🔻コチラの話の続きになります。
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社長との通話は・・・しばらく沈黙が続きました・・・。
社長が黙ると、
電話越しに女性達の楽しそうな笑い声がよく聞こえます。

社長は・・・・
今日もいきつけの店で、朝まで飲んでいるのでしょう。

数秒間の沈黙の後、
「絶対に契約をとってこい・・・。」
社長はそう唸るように呟くと、プツッと通話を切ってしまいました。

(どうする・・・どうしよう・・・?)
私は携帯電話を見つめたまま、凍りついてしまいました。
横にいたマルには通話の内容が聞こえていたようです。
不安そうな顔をしてコチラを見つめています。

たった今・・・・
お客様の怒りを懸命の謝罪で解いた所なのに・・・・。

しかし・・・・
我が社の神は「契約」を望んでおられる。

そりゃぁ・・・こんな状況ですから、
私にも色々と思う所はあります・・・。

(こんな時間まで営業して相手に迷惑だろう)とか
(クレームで謝罪したばかりの相手に営業って失礼だろう)とか
(疲れた・・もう帰りたい・・・)とか

そう・・思ってはいたのですが・・・・。
しかしそれは全て私の「私情」に他なりません。
神のご意向に従うのが信者の務めだ・・。
「やれ!」と言われたら・・・やるしかない。
私は与えられた使命を真っ当するしかないのです。

その先に何が待っていようとも・・・・・。
そこでハッとして我に返ります。
突然考え事をしてボーッとしてしまうのは
私の悪いクセです。

どの位かわかりませんが、
数秒間固まっていたようです。
(みんな怪訝そうな顔をしている・・・。)
私は反射的に出来る限りの笑顔を作りました。

エヘ。
そして私は作った笑顔を崩さず、
カバンから資料を取り出しつつ、
「お詫びと言っては何ですが・・・
一つ良いご提案をさせて下さい。」
と営業を切り出しました。

地獄のはじまり
「いいよ!時間も時間だから帰ってくれよ?」
院長夫婦は本気で嫌そうな顔をしています。

「そういうワケにはいきません!」
私は必死に食い下がります。
院長親子は・・・目に見えてイライラしています。
「いま何時だと思ってるんだ?」
「お前達は何しに来たんだ?」
「常識を考えろ!」
院長親子から私にガチガチの正論がバシバシ撃ち込まれます。

ドンドーンッ・・・・・散弾銃のようだ。
しかし何を言われようとも、
院長親子がどんなに嫌がっても、
絶対に帰るワケにはいきません。

私は必死にお願いしました。
「お願いします!話だけでも!」
「お願いします!」
「お願いします!」
「お願いします!」

「ふざけるな!」
お願いを、すればする程、
院長親子はカンカンに怒ってしまいます。

(ああ・・・やっぱり・・ダメか・・・・・・)
時刻は深夜0時すぎ、
クレーム対応に来たハズの営業マンが、
突然営業を始める・・・・・。
ダメに決まってますよね?

だから私は・・・・・
院長親子の話を無視して、
強引に営業活動を開始しました。

(絶対に契約をとってみせる・・・。)
困惑する院長親子
気がつけば・・・私が話しはじめてから、
時刻は深夜1時を回っていました。

我が社が扱っている商材は30種以上あったので、
話すことだけは山程ありました。
院長親子は、話の途中に何度も何度も
「頼むから帰ってくれ!」と
と懇願してきました・・・。

何を言われても「帰りません」(帰れません)

(そう・・契約をとらなければ、帰れない・・・。)
マルは・・?
顔を歪めて、ずっと硬直していました。
ああ・・・かわいそうに・・・・・
こんなにオカシイ人間を見たのは初めてだったのでしょう。笑

深夜の2時を回る頃には、
いつの間にか院長親子も、
下を向いたまま微動だにしなくなっていました。

それでも私は営業を止めません。
そんな 私の行動は
明らかに異常者のソレでした。
きっと院長親子も
(コイツには何を言ってもムダだ・・・)
そう思っていた事でしょう。

モチロン自分でも、
自分のやっている事がおかしい事は、わかっていました。
しかし倫理的におかしかろうと、
異常者と思われようと、
私が与えられた役目から背を向ける事は出来ないのです。
そう・・なぜなら・・・・
私はブラック企業を崇拝する
「盲目な信者」なのですから・・。

それでも営業の途中で、
もしかしたら、「もう帰っていいぞ!」と言われる事を期待して、
2度ほど社長に状況を伝える電話を入れました。

私の姑息なココロが垣間見えます。
しかし、電話に出た社長は
「こういう条件にしていいから契約をとれ!」
「契約をとらずに営業マンが帰るんじゃねえ!」
と変わらず
「絶対に契約をとれ!」と言ってくるばかりです。

もう社長はろれつが回っていない・・・
だいぶ飲んでいるようだ。
それでも・・・・
社長に「やれ!」と言われると、
「もっとがんばらなければ・・」そう思えてきました・・・
たとえそれが、どんなに間違った事だとしても・・・。

深夜3時頃
マルが急に口を開きました。
「あの・・トイレをお借りしまッす!」

そう言ってマルは、院長親子の返事を待たず、
小走りで部屋を後にしました。

マルは・・・・
それっきり戻っては来ませんでした・・・。
マルは何から逃げたかったんだろうか?
宗教団体Dから?
ブラック企業から?
それとも狂ったように営業を続ける私から?

全部かな?ハハハ・・・
・・・マルとはそれっきり、
2度と会うことはありませんでした。
そして、警察が来たのは・・・
マルが出ていった直後の事でした。

つづく
