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日系人も苦難の歴史
大統領令に警鐘鳴らす

一部の外国人の入国を禁止したトランプ大統領の大統領令に揺れるアメリカ。
75年前、太平洋戦争中に出された大統領令によって、強制的に収容所に入れられるなど苦難の歴史を送った日系アメリカ人が、今声をあげ始めています。過去の過ちを現代への警鐘としたい日系人の思いを取材しました。

75年前の大統領令

首都ワシントンにあるスミソニアンの国立アメリカ歴史博物館で、2月17日から太平洋戦争中に日系人が強制的に収容された歴史を伝える特別展が始まりました。

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特別展では、旧日本軍による真珠湾攻撃の2か月後の1942年2月19日に、当時のルーズベルト大統領が署名した大統領令9066号の原本が公開されています。
その原本には、日系人を念頭にスパイ活動が行われるのではないかという懸念が記されています。

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この大統領令によって、およそ12万人の日系人が収容所に送られ、苦しい生活を余儀なくされたのです。

特別展は1年間にわたって続けられる予定で、収容所での生活の様子を写した写真や当時、使われていた品なども展示されています。

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訪れた女性は「今この展示が行われることに大きな意味を感じます。アメリカでかつて何が起こり、将来何が起こりそうなのか考える必要があると思います」と話していました。

トランプ大統領の大統領令

アメリカではトランプ大統領が、1月27日に署名した大統領令が波紋を広げています。中東やアフリカの7か国の人の一時的な入国の禁止とともに、すべての国からの難民の受け入れの一時的な停止を命じた大統領令。
裁判所が即時停止を命じ、現在は執行されていませんが、アメリカの各種世論調査では賛否がほぼ半々となっていて世論を二分しています。

人種差別的で憲法違反だなどと抗議するデモが各地で相次いでいる一方で、国内の安全を守るテロ対策として支持する声も根強くあります。
こうした中で、アメリカでは日系人の歴史が再び脚光を浴びているのです。

人種差別と闘った日系人

IT企業グーグルは1月30日に、インターネットの検索画面のトップページに日系2世のフレッド・コレマツ氏のイラストを掲載しました。この日はコレマツ氏の誕生日でした。

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コレマツ氏は、強制収容を免れようとして逮捕され、収容所に送られましたが、強制収容は合衆国憲法に違反する人種差別だと訴え、およそ40年後、無罪判決を勝ち取った人物です。
グーグルは「何かおかしいと感じたら、声を上げることを恐れてはいけない」というコレマツ氏の言葉も紹介しました。

もう1つの大統領令で日系人は

ルーズベルト大統領の大統領令によって、日系人はどういう運命をたどったのでしょうか?

当時を語ってくれたのは、日系2世のローソン・サカイさん(93)です。
ローソンさんの一家は収容所入りはまぬがれたものの、突然現れた軍が、住んでいたカリフォルニアの土地からの立ち退きを命じました。財産をすべて失い、遠く離れたコロラドに移住させられたのです。

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「車や家、そして仕事、すべてを奪っていったのです。アメリカは、われわれが国民なのにもかかわらず、敵と見なしたのです」とローソンさん。

移住先で十分な食糧も確保できず苦しい生活を送っていたローソンさんは、ある知らせを耳にします。軍が日系人の部隊を作るという情報です。

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アメリカに忠誠心を示そうと、ローソンさんをはじめ多くの若者が志願しました。日系人の部隊はヨーロッパの戦線に派遣され、常に危険な最前線で戦いました。のべ1万4000人のうち4000人以上が死傷。ほかの部隊の3倍近い死傷率でした。

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終戦を迎え、大統領令は解かれました。しかし、その後、日系人への差別は続きました。
「報道機関や軍、政府が何年も”日本人は敵だ”と言ってきました日系人はアメリカに溶け込むことはできない。日本人の血が流れていると、いつまでもアメリカ人になることはできないのです」とローソンさんは当時の気持ちを語ってくれました。

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アメリカ政府が、この大統領令の過ちを認め、謝罪と補償を行ったのは、戦後40年以上がたってからでした。
当時のレーガン大統領は「私たちは、日系アメリカ人に対する扱いが間違いだったことを認めなければならない」と謝罪を行いました。

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抗議デモに日系人の姿

こうした苦難の歴史を経験した日系人。トランプ大統領の大統領令に懸念を強めています。2月1日、ワシントン近郊で開かれた抗議デモには日系人の姿がありました。日系4世のジェフリー・モイさんです。全米の日系人で作る団体の副代表を務めています。

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この日系人団体は、大統領令について排外主義的なやり方だとして反対する声明を発表しています。
モイさんはおよそ1000人の参加者を前に「困っている人たちに対しドアを閉ざすことは受け入れられない。移民や難民の権利が脅かされている時、必ずわれわれ日系人社会がその権利を守り続ける」と演説しました。

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モイさんは祖母から日系人の歴史について聞いてきました。当時、18歳だった祖母のフローレンス・ヤスイさんも、戦時中、多くの日系人と同じように収容所に送られ、およそ3年間厳しい生活を余儀なくされました。差別の歴史が繰り返されてはならないと立ち上がったモイさん。
取材に対し「罪のない人たちが狙い撃ちにされるのはばかげています。歴史から教訓を学ぶことが重要であり、同じような過ちを繰り返してはなりません」と話しました。

トランプ大統領も見てほしい

モイさんの団体は日系人の歴史を伝える、スミソニアンの国立アメリカ歴史博物館での特別展を資金面から支援しています。
特別展を通じて、過去の過ちを教訓にして、移民や難民の権利を守る大切さを再確認してほしいと考えています。

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モイさんはインタビューの最後にこう述べました。
「政治に携わる人が国の歴史を理解し、その教訓を役立てることが大切だと思います。
トランプ大統領やトランプ政権の人々もこの展示を見て今の政策について考えてほしい」。

日系人の思いは届くのか。分断が深まるアメリカで今、日系人にふりかかった苦難の歴史を見つめ直そうという動きが広がっています。

広内仁
ワシントン支局
広内仁 記者
笹川陽一郎
おはよう日本
笹川陽一郎ディレクター