国会で「共謀罪」をめぐる質疑が続いている。だが、費やされた時間に比べ、議論が深まっているとはいえない。

 政府が今回の立法をテロ対策と位置づけ、「共謀罪というのは全くの間違い」(首相)としていることが、質問と答弁がかみ合わない理由の根底にある。

 経緯をおさらいしたい。

 00年に国連で国際組織犯罪防止条約が採択された。条約は、マフィアや暴力団を念頭に、重大犯罪を共謀する行為を犯罪として罰する法律をつくるよう、加盟国に義務づけている。

 これを受けて国会に共謀罪法案が3度提出されたが、強い異論があり成立に至らなかった。そこで政府は、対象を「組織的犯罪集団」に限り、犯罪のための準備行為がなされることを要件に加え、呼称も「テロ等準備罪」にすると言い出した。

 だが、犯罪が実際に行われる前の段階で摘発・処罰できるようにする本質に変わりはない。危うさをはらむ法律に、テロ対策という見栄えのいい衣をまとわせたため、そもそも何のための立法かという原点が見えにくい図になっている。

 問われているのは、人権擁護と治安保持のふたつの価値を、どう調整し両立させるかという難しい問題である。イメージに頼らず、流されず、実質に迫る審議を国会に期待したい。

 その際はっきりさせなければならないのは、法案作成や審議の前提となる条約の解釈だ。

 政府は一貫して、条約に加盟するには600超の犯罪に広く共謀罪を導入する必要があると訴えてきた。それへの疑義として「各国の事情に即した対応が認められており、現にそうしている国がある」との指摘を受けても、頑として譲らなかった。

 ところが一転、対象犯罪を減らすことも可能と言い始めた。絞り込み自体は結構だが、ずいぶん都合のいい話である。

 従来の見解が間違っていたのか。あえて過剰な法整備を意図したのか。かつての国会答弁が信用できないとなれば、これからの答弁を信用できる根拠はどこにあるのか。混乱の責任をどう考えるのか――。

 これらの疑問に対し、政府は法案が国会に未提出なのを理由に説明を拒んできた。加盟した187カ国・地域の法整備状況についても、報告をまとめたのは野党の要求から1カ月後、それも約40カ国分にとどまる。

 こうした誠実とは言い難い対応をしながら「一般市民に累は及ばない」と言われても、説得力に欠ける。議論できる環境をまず整えるのが政府の責務だ。