを積極的にアピールし、「この商品を選んで大丈夫だ」とユーザーに思ってもらうことを目的としたコンテンツを提供しましょう。
集客を行う上で効果的なのが、SEO対策です。SEO施策は、Web上での検索結果の順位を上げるための手法です。インターネットの検索を利用して情報収集するユーザーが多いため、検索上位に自社のコンテンツが表示されると、ユーザーの目に触れる機会が増えます。
また、SNSの活用も有効です。商品やサービスの宣伝を直接行うのではなく、商品の使い方や活用事例、トレンドの紹介など、ユーザーにとって有用なコンテンツの発信を続けることで、ユーザーと継続的なコミュニケーションを行うことができます。
ユーザーにとって価値のあるコンテンツなら、シェアやリツイート、「いいね!」などで評価・拡散されることでしょう。その結果、これまでは情報を到達させられていなかった層にもリーチすることが可能になります。
単純に「広告を出せば売れる」という時代は過ぎました。広告の費用対効果が低いと悩んでいる企業のマーケティング担当者は、インバウンドマーケティングを検討してはどうでしょうか。
インバウンドマーケティングは、低予算から始められ、ユーザーが求めるコンテンツを発信し続けたり、SNSを活用したりすることで、ユーザーとのコミュニケーションを活性化し、信頼関係を築いて固定客に育てることも可能です。
「どんなペルソナが良いか」「ユーザーが求めていることは何か」「ユーザーはどのような情報を必要としているか」をよく考え、段階を踏んで行うことで、費用対効果に見合った長期的な成果を出すことができるでしょう。