クアラルンプール国際空港で起きた金正男(キムジョンナム)氏殺害事件が新たな段階に入った。
マレーシア警察当局が、在マレーシア北朝鮮大使館の2等書記官が事件に関与しているという見方を明らかにした。北朝鮮は速やかにマレーシア側の要請に応じ、書記官を出頭させるべきである。
マレーシア警察は、北朝鮮国籍の男4人も指名手配している。4人は事件直後にクアラルンプールの空港から出国し、平壌に戻ったという。4人の身柄も、マレーシア側に引き渡されねばならない。
北朝鮮の国営メディアはきのう、初めて事件について伝えた。外交旅券を所持する北朝鮮の国民が病死しただけなのに、マレーシアが勝手に司法解剖したことで問題が複雑化したという内容だ。死者の身元は明らかにしていない。
北朝鮮の意向に反して解剖したことは外交特権を無視したウィーン条約違反だという主張だが、それは外交特権の意味を履き違えたものだ。本当に外交官であったとしても、赴任先以外の国での犯罪被害で死亡した場合にまで条約の特別な保護が適用されるわけではない。司法解剖は当然の手順だった。
毒殺説が流されたのは韓国の謀略だというのが北朝鮮の主張である。朴槿恵(パククネ)大統領と情報機関などが、大統領に対する弾劾訴追で混迷する政局の沈静化につなげようとしたのだという。理解に苦しむ論理だ。
北朝鮮はマレーシア警察の捜査を「問題点と疑問点ばかりだ」と非難した。解剖の結果が発表されても受け入れない姿勢を示唆した。
北朝鮮は共同捜査を提案してもいる。しかし、マレーシアで起きた事件を現地警察が捜査するのは当たり前だ。北朝鮮の提案は、捜査をかく乱させるための方便ではないのか。
そもそも北朝鮮の国家機関による犯行であるなら、国家意思として他国の法を踏みにじったことになる。マレーシアが強い不快感を表明するために平壌から大使を一時帰国させたことは当然だ。
北朝鮮はかつてビルマ(現ミャンマー)で爆弾テロ事件を起こし、友好国だったビルマとの国交断絶に追い込まれた。
北朝鮮国民が査証(ビザ)なしで入国できる唯一の主要国であるマレーシアとの外交関係も、深刻な事態に陥る恐れがある。自国民が北朝鮮から唆された可能性があるインドネシアも不快感を強めているようだ。
東南アジアには、東西冷戦期の非同盟運動からの流れで北朝鮮に好意的な国が多い。今回の事件で北朝鮮は国際的な孤立を一段と深めることになるだろう。