関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)が新規制基準に適合する、との審査書案を原子力規制委員会がまとめた。

 大飯3、4号機は、福井地裁が14年に運転を差し止める判決を出し、安全性に重大な疑問が投げかけられた。福井、京都、滋賀の3府県にまたがる30キロ圏には約16万人が暮らすが、事故時にスムーズに避難できるかという難題も残ったままだ。

 朝日新聞の今月の世論調査では、原発再稼働に57%が反対し、賛成のほぼ2倍だった。東京電力福島第一原発事故から来月で6年たつが、国民の不安はぬぐえていない。

 関電は3、4号機を早ければこの夏にも再稼働したいとするが、とうてい賛同しがたい。

 大飯原発の周辺には複数の断層がある。地裁判決が最も懸念したのは、想定を上回る地震が起き、原子炉や使用済み核燃料プールが壊れる恐れだった。

 関電は控訴する一方、想定される最大の揺れ(基準地震動)を引き上げた。安全対策工事には1220億円を投じる。

 だが、前規制委員長代理で地震学者の島崎邦彦氏が昨年4月の熊本地震の観測データを踏まえ、関電の計算手法では揺れが過小評価されている可能性がある、と異議を唱えた。

 規制委は再検討の結果、「根拠がない」(田中俊一委員長)と島崎氏の主張を退けたが、周辺住民らの懸念は強まった。

 大飯を含め、関電の三つの原発の使用済み核燃料プールは満杯が近い。関電は30年ごろに福井県外に中間貯蔵施設をつくり、搬出するとしているが、具体的なめどは立たぬままだ。

 関電の高浜原発では1月、工事用の大型クレーンが倒れ、建屋の一部が損傷した。関電が暴風警報の発令を施工業者に伝えず、業者もクレーンを事前にたたまなかったためという。

 自然現象のリスクを甘く考えず、最大限の措置をとる。それが事故の教訓ではなかったか。再稼働に前向きな福井県からでさえ、「関電の原発運営に十分な信頼を置くことは難しい」(副知事)との声が上がる。

 今後は地元同意手続きが焦点になる。関電は、安全協定に基づく事実上の「同意権」を持つのは福井県とおおい町だけ、との姿勢を崩さないが、もし事故があれば琵琶湖が汚染されるなど、被害は関西に広く及ぶ。

 とりわけ、住民が避難する可能性がある地域の理解なしに、再稼働を進めてはならない。京都、滋賀両府県を含め、少なくとも30キロ圏の自治体の同意を得るよう、改めて求める。