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最高裁判事が「冤罪」書面 再審無罪の大阪女児焼死 

滝井繁男氏

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 昨年八月に再審無罪となった大阪市の小六女児死亡火災で、母親青木恵子さん(53)の無期懲役がいったん確定した二〇〇六年の最高裁決定を巡り、直前まで裁判長だった故滝井繁男氏が「全ての証拠によっても犯罪の証明は不十分」として一、二審の有罪判決を破棄するべきだとの意見を在職中に書き残していたことが分かった。

 共同通信は親しい関係者に引き継がれた書面を入手した。「滝井裁判官の意見」と題した二十四ページの構成。最高裁の裁判官は判決や決定に個々の意見を明記できるが、滝井氏は審理終結前の〇六年十月に定年退官し、公にはならなかった。冤罪事件を巡って最高裁内で有罪に異論があったことを克明に記した異例の内容だ。

 滝井氏は弁護士出身で、〇二〜〇六年に最高裁判事を務めた。関係者によると、書かれたのは退官直前の〇六年秋ごろ。文中に「当審(現在の審理)は」などと在職中に記載したことがうかがえる用語を使用。滝井氏は当時、一、二審の事実認定に疑問を持ちながら、最高裁内部で受け入れられず苦悩していたという。

 滝井氏の退官から一カ月余り後の同年十二月、当時の最高裁第二小法廷は残る裁判官四人の全員一致で青木さんの上告棄却を決定。青木さんは再審開始が決まった一五年十月まで服役した。

 書面は自白の性質を「犯罪証明の上で軽視できないが、何より重要なのは真実を語ったかの検討で、おろそかにすれば思わぬ誤判に至る」「多くの先例は極めてもっともらしく見えても虚偽が含まれていたことを教える」と指摘。青木さんや、共に再審無罪となった元同居男性(51)の捜査段階の自白に事実と異なる点が多いと問題視した。

 特に「マンションの契約手数料の支払いが迫ったため、関係の悪い娘を殺害し保険金を得ようとした」との捜査側の構図には「家計や育児の状況と合わない」と強い疑念を表明。「車の下にガソリンをまき焼殺する異常な方法」の動機としては不合理で「自白にどうしても信頼を置けず、誘導があるのではとの疑問をぬぐえない」とした。

 その上で一、二審判決の有罪の結論に「内容の具体性や詳細さに注目する余り、無意識的にも『自白は真実』との前提に立ったのではないか」と疑問を呈していた。

 無罪が確定した昨年八月の再審判決は火災の再現実験などの科学的観点から自白の信用性を否定。滝井氏が抱いた懸念と結果的に同一の結論が導かれた。

◆下級審尊重が背景か

 <最高裁に関する研究がある渕野貴生・立命館大教授(刑事訴訟法)の話> 結果的に再審開始となった事件なので滝井繁男氏の見方が正しかったと言えるが、二〇〇六年当時は最高裁が事実誤認の問題に踏み込むことに消極的な時期で、下級審の認定を尊重する傾向が強かった。最高裁の内部では滝井氏の見解が受け入れられにくかったのが日の目を見なかった背景の一つではないか。

 <大阪の小6女児死亡火災> 1995年7月22日夕、大阪市東住吉区の青木恵子さん(53)宅で火災が起き、長女=当時(11)=が焼死した。大阪府警は保険金目的で放火、殺害したとして青木さんと同居男性を逮捕。2人は公判で無罪を主張したが、男性の捜査段階での自白が主要な根拠となり、無期懲役の判決が2006年、最高裁で確定した。大阪地裁は12年、燃焼実験の結果から「自白は再現不可能で信用できない」と判断し、再審開始を決定。15年に大阪高裁も支持し、2人は釈放された。昨年の再審で検察側は有罪の主張をせず、地裁が無罪判決を言い渡し確定した。

 

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