こんにちは、PRチームの菊池です。
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人物紹介:菊池良 株式会社LIGのPRチームに所属するライター。主に記事広告の企画・執筆を担当。 |
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僕は今、深夜の高速バスに乗って、岡山に行こうとしています。でも、旅行が目的ではありません。
これから高速バスに乗る。目的地は岡山。約9時間の移動。岡山って何があるんだろう。何も調べてない。
— 菊池良 / Kikuchi Ryo (@kossetsu) 2015, 5月 8
「ある人」の様子が心配になったからです。
その人の名前は「ドリー」くんといいます。
2013年11月、『村上春樹いじり』で作家デビューしたライターです。
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年の ドリーさんのレビュー
その少し前、彼がAmazonに投稿した『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』のレビューが大きな話題となりました。2万人以上が「参考になった」と投票したのです。
僕も話題になったときに読んで、大いに楽しみました。そのドリーくんが村上春樹の長編すべてをレビューした本が『村上春樹いじり』です。
「色彩を持たない多崎つくる」のAmazonレビューで23000以上の”参考になった”を集めたドリーさんが、村上春樹さんのガイド本を出版したとのこと。読むの楽しみすぎる(笑) http://t.co/6sLLXCSLlT — 吉永龍樹(ヨシナガ@僕秩) (@dfnt) 2013, 11月 21
出版化のニュースをツイッターで見て驚きました。Amazonレビューから本が出版されるなんて思っても見なかったからです。
自分への褒めツイートとか、宣伝ツイートを自分でリツイートして紹介する奴らなんか全員クソだと思ってたけど、自分がそういう立場になったとき、嬉しくてついやっちゃってる自分がいる。暴言吐かないでホントによかった。
— ドリー (@0106syuntaro) 2013, 11月 21
詳細を追って彼のツイッターアカウントをフォローしたところ、フォロー返しをされてゆるい交流が始まりました。
彼のブログ「埋没地蔵の館」を読むと彼が「引きこもり」だと分かったりして。僕も引きこもっていたし、年も近いし、自分の本を出版できたりしたので、勝手に親近感が湧いていたんですね。
この本、どのぐらい売れたのか、怖くて聞いてないんですが・・・。
その後もドリーくんは雑誌やWebメディアに書いたりしていて、前途洋々に見えたのですが・・・。ブログに書き込まれる内容はとてもナーバスです。
本を出しても、アクセスそんな増えないし。相変わらず引きこもりだし。今年になって、家族以外の人と会ってないし。なんかもっと仕事とかも、もらえるんかな、って思ったけど、これがほんとにたまーーーーーーーーに、ぐらいで基本的に、オファーなし状態なんである。承認願望も満たされない。
本を出した反応が芳しくないようです。僕もそうでした。しばらくすると、「アルバイトをしなきゃいけない」と言い出します。
アルバイトしなきゃいけない。そう思っては、実行にうつせない。そんな毎日がつづいている。
というのも最近、家族からの、おまえほんとに仕事やってんのかよ、という、無言のプレッシャー(圧力)を、感じるようになってきて・・・普段ライターと称して、ただのニートだということをカレイに隠蔽してきたが、どうやらそんなごまかしもそろそろ効かなくなってきたらしい。出典:アルバイト恐怖症
アルバイトをする必要性があるけれど、募集の電話番号にかけることが怖いそうです。すごくわかります。
今って暗黒期じゃないかと思うんだ。人生の。なにをするのも億劫で、毎日、食っちゃ寝しては、安住の地「ベッド」から逃れられない。ベッドが温かすぎて外に出られないんだ。くやしいんだ。ベッドがあたたかすぎて。
電話をかけられず、ずっとベッドで過ごしているそうです。僕もそうでした。
最初は「自虐芸かな?」と思っていたブログですが、更新がどんどん少なくなっていき、久しぶりに更新されたと思ったら、これです。
しばらく音沙汰もなく、2ヶ月間、ずっと家で何をしていたのかというと、正直、布団の中で、ただ、モゴモゴしてました。たまに本とか読んだりしたけど、それ以外のことに着手する気力が本当に沸いてこなかった。それに至る主な要因は、いろいろあるんだが、まず、大きな理由として挙げられるのは「何もしていない時が1番幸せ」だと気づいたこと。
何だか心配になってきました。これって大丈夫だろうか? ドリーくんはこのまま書くことをやめてしまうんじゃないか?
