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元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」

邪魔なら兄をも殺す国を隣に、韓国の絶望的な危機感欠如

武藤正敏 [元・在韓国特命全権大使]
【第19回】 2017年2月20日
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 現在の金正恩氏は父正日氏以上に、感情が激しく、何をするかわからない人物である。金正日氏時代には、北朝鮮は“瀬戸際外交”(強硬な態度で脅し、自分たちの欲しいものが手に入ると対決色を薄める外交)であるといわれた。

 これがオバマ政権の“戦略的忍耐政策”(北朝鮮の態度が変わることを待つ政策)になったのであろう。

 ところが結果的に、金正恩体制は核保有宣言を行い、昨年は2度の核実験と20回以上のミサイル発射を繰り返したのである。これはもはや瀬戸際外交ではない。北朝鮮の強硬姿勢に、より危機感を感じなければならない。

 現在、次期韓国大統領候補として世論調査で首位を走っている「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)氏は、自らが大統領になれば、「開城工業団地と金剛山観光を直ちに再開する」と明言している。また、同氏は米国の最新鋭地上配備型迎撃ミサイルTHAADの在韓米軍への配備についても「次の政権で検討すべきだ」と訴えているが、これは事実上撤回するという意味でもある。

 こうした状況に、「朝鮮日報」は社説で、「韓国の大統領候補者たち、それでも『親北」を続けますか?』として危機感を募らせている。

 親北系の政治家は韓国が北朝鮮に対し敵対的な態度をとらなければ、北朝鮮も今のような挑発的な態度は取らない、朴大統領の強硬姿勢が北朝鮮の挑発的行動に火をつけた、と言うであろう。

韓国が置かれている状況を考えれば
朴大統領の弾劾を急ぐ時ではない

 しかし、繰り返すが、自分の統治に邪魔になるものはことごとく排除するのが北朝鮮の最高指導者であり、自分の兄である金正男氏さえ無慈悲に殺害したのである。韓国の繁栄は、北朝鮮にとって絶大な脅威であり、それを許すはずがない。金大中氏の北朝鮮融和外交の間も北朝鮮は核ミサイル開発を続けてきたではないか。その反省はどこに行ったのか。

 北朝鮮が13日に発射したミサイルは移動式で、しかも固形燃料を使用しており、発射後再点火するなど技術的進歩が顕著であった。発射の兆候を事前に察知するのが非常に難しくなったと言われている。発射角度も飛行距離を抑えるためほぼ垂直に打ち上げられており、従来型の迎撃ミサイルでは落とせないとの専門家の見方である。

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武藤正敏 [元・在韓国特命全権大使]

むとう・まさとし 1948年生まれ、1972年横浜国立大学経済学部卒業。同年、外務省入省。在ホノルル総領事(2002年)、在クウェート特命全権大使(07年)を経て10年より在大韓民国特命全権大使。12年に退任。著書に「日韓対立の真相」、「韓国の大誤算」(いずれも悟空出版)。


元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」

冷え込んだままの日韓関係。だが両国の国民は、互いの実像をよく知らないまま、悪感情を募らせているのが実態だ。今後どのような関係を築くにせよ、重要なのは冷静で客観的な視点である。韓国をよく知る筆者が、外交から政治、経済、社会まで、その内側を考察する。

「元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」」

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