仕事が忙しいせいか、プレゼンで失敗する夢を見てしまった…。誰か知らない人に追いかけれられる夢を見て思わず途中で起きてしまった…。
怖い夢を見て夜中に起きってしまったり、朝起きたときの気分が下がったりしたことがある人は多いと思います。
たまにであればこんなこともあるとあまり気に留めませんが、悪夢が続くとよく眠れなかったり、眠るのが怖くなってしまうこともあります。できればせっかく眠るのだから悪夢なんて見ないようにしたいものです。
今回は、この悪夢を見る原因とその対策についてご紹介していきます。
1.夢とは
①夢の正体
そもそも夢とは一体何なんでしょうか。これは実は科学的に判明しています。
人は起きているときにはノルアドレナリンとセロトニンという神経伝達物質が多く分泌されています。
ノルアドレナリンとは、交感神経を刺激して覚醒を維持し、集中、記憶、積極性などを助ける働きがあります。また、セロトニンとは、精神を安定させたり、判断や記憶を助けたりする作用があります。
一方、眠っているときにはこの2つのホルモンの分泌量は少なくなりますが、逆に分泌が増えるものもあります。
それはアセチルコリンという物質です。
アセチルコリンは、脳の視覚、感情などの中枢を興奮させる作用があり、視覚的なイメージ形成を引き起こす信号を伝達します。このアセチルコリンによるイメージこそが夢の正体です。
また、夢は途中で急に場面が変わったり、登場人物が変わったりストーリーがめちゃめちゃになっていることが多くあります。
これはノルアドレナリンが減少しているため起こる現象です。
ノルアドレナリンは脳の中の情報を整理する働きもあります。これが少なることで情報の規則性やまとまりがなくなり、いわゆる変な夢を見ることになります。
②夢の意味と悪夢の原因
夢はアセチルコリンが見させるものとして、ではなぜ夢を見るのか、夢を見る意味とは一体何なんでしょうか。
夢分析で有名なのはフロイトですが、フロイトは夢は現実の抑圧された願望、それも性的な願望であると解釈していました。
人間社会では性的な願望をあらわにすることはよくないことで、この欲求は通常抑圧されています。
この内に秘めた性的な欲求が夢を見させているので、例えば夢の中に尖ったものが出てくれば男性器、くぼんだものが出てくれば女性器をあらわすと解釈できるというものです。
非常に面白い解釈ですが、これだと震災や戦争でつらい体験をした人がそれと似た内容の悪夢を見ることが多いという現象を説明できません。このような人がまた同じ体験をしたいという願望を無意識に持っているとは言えません。
また、強姦にあった女性もこのつらい体験を悪夢として夢に見てしまうことがありますが、明らかに願望とは異なります。
現代でも正確な夢の意味が判明しているわけではありませんが、いくつかの説が提唱されています。
いらない情報を脳から消去するため、新しい記憶と古い記憶を統合するため、覚醒時の行動をシミュレーションするためというものから、夢に特に意味などはないという説まであります。
日本の心理・社会学者である松田英子氏はこれらのどれも間違っているとは言えないことと、そして、夢には起きているときに気になっていることがあらわれるという解釈をしています。
松田氏が『楽しい睡眠。夢をデザインする』という本にて以下のように述べています。
生活をしていると、いろんな問題が身の周りに起きるものです。すぐに対処できればいいのですが、ときには解決法が見つからないこともあります。
そんなときには人は夢の中で、脳内にある情報のストックを引き出して、それを参考にしながら複雑にからまった問題を整理したり、対処法を探っているのではないでしょうか。
たしかに、仕事が忙しく連日会社に泊まっていたりすると、プレゼンを失敗する夢や上司に怒られる夢をみることがあります。
また、このように直接的ではないにしても、仕事が過去の学校の試験に変わったり、部活動の試合に変わったり、また、上司ではなく先生や先輩に変わったりして現実での悩みが過去の記憶から形を変えて夢の中であらわれてきます。
この場合、仕事の悩みを過去の緊張した場面を参考にして現実の対処法を探していると考えると納得ができます。
これらの説からすると、悪夢を見るということは、何か現実でも問題に直面していて悩んでいる、あるいはストレスを感じていてそれに対処しようと脳が働いているといえそうです。
③夢の作用
アメリカの心理学者であるロザリンド・カートライトは長期にわたる夢の研究調査から夢には感情や気分を調整する役割があると述べています。
カートライトは離婚によってうつ状態になった人たちのうつの治癒と夢の関係について調査をしました。
その中で、うつが回復した人は夢の中で別れた夫や妻が登場したり、離婚に関する夢を見る確率が高いことが分かったそうです。
また、この回復した人たちは、最初は離婚に関するネガティブな夢を見ていたけれども、徐々に分かれた夫や妻が登場しても動じなくなったり、ほかの人と楽しんでいる夢を見るようになったとのことです。
もちろんほかの要素の影響もあるとは思いますが、夢には心の傷と向き合い、それを記憶しておくことで、次第と向き合い方も変わり傷を癒す作用があると考えられます。
このことからも過去の嫌な経験が悪夢として夢に出ることは、決して悪いことではなく脳が心を癒そうとしている証拠なのかもしれません。
2.悪夢の対策
このように夢、そして悪夢には悩みに対処したり、傷を癒す効果があるといっても悪夢を連日のように見るのは辛いものです。
これにより睡眠不足になったり、現実でストレスが溜まったりしては困ってしまいます。そんなときに行うと良い対策をご紹介します。
①悪夢の内容を人に話す
悪夢を見たときの対策としてすぐにできるのが人に話すことです。