そうして僕は、岡山行きのチケットを買ったのでした。
早朝6時、バスが岡山駅に到着しました。
ドリーくんとは午後1時に駅前で待ち合わせしています。岡山について何も知らないので、途方に暮れてしまいました。
とりあえず朝食がとれるところを探しましょう。
いい感じの喫茶店で、モーニングを注文。
でも、モーニングって10分ぐらいで食べ終わるんですよね。店内で極力ダラダラしてみるも、まだ午前9時。どうしよう。
近くの川でボォーっとしていました。小雨が振ったり止んだりしていて、水面がポツポツしているのを、ただ凝視していました。
何とか午後まで時間を潰し、待ち合わせ場所の噴水に。
よく考えたら顔も見たことないし、ほんとに会えるのか不安になってきました。
あのブログの感じだと来ないかもしれない。岡山まで来て、主に川を見つめて帰るのか。
「あの・・・菊池さんですよね。ドリーです」
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人物紹介:ドリーくん 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』のAmazonレビューがきっかけで作家デビューしたライター。25歳。ずっと引きこもり同然の生活をしている。 |
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来ました! 彼がドリーくんのようです。
「いやぁ〜、ちゃんと会えて良かったです」
「こっちのセリフですよ。いきなり『会おう』って。怖かったですよ」
「会いたいから会おうって言ったんですよ。会いたくないなら言わないですよ」
「いや、意味わかんないです。昼ご飯って食べました? ラーメン屋に行きましょう」
内心、とんでもない根暗野郎が来るんじゃないかと思っていたんですが、ちゃんと笑える普通の人でした。
ドリーくんが週1で通うラーメン屋へ。気質が似ているからか、順番待ちですっかり打ち解けました。
「週1で通っているって、お金はどうしているんですか?」
「貯金を切り崩してますよ。引きこもりの生活ってお金かからないんで、少しずつ」
「印税を使っているんですね。売れたんだ。そういえば50万ぐらいあるってブログに書いてましたね」
「いや、あと3万ぐらいしかないんですよ。なので、バイト始めましたよ」
「バイト!? すごい。あんだけ怖いって言っていたのに」
「面接の電話かけるだけで一年ぐらいかかってますけどね。もう辞めたいですし」
「僕、今バイトの応募と面接やれって言われても、やれる自信ないですよ。すごい」
「どんだけ社会性失ってるんですか。会社員なのに」
「このあと、どうするんですか? 観光?」
「ドリーくんの家に行くんですよ」
「え、ぼくの家!? ・・・なんで? 岡山旅行に来たんじゃないんですか?」
「いや、ドリーくんとゆっくり話すのが岡山に来た目的だから」
「あの、僕の家って実家なんですけど・・・友達を呼ぶのも数年ぶりなんですけど・・・」
「バイト始めて、家に友達を呼んで、ってすげぇ親喜びますよ」
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ドリーくんの部屋で話そうと思っていたんですが、親が「汚すぎて見せらない」「応接間ならOK」と通してくれました。
まぁ、確かに僕も引きこもってたから分かるんですが、何年も引きこもっていた人間の部屋って・・・ね。
「ドリーくんが引きこもり始めたきっかけって何だったんですか?」
「大学中退ですね。遠いし、授業も面白いと思えなくて。すぐ辞めちゃいました。2回も」
「2回も。僕も高校中退がきっかけです。人って中退すると、引きこもっちゃうみたいですね」
「やることないですからね。家でインターネットやっていて・・・それでブログも始めてみたんです」
「ブログを始めた理由って?」
「承認欲求です。もう、それしかない。菊池さんもそうでしょ?」
「そう。反応があると『生きてる』って感じがしますよね。社会との唯一の接点だから」
「麻薬みたいですよね。村上春樹のレビューのときはすごかった。あれで壊れちゃいました」
「あのレビューは笑いましたよ。書籍化の話はすぐ来たんですか?」
「けっこうすぐ来ましたよ。編集者から本を出さないかって言われて。未だに会ったことないんですけど」
