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元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」

邪魔なら兄をも殺す国を隣に、韓国の絶望的な危機感欠如

武藤正敏 [元・在韓国特命全権大使]
【第19回】 2017年2月20日
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 私は、これは正しい判断であると考える。しかし、韓国の国会は朴大統領に対する弾劾決議を可決し、憲法裁判所の判断を待つ間、大統領は職務停止中である。北朝鮮の核ミサイルの実戦配備の時期が時々刻々と迫っている時に、である。

 韓国の国民が崔順実(チェスンシル)容疑者の事件が発覚してから、朴大統領に対する不信感を強め、いかに努力しても報われない社会、それを変えると公約して大統領になりながら、財閥と密着し、密室政治を行い、自分たちの生活は一向に改善してくれない大統領に対し、怒りに任せて退陣を求めた背景については前回の寄稿(「韓国人に生まれなくて良かった」元駐韓大使が心底思う理由)で明らかにした。

 しかし、国民の気持ちは気持ちとして、国の安全保障の観点、国益の観点から国政を担うのが責任ある政治家の責務といえる。朴大統領にいかに不満があっても、国の安全保障のためには、国民を説得しなければならない。

 にもかかわらず、このような政治家は皆無であり、次の大統領を目指す者は“アンチ朴一辺倒”である。

 韓国の大手メディアも「政治家は世論に流され、自らリーダーシップを発揮することが少ない。政治的な抗争を激化させることはしても、これをまとめ、調停することは少ない。世論に迎合することは言ってもこれに反論することはしない」と嘆いている。その通りだ。

もはや北朝鮮の強硬姿勢は
瀬戸際外交の範疇ではない

 それ以上に、そもそも北朝鮮に対し、誤った認識を持つ政治指導者が韓国にはいる。同じ民族であるから韓国が手を差し伸べれば、北朝鮮はこれに応えてくれるだろうという幻想を抱いているようだ。

 故金大中(キムデジュン)元大統領の“太陽政策”がそれだ。日米韓という周辺諸国が北朝鮮に対し強硬な姿勢をとればますます殻に閉じこもるとして、イソップ物語の「北風と太陽」の寓話のように暖かく太陽で照らし、まずは殻から引き出すことが重要であると信じ、北朝鮮に対し宥和的な政策をとった。

 金正恩氏の父、金正日(キムジョンイル)氏と初の南北首脳会談を行い、現代グループの金剛山観光事業を認可、さらには同グループを通じ、5億ドルほどが北朝鮮に渡ったと言われている。しかし、この金は北朝鮮の住民の食糧とはならず、核ミサイル開発に使われたに違いない。

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武藤正敏 [元・在韓国特命全権大使]

むとう・まさとし 1948年生まれ、1972年横浜国立大学経済学部卒業。同年、外務省入省。在ホノルル総領事(2002年)、在クウェート特命全権大使(07年)を経て10年より在大韓民国特命全権大使。12年に退任。著書に「日韓対立の真相」、「韓国の大誤算」(いずれも悟空出版)。


元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」

冷え込んだままの日韓関係。だが両国の国民は、互いの実像をよく知らないまま、悪感情を募らせているのが実態だ。今後どのような関係を築くにせよ、重要なのは冷静で客観的な視点である。韓国をよく知る筆者が、外交から政治、経済、社会まで、その内側を考察する。

「元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」」

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