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フィギュアレビュー、本・漫画の感想など

発達障害は天才であるという幻想について思うこと

ネタ

 人気記事を読んで思ったことです。障害者の数だけ障害者の人生があるので、ぼくから見えるひとつの世界についての話にすぎませんが。
menhera.jp

 いきなり引用ですが、上の記事にはこうあります。

定型発達者は、仕事を一定のスピード、一定の作業量で行うことができます。

定型発達者Aさんの10時から16時の仕事を考えてみましょう。

1時間あたりの平均仕事量が100だとすると、Aさんは

10時:100
11時:110
12時:90
13時:80
14時:90
15時:100
16時:130

みたいな感じで仕事を進めることができます。ブレはありますが、大きくはなりません。
しかし、これがADHDのBさんだと次のようになります。

ADHDのBさん、Aさんと同じく1時間あたりの平均仕事量が100だとすると

10時:10
11時:0
12時:0
13時:20
14時:30
15時:300
16時:340

こんな感じになります。

いや冗談ではなく、本当にこんな感じになるんです。
AさんもBさんも、10時から16時の間でこなしている仕事量は変わりません(両者ともに700)。

しかし、それを一定のスピード、一定のリズムで出来るか否かが、定型発達者とADHDの大きな違いなのです。

ADHDの人間は「一定のリズムで仕事をする」ということが、本当に、壊滅的に、苦手なんです。

 



 ぼくはこれを読んでちょっといらっとしました。かなり話盛ってるんじゃないかなあと。ブコメでも書いたんですが、定型発達者AさんのMAXが130ならADHDのBさんのMAXは150がいいところなんじゃないかと思うわけです。あと0はさすがにどうなんだと。この数値をぼくなりに修正すると以下のような感じになります。

10時:20
11時:10
12時:10
13時:30
14時:40
15時:110
16時:150

 



 このくらいが現実なんじゃないでしょうか。これだと1日の仕事量が370です。定型発達者が700なので約53%の仕事量。こんなもんじゃないですか? ぼくも精神障害者で現在障害者枠で働いていてこれまでいろんな施設やイベントで障害者を見てきましたが、普通のひとの3倍弱の潜在能力を持ってる天才なんて会ったことないです。むしろみんな仕事量はかなり少ないです。
 たしかにMAXのときの能力が一時的に定型発達者を超えるひともいるのかもしれません。でもそれだけですべてを挽回できるのだとしたら、そもそも比較対象の定型発達者の能力が低すぎるだけですよね。あるいは低く見積もっているか。ここでいらっとするんです。発達障害のひとは普通のひとを見下していると感じます。要するに「おれらが本気出せばお前らの3倍できるからwおれら天才w」って言われてるように感じるんです。と同時に、なんだか危ういなあと感じるんです。




 障害者は自分がどの程度できてどの程度できないのか冷静に客観視して認識しておいたほうがいいです。自分の能力に幻想を持っていると「もっとやれるはずだ」なんて過信が生まれて危険です。自分が特別な人間だと思いたがってる発達障害のひとをたまに見ますが、「あなたは凡人なんですよ!」と言ってあげたいです。あ、いや、東大や海外の大学院で数学やってるとかそういうひとはほんとに天才だろうからいいですけどね。でも発達障害の多くのひとは凡人ですよね。スーパーモードになってやっとすこしできる凡人になれる程度の。どうしてそういう現実から目をそらして「おれら天才」になっちゃうんでしょうか。発達障害のひとができることはほかのひとにだって大体できるんですよ。スーパーモードだって普通のひとも経験するありふれた精神状態です。パフォーマンスのばらつきだってみんなそう。