「一緒に本を作ったのに、会ったことないんですか」
「1回、電話で話しただけですね。あとはメールです」
少しだけ部屋も見せてもらえました。床に本が敷き詰められていて、本当に足の踏み場もなかったです。歩いたら「パキッ」って何か割れる音がしました。
「本が出たときはやっぱりテンション上がりました?」
「上がったんですけど・・・周りの反応が薄くて。親に言っても『あー、そう』みたいな」
「自分から親に言ったんですね」
「『こんなんなっているけど、どうするよ?』って言ったら、『へぇ』って。それだけ」
「僕も本を出したとき、ビックリするほど反応がなかった。無風。完全にスベったなと」
「死にたくなりますよね。ツイッターで少しでも言及があれば、リツイートしちゃう。そうしなきゃ自我が保てない」
「村上春樹の新作が出たら、横に並ぶんじゃないですか」
「ファンの人が読んだら怒るんですよ。もうホント、怒られた」
「次回作ってどうなんでしょうか」
「進んでいますよ。上手くいけば来年出る予定です」
「え! 進行中なんですか。それなのにブログはあんなにテンション低いんですね。僕なんて2冊目の話、1ミリもないですよ。ブログのあれは何、ネタなんですか?」
「本音ですよ。変わんないですよ・・・本出しても、2冊目が決まっていても・・・」
せっかくなので本棚も見せてもらいました。ナンシー関、中島義道、車谷長吉をよく読んでいるんだそう。心理学や社会学の本も並んでいます。「ナンシー関、1冊だけ読みました」って言うと、「全部読まないと」と叱られてしまいました。
「菊池さんの方はLIGに入ってどうなんですか。周りの人とはどんな感じですか。楽しいですか」
「いやー、LIGなんてくだらない人間ばかりでウンザリですよ。特に上司の寺倉そめひこってやつを筆頭に」
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人物紹介:寺倉そめひこ LIGのエグゼクティブ・マネージャー。菊池の上司。すごく仕事をする人。 |
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「ブログを見ても浮いてますけど、くだらないんですか、周りは」
「特にそめひこがダメですね。ちっとも面白くないですよ。顔だけじゃないですか、あんなの」
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人物紹介:寺倉そめひこ LIGのエグゼクティブ・マネージャー。菊池の上司。すごく仕事をする人。 |
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「あの・・・もう帰ってもらえます? 晩ご飯の用意を手伝うのが日課なんですよ」
「えっ!? 引きこもりなのに毎日家族と食卓囲んでいるって、すごい精神力ですね」
「親に良い顔してないと、居づらくなるんで」
「なんだか心配だ」と岡山に来てみましたが、ドリーくんは会ってみると意外と元気そうでした。
バイトも始めているし、最初はブログに書いてあるのはネタかと思いましたが。
別れ際、「今日は一年分喋った」と言っていたので、きっと無理やり元気を出していたのでしょう。
こうして僕の岡山旅行は終わります。
行ったのは喫茶店、ラーメン屋、マクドナルド、イオンモール。ちょっとだけ岡山城にも行ったのですが「入場料800円」。悩んだ末、帰りました。
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でも、ドリーくんと会って話せたので、僕は満足です。次は観光で行こうかなと思います。
そういえば、ドリーくんと話していたら、「菊池さん、何考えてるか分からないですよ。何しに来たんですか」と言われました。
僕の本音を書きます。「やめないで」。それだけを言いたかったのです。ほんとに。
文章、音楽、動画・・・面白い人がインターネットにはたくさんいて、ぼくらを楽しませてくれるのだけど、なぜだかいつの間にかいなくなる。その度に悲しい思いをしてきた。
だから、「やめないで」。悲しいから。面白いのにいなくなった人、いっぱい見てきたから。
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