病気といえるほど悪夢に悩む人は、あまり夢について他人にはしゃべらないという傾向があるといわれています。辛いことを自分一人で抱え込んでしまうことで、悩みが解消せずさらに悪夢を見るという悪循環に陥ってしまいます。
人に悩みを打ち明けることはストレス解消にもつながりますし、悪夢の内容を人に話すことでその悪夢が現実とどのように繋がっているかがわかることもあります。
深層心理で何に悩んでいるかが明確になればその対処法もわかりやすくなります。
悪夢を見て辛いと思う方はまず人に話してみることから始めてみてください。
②イメージリハーサル
次におすすめしたいのがイメージリハーサルという手法です。
イメージリハーサルとは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)による悪夢の治療にも使われるもので、イメージによって悪夢の内容を変えてしまうという手法です。
やり方としては、以下の通りです。
- 悪夢の内容をできるだけ詳しく書き出す。
- リラックスした状態でその悪夢の意味を考える。
- 悪夢の結末をポジティブなものに変えてイメージする。
もし、悪夢にいくつか種類がある場合はできるだけ辛くないものを選んで思い出すようにしましょう。悪夢を思い出す作業自体が精神的に辛い行為なのでできるだけ負担を減らすようにします。
このイメージリハーサルを2週間ほど続けると、悪夢の内容が変化したり、悪夢を見ても冷静に対処ができるようになります。
また、イメージリハーサルによって夢の中の行動をポジティブに変えることは、現実の行動でも積極的になったりと良い影響を与えるといわれています。
最初は辛い作業になるかもしれませんが、イメージリハーサルは一つの治療法として実際に行われている手法で、効果は期待できますので試してみる価値は十分にあります。
●夢を覚えておく方法
人に話すにしてもイメージリハーサルを行うにしても夢を覚えておく必要があります。
しかし、夢の内容をあまり覚えていないという人も多いと思います。ある調査では、夢をはっきりと覚えている人は全体の8%、なんとなく覚えている人も合わせても50%に満たないことがわかっています。(※)
また、一説によると、そもそも夢は覚えていられるようになっていないとも言われています。
そこで、夢を覚えていられる方法をご紹介します。
自己暗示をかける
眠る前に『私は夢を見る』『私は夢を覚えておく』と心の中で唱え、自己暗示をかけることは夢の記憶に効果があるといわれています。
また、寝る前だけでなく昼間でも夢を覚えておくことを言い聞かせるとより効果的です。
夢を覚えている人の傾向を先ほど紹介した松田氏は以下のように述べています。
- 自分の心の状態や変化に敏感な人。
- 不安度が高く、身の周りに起きているさまざまな出来事をネガティブにとらえやすい人。
- 夢に関心がある人。芸術家タイプで、夢から何か着想を得たいと考えている人。
この3つ目のように夢について日々考えていることは夢の記憶に役立ちます。
毎日繰り返して自己暗示をかけることで脳を記憶する回路を作ることができれば、自然と夢を覚えていられるようになります。
夢日記をつける
自己暗示と同様に効果的なのが夢日記です。
起きたときは夢の内容を覚えていたけれど、時間がたつにつれて忘れてしまったという経験がある方は多いはずです。
そこで、起きてすぐ夢日記を書くことで夢の内容を記録することができますし、手で書くことによって夢を思い出す力を向上させることができます。
なにより夢日記を書くことは、夢の内容を後で見返すことができるのもポイントです。
日々夢日記を書きためておくことで、自分が夢の中でどんな感情を抱きやすいのか、どんな人や物が出てきやすいのか傾向がわかり、現実での生活と照らし合わせることができます。
④現実の問題を対処
話を戻しますが、悪夢の対策として有効なのが、現実に起こっている問題を解決することです。
これまで悩んでいること、気になっていることが夢にあらわれることについて述べてきました。
仕事で悩んでいれば仕事で失敗する夢を、家庭の問題で悩んでいれば家族の誰かが出てくるなど現実の問題と夢の内容は密接にかかわっています。(ここまで直接的な夢はまれかもしれません。)
悪夢自体を見なくするためにはこれらの問題を解決するのが最も有効です。
もちろん夢にまで出てくるということはそう簡単に解決できる問題ばかりではないかもしれません。
そのようなときには、①のように夢だけでなく悩みを人に打ち明けるのもいいでしょうし、あまり知っている人に言いたくなければカウンセラーの力を借りることもできます。
また、仕事や家庭などの問題であれば、一度距離を置いてみるのも一つの手です。
悪夢に悩んでいる方は、まずその原因となる現実の問題は何かを考え、それに対処できる方法はないかどうかを検討してみましょう。
まとめ:自分一人ではなく人の力も借りましょう。
以上、悪夢の原因やその対策についてご紹介してきました。
悪夢を日々見ることは非常につらいことです。せっかく休息している睡眠が悪夢によって怖いものになってしまっては休むこともままならなくなってしまいます。
また、悪夢のせいで日中の活動にも影響が出ている場合は『悪夢障害』という心の病気の恐れもあります。そのような場合は、うつ病などと同じように精神科やカウンセラーによる治療が必要となります。
悪夢を解消するには、自分だけで無理をせず誰かの力を借りながら悪夢とその原因である悩みに対処していくことが重要です。
悪夢に悩む人はまず誰かに相談してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
・楽しい睡眠。夢をデザインする 松田英子
・なぜ脳は、ヘンな夢を見るのか