 8時間じゃ仕事量が確保できないから10時間12時間働きたいなんて思考は危ないと思います。12時間で仕事量が確保できなかったら14時間働くんですか?
 8時間でスーパーモードに入れないのもそのひとの能力のうちだと思います。それならそれでスーパーモードはなかったこととして仕事の計画を組み立てて行くしかないんじゃないでしょうか。計算不可能な要素を当てにして計画立てるのは良くないと思います。というか、心身にとって危険です。スーパーモードが14時間で来なかったら? 18時間で来なかったら? 20時間で来なかったら? 「わたしはスーパーモードに入らないと仕事にならないからスーパーモードになるまで残業させてください」なんてのは危険な考えでは? というかなんで残業すればスーパーモードに入れるってあらかじめわかるんでしょうか。そんな保証はないですよね。




 ぼくは障害者枠で6.5時間しか働いてません。ぼくは人間のなかにいるとものすごく疲れるので8時間はきついです。電話応対も無理だし、視線を集めるのもだめです。雑談の声や笑い声を聞くのもきついです。やれないことはやりません。やれたとしてもそれは死ぬほど無理をしているからできるのであって、絶対に長続きしません。というか顔面蒼白になるらしく周りからとても心配されるので無茶はしません。




 障害者が就労するには自分の弱点を冷静に客観視して、ある程度コントロール(計算)可能にしておく必要があります。企業側は〈得体の知れないもの〉を怖がります。障害者がちゃんと自分の弱点をわかっていて、それへの対処はどうで、ピンチになったらどうするかと自分の中でイメージできてないといけません。逆に言えば、そういう具体的なシミュレーションができてさえいれば、企業側は障害者にどうやって働いてもらったらいいのかわかるわけです。どういう配慮をすればいいかを知りたいわけですよ。それが「8時間だと仕事にならないので残業します」はちょっと論外じゃないですか。ぼくはこんなの他の障害者に見習って欲しくないですよ。絶対病みますって。その場合その発達障害のひとが言うべきなのは、「集中力にばらつきがあって、他のひとと同じ仕事量700をこなすのは難しいですが、200くらいならできます。働きやすい環境を整えていき、最終的には安定して1日300程度できるようにします」でしょう。700を目標にするのは偉いですが、それは発達障害のひとには難しいので、それはそういうものとして現実を受け入れるべきです。そして何ができるか、どのようにしたらできるか、どのくらいできるかを明確にする必要があります。障害を持っているのだから300程度しかできなくても仕方ありません。そのかわり賃金は少ないですが(まあ結局ここが問題なんでしょうけど)。




 できないことはできないとちゃんと認識しておかないといけません。「スーパーモード時の仕事量のMAXが340だから挽回可能だぜ!」なんてのは幻想で、東大や海外の一流大学院で数学をやっていたとかそういった種類の特殊な経歴でもない限り、スーパーモードでも150程度の仕事量でしかないという現実を受け入れなければなりません。「おれは特別な存在だ!」と思いたいのはわかりますが、それではみんな不幸になります。自分はまれにいる障害持ちの天才ではなく、ごく普通の障害者なのだということ、そのことを自分で理解する必要があります。




 障害者が雇われて働くというのはこういうことであり、普通のひとと同じように700働くということではありません。いつ訪れるともわからないスーパーモードを利用して働きたいのであれば、フリーでやるしかないですね。そういう働き方をしたいというならそれもまたひとつの形ですし、能力次第ではありだと思います。しかしその場合でも自分が常人の3倍程度の潜在能力を持っているなどと過信しないほうがいいと思います。自分を過小評価するでもなく過大評価するでもなく、冷静に客観的に見つめてやらなければなりません。




 他人よりできないという事実を受け入れるのはとても悔しいことでしょう。競争が大嫌いなぼくですら悔しい気持ちは多少ありました。同級生は弁護士になったり医者になったりしているのに、自分は何をやっているのだろう、最大限頑張って年収130万って……と。でも障害があるのだから仕方ありませんし、それは自分の特性として受け入れて、さあそれで人生どうするかってことなんですよ。幻想を捨てて、地に足をつけて歩いていかなければなりません。